151:一旦その事は忘れろ

「モグモグモグ……、ゴックン! そういやさ、あの銀行にいた小さな種族、彼らは何なの? ほら、羽が生えてて、あっちこっち行ったり来たりしてた奴」


ジャネスコ近海で取れる赤魚をメインに作られているアクアパッツァは、その身が程よいホロホロ感で堪らない。

舌鼓を打ちつつ、カービィに尋ねる俺。


「あぁ、あれはお手伝い小妖精プティフェアリーだな! パク、モグモグ……」


ベリー系の果物が練り込まれたパンを千切って食べながら、カービィが答える。


「お手伝い小妖精? あの、虫みたいにブンブンしていた奴、妖精だったの??」


既にパスタを完食したらしいグレコは、昼間だというのにシャンパンのようなお洒落なお酒を頼んで嗜みながら、妖精の事を虫だと言った。

……まぁ、グレコは待合椅子の所にいて、彼らからは少し離れていたから、虫に見えても仕方がないだろうが。

俺が見る限りでは、結構可愛い顔していたよ?


「聞いたことがあるぞ、森に住まう妖精と契約をして、働かせる者がいると」


ケーキをお代わりしたギンロは、もはや三十個は食べているはずだ。

よくもまぁ、そんなに沢山甘い物ばかり食べられるよな。

前世の記憶の中にある、スイーツブッフェとか、スイーツパラダイスとかに連れて行ったら、きっとギンロの尻尾は止まらないだろうな。


「それだよ。まぁ、利害の一致ってやつだろうから、別に小妖精は無理矢理働かされてるわけじゃないぞ。妖精にもいろいろいるから、銀行にいた奴らが何の妖精なのかまではわからんけど……。たぶん、この大陸の北に広がるタジニの森の住人だった奴らだろうな」


ほほう、タジニの森という森があるのですね。


「タジニの森って、確かあれよね……。魔物が太古のままに暮らす、とっても危険な森なんでしょ?」


……グレコはたま~に、妙な事を知っている。

田舎者のくせに、知識だけはあるんだよな。


「そうそう。おいらも行ったことねぇから詳しくはしらねぇけどな。噂じゃ、普通にドラゴンがのし歩いてるらしいぞ」


おぉ!? ド、ドラゴン!??

やっぱりいるのか、さすが魔法の世界だな!!!


「なるほど……。幻獣の森に負けず劣らずの未開の森、というわけだな?」


「そういうこった! それこそまだ、ちゃんとした生態系とか森の全容とか、な~んも分かってない謎の地方だな。けど、この大陸で小妖精がいるとすればあそこか、幻獣の森くらいだろうから……。幻獣の森に入る事は不可能だし、別の大陸から連れて来たわけでもないだろうから、銀行にいた小妖精たちはおそらくタジニの森の妖精だろうな」


ほほう、幻獣の森に負けず劣らずの未開の地、とな……

それは是非、いつか行ってみたいものだな!!


「ねぇ、今の話だと……、幻獣の森にも妖精がいるって本当? 私、そんなの見たことないわよ」


「……僕もな~い」


「ん~、学会ではいるって考えられてんだよ。けどほら、実際にはグレコさんのようなエルフと、モッモの種族が暮らしていたからな。もし小妖精がいたとしても、なかなか姿を現さないのは普通な事だ」


ふ~ん、そういうものなのか。

妖精ってシャイなのね~。


「しかし、ならば如何にして契約を結ぶのだ? 妖精は、なかなか姿を現さぬのだろう??」


捕獲師キャプターっていうジョブがあるんだ。そいつらはいろんな魔物や妖精を飼い慣らす術を知っていて、様々な場所で生き物を捕獲して生計を立てているんだが……。たぶん、その捕獲師たちが何らかの方法で妖精を探し出して、契約をして、銀行に派遣している、って形じゃないかな?」


ほ~、前世の記憶がある俺でも、キャプターなんて職業、初めて聞くぞ?


「それは、ハンターとは別なの?」


狩猟師ハンターとは全く違うな、むしろ真逆だ。捕獲師は、あくまでも捕獲のみを目的としているから、生き物を殺めたり傷付けたりする事は一切ない。けど狩猟師は、危険な魔物の討伐とか、食料や衣類にする為に魔物を狩る。昨日のクエストだって、ギルドに入りたい狩猟師が、経験値稼ぎの為に参加していたはずだ。まぁ簡単に言うとだな……。生き物を殺すのが狩猟師、生き物と仲良くなるのが捕獲師だ!」


へ~、そうなのかぁ~!

