155:実家に帰省したな〜って感じ
「ピエッ、ピエッ、ピエッ」
生まれたてホニャホニャの雛が、可愛らしく鳴き声を上げている。
「きゃ、きゃわゆいねぇ~♪ 食べちゃいたい~♪」
俺の両手にスッポリと収まるほど、その体は小さい。
羽毛は薄い黄色をしていて、もうなんていうか、ほっわほっわだ。
目の離れ具合とか、嘴の形なんかは既にダッチュ族そのもので、はっきり言うと、憎めない感じのぶちゃカワなお顔である。
「じゃろ? 焼き鳥にしたらさぞ美味いはずじゃ~」
隣でテッチャが恐ろしい事を口走る。
幸い、周りのダッチュ族の子供達には聞こえなかったようだ。
食べちゃいたいって、そういう意味じゃないからっ! 例えだからっ!!
「あ、モッモ! 来てくれたんだね!!」
出掛けていたポポが、家に戻って来た。
「やぁポポ! おめでとう!! えっと……、雛達の誕生、おめでとう!!!」
「うふふ、ありがとう♪ とりあえず、これであたいも一安心だよ! 卵から孵りさえすれば、後はあたい達がちゃんとお世話して育てられるからねっ!!」
何やら、出会った頃よりかなりお姉さんな雰囲気になったポポが、隣でニコリと笑う。
卵から孵った雛は全部で九羽。
まだ孵っていない卵はあと三個。
……というのも、さすがに子供が温めたのでは無理があったのだろう、あの惨劇から生き残った十七個の卵のうち五個は、随分前に冷たくなってしまっていたそうだ。
旅に出る俺に心配を掛けないようにと、みんな黙っていたらしい。
なんとかあと三個を無事に孵すんだ! と、ポポは意気込んでいた。
「卵が駄目になったと聞いて、残りをガディスが温めてくれたんじゃよ」
「あ!? え、そうだったのっ!??」
「うん♪ 夜は冷える日もあったから、あたい達じゃどうにもできなくて……。ガディス様がいてくれて、本当に助かったんだ!」
そっかぁ……
さすが守護神ガディス様だ、後で会いに行ってお礼を言わなきゃな。
しかし、それにしても……
「ピエッ! ピエッ!!」
「ピピピピッ! ピエェッ!!」
「ピエーッ! ピエーッ!! ピエーッ!!!」
……うん、五月蝿い。
とてつもなく、五月蝿いね。
バーバー族がここに居られない理由がよくわかるわ。
九羽の雛達は、それはもう元気に泣き喚いている。
お腹が空いたり、ウンコやオシッコで敷いてある藁が汚れたりすると、こうして知らせてくるらしいのだが……
一羽が泣き出すと、周りも合わせて泣き出す始末。
ようやく静かになったと思っても、別の雛が泣き出して、ものの五分も経たないうちに、ピエピエ大合唱が始まるのである。
こりゃもう、身内なら耐えられるだろうけど、他種族の者にはキツイだろうな。
……かく言う俺も、可愛い雛達をずっと見ていたい気持ちとは裏腹に、よく聞こえる耳が限界にきている。
「と、とりあえず、テッチャの家に行こうかな~、ははは~」
キーン、という耳鳴りを感じつつ、ダッチュ族の家を後にする俺とテッチャ。
可愛いけど……、もう少し落ち着くまでは近寄らない方が良さそうだな、自分の為にも。
「いやぁ~、なかなかに凄い声で鳴くじゃろ?」
「あ、うん……。ちょっと、耳がやられたよ」
「ガッハッハッ! じゃろ? そうならん為に、ほれ、わしは耳栓をしておったぞ!!」
耳からズボッと、短い木の枝を抜き出すテッチャ。
……何それ、知ってたのなら俺にも耳栓、用意しておいてくれよ~。
……いや、やっぱりいいや、木の枝の耳栓とか怖くて出来ないわ。
草花が生い茂る森をテクテクと歩く。
太陽はまだ高い位置にあって、テトーンの樹の葉の香りがする風が吹き抜けて気持ちいい。
テトーンの樹の村復興計画は順調に進んでいるようで、以前はただの平地だった場所に大きな畑が出来ていたり、建築が始まったばかりなのであろう家の土台のような物があった。
