154:自然に溢れたお店

「すみませ~ん! 木の蔓、売ってませんかぁ?」


「ここにはないよ、他を当たってくんな~」


テクテクテク


「すみませ~ん! 木の蔓、売ってませんかぁ?」


「申し訳ございません、こちらにはそのような物は……」


テクテクテク


「すみませ~ん! 木の蔓、売ってませんかぁ?」


「木の蔓? それなら、向かいの道具屋に行ってみな??」


お! 有りそうだ!?


テクテクテク


「すみませ~ん! 木の蔓、売ってませんかぁ?」


「あ、はい! あら? ふふふ♪ ありますよ~♪」


おぉっ! 良かったぁ!!


四軒目に訪れた道具屋にて、俺はようやく木の蔓を発見!

しかも、店員がなかなか可愛らしい女の子の獣人である!!


体の大きさは、俺より頭一個分ほど背が高いくらい、光沢のある灰色の毛並みが綺麗で、お顔がとってもキュート♪

小さいながらもクリッとした目、小さなピンクの鼻、耳は垂れ下がっていて、お口からは長めの前歯が覗いている。

……うん、なんだかヌート族っぽいね。

初めて見るはずなんだけど、なぜだかわかっちゃったよ。


「どんな木の蔓をお探しですか? 当店では、主に植物から採取できる物を揃えておりますので、木の蔓も数種類用意してますよ♪」


なるほど、それでなかなか、緑が多い店だな~って思っていたんだ。

お花屋さんにしては葉っぱの方が多いし、道具屋にしては薬草ばかり置きすぎでは? という感じの、店内のそこかしこが植物で埋め尽くされている。

でも嫌いじゃないな、こういう自然に溢れたお店♪

それにこの子、とっても丁寧に優しく話してくれる♪

それだけでもう、お店の好感度アップだぜ!!


「えっと……、例えばなんですけど……。僕のような小さな体の獣人が木の上で生活するために、木の蔓で大きな籠を編んで、それを家として使おうとした場合に、どんな蔓ならそれが可能ですか?」


店員の可愛らしい女の子は、まさに「・・・・?」といった顔になる。

心の声が聞こえたならば、「何言ってんだこいつ、頭大丈夫か?」と言っていそうだ。


けどお願い! 勘違いしないでっ!!

決して俺が住む家じゃないんだっ!!!

例えばの話として聞いてくれぇっ!!!!


と、叫びたいのを我慢しつつ、女の子の返答を待つ。


「えっとぉ……、それはつまり……。籠が編めるほどに柔軟で、尚且つ強度のある木の蔓をお探し、という事ですかね?」


「そっ!? そうなんですっ!! 分かってくれてありがとうっ!!!」


俺の妙なテンションに、苦笑いする女の子。


「それだったら……、はい、ございますよ。ちょっと在庫を見てきますので、お待ちくださいね♪」


「はっ! はいっ!! ありがとうっ!!!」


ニコッと微笑んで、店の奥へと引っ込む女の子。


あぁっ! 優しい子で本当に良かったっ!!


女の子が見えなくなったのを確認し、小さくガッツポーズする俺。

どうにか、テッチャに頼まれた木の蔓を用意出来そうだ。

問題は……、値段だけど……


「こちらになるんですけど……。これは、タジニの森の入り口付近に群生している、ダイオウカズラという植物の蔓なんですけど」


そう言いながら、女の子が店の奥から持ってきたのは、まるで蛇のようにクネクネした茶色い蔓だ。

俺の腕より明らかに太いその蔓は、かなり丈夫そうに見えるし、長さも申し分ない感じ。


「普段は一本10トール程の長さに切り揃えて売っていますが、ご希望ならば切らずに、30トール程の長さのままお売りする事もできます。強度の割には柔軟性があるので、お客様の仰った用途ならばピッタリかと♪」