キャプターとか、ハンターとか、なんかカッコいいなぁ!!

俺もいつか、もっと大きな町に行って、ジョブについて、ギルドに入っちゃったりしたいなぁ~!!!


……あ~、でもハンターだけはやめておこう、うんうん。


「ジョブって、結構いろいろあるのね。ユティナは、何になりたくてあんなに頑張っていたのかしら?」


……ん~、頑張ってたのはサカピョンだと思うよ?

だってほら、ユティナは眠ったプラト・ジャコールにとどめを刺していただけだし。


「斧を持って魔物狩りをするジョブって言ったら、おいらは狩猟師しか思い浮かばねぇけどなぁ~。もしくは木樵きこりとか?」


「ぶっ!? 木樵は無いんじゃないかなさすがに」


思わず吹き出して苦笑いするグレコ。

確かに、あのユティナの性格上、森の中で暮らす心優しい木樵などにはなれそうにない。

いや、むしろならないでくれ! 俺の中の木樵像が歪んでしまうっ!!


「契約をするにあたっての利害の一致とはどのようなものなのだ?」


ギンロがぐいっと話を戻した。

なんていうか、ギンロはこういう話にとても敏感だからね。

差別とか、種族格差とか?

たぶん、妖精が嫌々連れてこられていないかを心配しているのだろう。


「そこまではわかんねぇけど……。考えられるとしたら、森に飽きた妖精が外界に出てみたい! とか思ったりしたんじゃないか? 何かしらの理由で、生まれた場所とは他の地へ行きたいと考えた妖精が、たまたまそこに現れた捕獲師と契約を結んで、村や町でお手伝い妖精として働いているんだろうな。ギンロが心配しているような、酷い扱いを受けてる妖精はいないだろうから安心しろ~」


ギンロの思考を見透かしたように、笑ってみせるカービィ。

ようやく納得したらしいギンロは、次のケーキに手をつけた。

てか、まだケーキ食べるのかよっ!?


「いつか、私もジョブに就いたり、ギルドに所属したり……。一度でいいからしてみたいなぁ~♪」


「激しく同意! 僕はいろんなジョブをやってみたいなっ!! 今聞いた捕獲師ってやつも面白そうだしっ!!!」


キラキラと目を輝かせる俺とグレコ。

せっかくここまで来たんだから、一度は経験してみたいな、ジョブもギルドも!


「なぁ~に言ってんだよ? グレコさんは良いとしても、モッモに捕獲師は無理だ~」


俺の希望を一蹴するカービィ。


「……どうして無理なのさ?」


「どうしても何も、捕獲師は魔力がねぇとなれないさ。魔物や妖精と契約を結ぶには、魔術が必要になるからな。魔力がねぇ奴は捕獲師にはなれません!」


ガビーン!!!


うぉ~、出たな魔力めぇ~。

くっそぉ~、既に道を一本閉ざされるとは~。

俺に魔力さえあればぁ~、ぬあぁあぁぁっ!!


「けどほら、モッモは精霊を呼べるじゃない?」


あ、そうだよ!

俺、精霊を呼ぶ力、霊力は並外れてあるんだよ!!


「うん、だから、モッモに最も適したジョブは召喚師サマナーだな。おまいさんの霊力とあの精霊たちなら、ジョブ認定試験も一発合格すると思うぞ! ! ギルドにも引く手数多なはずだ!!」


おぉおぉぉ! 召喚師!!

そういや前にチラッとカービィが、俺の事を召喚師だのなんだのと言ってたな。

キャプターは無理でも、サマナーにならなれる……

うん、俺は召喚師になって、そしてギルドに入るぞぉっ!!!


「ま、これから行くピタラス諸島は、ジョブやらギルドやらとは無縁の島々だからな。グレコさんもモッモも、一旦その事は忘れろ、はははっ!」


カービィの乾いた笑いが、この会話の終着地点となった。


なんだよ、そうなのかよ……

じゃあ、今の時間は何だったのさ?

俺のワクワクを返せぇっ!!

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