テッチャの指示で作業をしているピグモルやバーバー族たちに手を振りながら、俺とテッチャは、小川の向こうのテッチャの家へと向かった。
相変わらず、作業場としか思えないテッチャの家には、また沢山のウルトラマリンサファイアの原石が拾い集められていた。
磨く作業はこれからなようで、雑然と大きな籠に放り込まれている。
「で、木の蔓は手に入ったのか?」
「あ、うん、買ってきたよ! ダイオウカズラっていう木の蔓らしいんだけど……、ん~よいしょっ!!」
鞄の中から、木の蔓の束を一つ取り出す俺。
俺の体より大きなその蔓の束を見て、テッチャが感心する。
「こりゃまた、予想以上に良いもんを買ってきてくれたのぉっ!?」
「そう? なら良かった♪ 道具屋四軒も回ったんだよ~、子供扱いされたりして大変だったんだぁ~」
「ガハハッ! おめぇは小せぇからのぉっ!!」
……そんなハッキリ言わなくても。
「どんくらいある? ざっと見て……、一束30トールほどの長さか??」
「おぉ、さすがだね。ちょうど一束30トールだよ。それを百二十個買ってきました!」
「おぉっ!? さすがじゃの、それだけあれば充分な物が作れるわいっ!!」
「うん! でも、どこに置いておこうか? ここだとちょっと……、いや、全部は出せないなここじゃ」
「なら外にでも積んでおこうかの。明日の朝一から作業に取り掛かるとしよう!」
その後、俺とテッチャは、二人で雑談しながら木の蔓を全て鞄から取り出して、テッチャの家の真横に積み上げた。
なかなかの迫力の蔓の山に、この魔法の鞄の偉大さを改めて感じた俺であった。
「ふいぃ~、なかなかの重労働でした……」
再びテッチャの家に入って、唯一の寛ぎスペースであるテッチャのベッドに腰掛ける俺。
木の蔓を鞄から出す作業は、なかなかに腕の筋肉を痛めつけてくれた。
「しっかしまぁ、それでよくぞプラト・ジャコールなぞと戦えたもんじゃの」
感心半分、小馬鹿半分でテッチャが言う。
「戦ったのはギンロだよ、僕は呪いをかけていただけ~」
「ふむ……。して、今は金に問題はないんじゃな?」
「あ、うん、今は大丈夫だよ。一時はどうなる事かと思ったけどね」
「まぁ、武器防具は必要じゃからの。ちぃと高くても良いもんを買う方がええ」
テッチャは慣れた手つきでお茶を入れてくれた。
木製の湯のみを手渡され、コクッと一口飲む。
……うん、ピグモルのお茶だな。
まだ数日しか村を離れていないのに、なんだか懐かしい気持ちになる俺。
実家に帰省したな~って感じ。
「じゃがまぁ、金の心配はせんでええぞ。昨晩、南支部のボンザから伝書バッドが届いての。裏ルートで売りに出す予定のウルトラマリンサファイアが、かなり良い値で売れそうらしい、ぐふふふふ」
「あ、そうなんだ! ……伝書バッドって何?」
「ん? あ~、ほら、あれじゃよ。暗闇の中で手紙を運んできてくれる、こんな奴じゃ」
両手を横に広げて、バタバタと動かすテッチャ。
へ~、なるほどそういうやつね~、……ってわからんわ。
「まぁ、売れそうなら良かったね♪ 今回、お金の大切さっていうのを改めて感じたよ~。次からはちゃんと考えて使うようにする~」
「じゃな。あれじゃよ、金は貯めるに限るぞ?」
「あ~銀行に?」
「そうじゃ。わしなんか、上限額いっぱいまで貯めておる口座が三つもあるでの!」
……上限額の口座が三つって、どんだけ金持ちなんだよおい。
てか、上限額っていくらだ?
そんなにあるなら少し分けておくれよ。
……などと思いつつ。
ここ数日の出来事をテッチャに話して聞かせる俺は、日が暮れるまで楽し~く、喋り倒したのであった。
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