なるほど、一本30トールもあるのなら充分だろう。

一応、手に取ってみて、手触りと強度を確かめる俺。

表面がザラザラしてて気持ち悪いけど、かなり頑丈そうだ。


「うん、大丈夫そうだな……。これにします!」


「ありがとうございます♪ では、えっと……、あ、どれくらいご入用ですか?」


「あ~、じゃあ……、あるだけ全部ください!」


「え……。えぇっ!??」


俺の言葉に、小さな可愛い目を真ん丸にして驚く女の子。

しかし、バーバー族の家を造るとなると、どれだけの蔓が必要なのか見当も付かないのだ、出来るだけ沢山貰っておいた方がいいだろう。


「あ、その、えっと……。失礼ですけど、お代金はお持ちで……?」


あ、そうだ、値段聞いてないや。


「あ、ごめんなさい、幾らですか?」


「は、はい、えと……、一本30トールで300センスになります」


お、良かった、思っていたより安い!


「それなら大丈夫です! 在庫はどれだけありますか? 全部欲しいのですが」


「えっ!? やっぱり全部っ!?? わ、わかりました……。ちょっ、ちょっと待っててくださいね、在庫を確認してきます!」


わたわたと慌てた様子で、店の奥に引っ込む女の子。

すると、何やら奥でこんな会話が……


「おとっちゃん! 店に妙な子供が来て、ダイオウカズラの木の蔓をありったけ売ってくれって言うんだけど!?」


「あぁあんっ!? なんじゃそりゃ!?? 舐めとんのかっ!???」


「わ、わかんないっ! ちょっと、おとっちゃん店出てよっ!!」


「親はどうした親はぁっ!?」


「それが、一人なんだよぉっ!? 親も見当たらないし、冗談で言っているようにも見えないし~」


パニック気味に話す女の子と、お父さんなのであろう男の罵声が聞こえて来た。


……そっか、俺、子供に見られてたんだな。

だからあの子、あんなに優しい喋り方をしていたのか。

なるほど、そっかそっか。


……くっ、俺は子供じゃないぞおっ!

どこの世界に、道具屋の木の蔓を買い占める子供がいるっていうんだ畜生っ!!


その後、おとっちゃんと呼ばれていたこの店の店主である親父ヌート族が奥から出てきて、親は何処だ? だの、子供が買い物ごっこするんじゃねぇ! だの、いろいろと言われたが……

身分証明書を提示して、年齢を確認してもらい、叱責した事を謝って貰った俺は、無事に木の蔓を購入する事ができた。

一本30トールが300センス、それを百二十本買ったので、お値段は合計36000センス……、余裕である。

魔法の鞄に次々と、巨大な蔓の束をしまい込む俺の様子を、口をあんぐり開けながら見守る女の子と店主の親父。


「あの~、足りなかったらまた買いに来てもいいですか?」


購入した蔓全てを鞄に入れた俺は、親父に尋ねる。


「あ、お、おう、喜んで……。い、一応、次のダイオウカズラの入荷は二週間後なんで」


戸惑いながらも、そう答えてくれた。


「分かりました、ありがとうございました!」


ぺこりとお辞儀をして、店を後にする俺。

背後では小さく、「お買い上げ、ありがとうごさいました~」という、女の子の声が聞こえていた。


さ~て、無事に木の蔓を購入出来たぞ!

じゃあ一度、テトーンの樹の村に戻るとするか!!


テクテクテクと、足取り軽く、町の東大通りを歩き、もはや顔見知りである犬の獣人の門衛さんに鉄門を開けてもらい、町の外に出る俺。

門衛さんは、「一人じゃ危なくないかい?」とたいそう心配してくれたが、「すぐ戻るので大丈夫です」とだけ返しておいた。


港町ジャネスコの東側の鉄門から少し離れた場所、大きな木の根元に、サクッと黒い爪楊枝を指す俺。

ボンッ! と音を立て、白い煙を上げて、そこに導きの石碑が現れた。


よっし! これで準備はオッケーだ!!

じゃあ、久しぶりにあれをやりますかねっ!?


「テトーンの樹の村まで、ワープ!」


上機嫌なまま声に出し、俺はテレポートした。

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