152:こちらテッチャ!!!

「じゃあ、おいらとギンロはこのまま駐屯所へ行ってくる!」


「グレコを頼んだぞ、モッモ」


何やら国営軍の駐屯所で魔法剣の練習をすると言うカービィとギンロと別れたのが三十分前。


「はう~、ちょっと寝るね~」


宿屋、隠れ家オディロンに戻り、ほろ酔い気分のグレコがベッドに倒れこんだのが五分前。


現在俺は、今から何をしようか考え中である。

スヤスヤと、気持ちよさそうに眠るグレコを横目に見つつ、部屋を物色する俺。

しかし、特にめぼしいものはない。

別に出掛ける用事もないし……


おもむろに、神様から貰った世界地図を取り出して、地図上で点滅する光を眺める。

黄色の光は神々の光、青色の光は俺が建ててきた導きの石碑の光だ。

……うん、青色の光は少ないけど、それでもこれだけ沢山の場所に行ったんだなと思うと、感慨深いものがあるな。


この世界地図は、俺が認識した場所の地名が現れるという優れ物で、今いるこの場所、《港町ジャネスコ》の文字が追加されていた。

まだどこにあるかわからない、モントリア公国の首都であるモントール市と、そこから更に北にあるというタジニの森は、地図上には文字が現れてない。

でも、いつか必ず行くぞ! と決意する俺。

なぜなら、この港町ジャネスコより北に位置する土地には、いくつもの黄色い光が点滅しているのだ。


たまに忘れそうになるが、俺の旅の目的は、世界中の神様の様子を見て回る事、である。

つまり、この世界地図で点滅している黄色の光を目指して、長く長い旅をしなければならないのだ。

……あまりに沢山点滅しているので、少々気が滅入るんだけども。

とにかく! いずれ、このワコーディーン大陸を更に北上する必要がある、という事だ!!


幻獣の森で、ブラッドエルフたちの間で闇の魔獣と呼ばれていたガディスと初めて対峙した時に、なぜか光の精霊である光王レイアが俺を助けてくれて、彼女が自分の国に来いと言うので、とりあえず、光王レイアが治めているという精霊国バハントムを目指して、ここよりずっと南にあるパーラ・ドット大陸へと船で渡るわけであるが……

よくよく考えてみれば、なぜ行かなくてはならないんだろうな?


ガディスの攻撃から助けてくれたお礼は言いたいとは思うけど、光王レイアは何故に俺を呼んだのか……

それも、世間一般的には何処にあるのか定かじゃない、行き着くまでにとても苦労しそうな精霊国にわざわざ呼ぶとは……

光王レイアは、なかなかのドSなのかも!?

……冗談はさておき、確か、導いてあげるとかなんとか、言っていたっけか? う~ん、よく覚えてないや。

まさか、何か、とてつもなく重大な何かが待ち構えているとか……?

……いやいや、それはないだろう、うん。

……いや、ないと思いたいです、はい。


正直、旅は思っていた以上に楽しい。

仲間も出来たし、いろんな景色を見られるし、いろんな種族に出会えるし。

けどこう、なんていうか、このペースを乱したくないんだよね~。

のんびりと、楽し~く、旅をしていきたいのよね~。


もし万が一、光王レイアが俺に、とてつもなく重大な事を頼んだらどうしよう……?

それだけが今、ちょっぴり不安だな~。


しかし、あまり不安がっていても損をしそうなので、今を楽しもうと思い直す俺。

パタンと世界地図を閉じて、部屋の窓へと向かい、海から吹く潮風に当たる。

この数日で慣れたのか、鼻がピリピリする事ももう無くなっていた。

港に並ぶ大小様々な船を眺めつつ、いったいどれが俺たちの乗る商船なんだろうなぁ~? とボンヤリ眺めていた。


すると、何処からともなく声が聞こえてきた。


「モッモ、モッモ、聞こえるかぁ~?」


「えっ? この声は……、あ、えっ!? テッチャ!??」


「おぉ! 聞こえたかっ!! こちらテッチャ!!!」


どうやら、神様アイテムの一つ、絆の耳飾りを使って、テッチャが遠くテトーンの樹の村から連絡をしてきたらしい。

耳元で、もう既に懐かしく感じられる、テッチャの声がするのだ。


「いきなりどうしたのっ!?」


「知らせておきたい事があってな、使ってみたんじゃ!」


「え、何かあったの!?」


「おう、実は今朝方、ダッチュ族の雛が卵から孵ってのぉ!」


「おっ、おぉ~! 遂にっ!!」


「んでな、一羽孵ったかと思ったらもう次々に孵ってのぉ! もう村中お祭り騒ぎなんじゃよ!!」


「あ~、想像できるわそれ~。いいね、楽しそう♪」


「まぁ~楽しいのぉ! より賑やかになっておる!! しかしじゃな、困った事があってな」


「……うん」


「今現在、テトーンの樹の村復興計画が絶賛進行中なんじゃが……。ダッチュ族の雛たちが生まれた事によってな、バーバー族の家を早急に造らにゃいかんのじゃよ」


「あ~、今はダッチュ族の家で共同生活してたよね、確か」


「そうなんじゃが、雛たちが生まれて手狭になったのと、四六時中ピーピー鳴くのとで、バーバー族たちが参ってしまっての。一時的に、バーバー族たちはピグモルたちの家に避難しておるんじゃが、ずっとという訳にもいかんじゃろ?」


「うん、そうだね」


「でじゃ、先にバーバー族の家を造ろうとしたんじゃが、奴ら、以前住んでたような蔓の丸い家じゃないと住みとぉない! などと言い出してのぉ」


「ほ、ほほう……。我儘言ってるのね?」


「まぁそういう事じゃの。じゃが、わしとしては、出来る限りバーバー族の希望に添いたいと思うておる。そこでじゃモッモ、おめぇさん、一度こっちに帰って来れんか?」


「ん? あ、うん、別に大丈夫だけど??」


「そうかそうか! でじゃ、今ジャネスコにおるんじゃろ? そこなら、探せば木の蔓くらいあるんじゃねぇかと思ってのぉ」


「あ~、なるほどそういう事ね。さすがに、マッサのギルド屋にも木の蔓は売ってなかったしね」


「そうなんじゃよ。じゃから、丈夫そうな木の蔓を探して、買って帰ってきてくれんか? 出来るだけ早急にじゃ!」


「オッケー♪ ちょうど今暇してたから、すぐに買って一度戻るね~」


「おう、頼んだぞ! んじゃまた後での!!」


「うん、バイバ~イ♪」


テッチャの声が返ってこないことを確認して、俺は窓辺を離れて財布を漁る。

今現在、手元にあるのが285000センス。

昼間の食事代が高かったのでこの額だ。

カービィいわく、商船の乗船券はおそらく一人四万だろうとの事だった。

結構高いな~っと思ったが、四人部屋を借りるとなるとそれくらいするだろうと言っていた。

となると、宿代と後数日の昼食代を残すとして、使えるお金は100000センスほどだろうか……

まぁ、木の蔓に、そこまでかからないとは思うけどね。


「グレコ~?」


……呼びかけてみるも、熟睡しきっていて返事はなし。

仕方ないなぁ~。

よしっ! こうなりゃ、俺一人で買い出しに行こうっ!!


よいしょと鞄を肩にかけて、足早に部屋を後にする俺。

まるで、初めてのお使いに出る子どものように、ウキウキしながら町へと繰り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る