140:餌がここにあるよ! 作戦

「ガルルルァアァァッ!!!」


「いやぁ~! ぎゃあぁっ!? 来ないでってばこのぉっ!?? ほわぁあぁぁ~!!!!!」


次々と襲い掛かってくるプラト・ジャコールたち。

俺の周り、四方は見渡す限り、獰猛な牙と爪を携えた恐ろしい魔物で溢れかえっている。


港町ジャネスコの東門より広がる広大な平原に、いくつか存在する林の中。

比較的低い木々が立ち並ぶその間を縫って、どこからともなく、次から次へとプラト・ジャコールが湧いて出て来る。


「三十六、三十七……」


すぐ隣では、全く余裕の表情で……、いや、むしろ少しばかり笑っているかのように見える楽しげな顔で、ギンロが剣を振るっている。

数えているのはおそらく、薙ぎ払い、倒したプラト・ジャコールの数だ。

その足元には、無残にも体を斬り付けられて、動けなくなったジャコールたちが横たわっている。


早いとこ、このジャコールの死体を鞄に入れてしまいたいのだが……

生憎、悠長にそのような事をしている暇は一切ない。


「えいっ! 喰らえっ!! えいっ!!! ぐわっ!?? ぶへっ!!!」


俺は、ギンロが斬り付けた事で力尽き、そのままこちらにぶっ飛んでくるジャコールの死体を盾で受け流しながら、俺を食おうと飛びかかってくるジャコールたちに向かって呪いをかける。

しかし、盾を使う事なんて生まれて初めてなもんだから、しばしば俺の小さな体は、血まみれのジャコールの下敷きになってしまうのだ。


ジャコールは、体格こそ細身で、四本足で立ってるから小さく感じるけれど、体長は俺の倍はある。

それが、ドサッ! と上に被さってくるのだから、当然小さな俺は、前のめりに地面にベチャッ! となってしまう。

まるでこう、棚から落ちたぼた餅のように、ベチャッ!! となってしまうのだ。

幸いにも、俺の体には余分な脂肪がかなり蓄えられているので、そのように倒れてもさほど痛くはないのだが……

ジャコールの死体は、獣臭くて血生臭くて……

もうっ! 溜まったもんじゃないっ!!!


「うぅ、どいてよもぉ……、う~よいしょっと、ふぅ~。うわっ!? えいっ!!」


上に被さってきたジャコールを押し退けて、立ち上がると同時に、襲い掛かってきたジャコールに呪いをかける俺。

間一髪、その鋭い爪の餌食にならずに済んだ。

息をついている暇なんてありゃしない。


もう必死も必死、気を抜いたらすぐにお陀仏しちゃいそう。

これが命をかけた戦いってやつだな。

前世の記憶の中にもないぞ、こんなに真剣な戦い!

それを、この俺が、こんなピグモルの俺が経験する事になろうとは!!

なんてこっただぜ、まったくぅ!!!


万呪の枝はもう、ほんっとに大活躍!

剣が欲しいとかついさっきまで思ってたけど、盾ですらまともに使えないどころか、結構持ち続けていると腕に負荷がかかるので、とてもじゃないが、この上剣なんて重そうな物、俺には使いこなせそうにない。

持ってて良かった、万呪の枝!!


だけど、これでは敵に止どめを刺せない。

と言うか、剣を持っていたとしても、俺がジャコールの息の根を断つなんて事は出来ないだろう。

こちとら世界最弱、ふっわふわの可愛らしいフォルムを持ったピグモルなのでね。

剣で敵の心臓を一突き! なんてこと、無筋肉な俺が出来るわけがないのだ。


だから、戦っていく内に、俺とギンロは自然と役割を分担していた。

俺が万呪の枝でジャコールに呪いをかけ、弱ったジャコールにギンロが止どめを刺す。

これぞパーティー! これぞチームプレイ!!


だけど、少しばかり問題が……

最初俺が、ジャコールに眠りの呪いをかけていたところ、寝ている相手を斬り付けるのはつまらん、とかなんとかギンロが言うので、今は混乱の呪いをかけているのだが……


「ガルルルァ~!!!」


「ぎゃあぁぁあっ!!???」


俺の呪いによって混乱に陥ったジャコールの中には、より凶暴になって襲い掛かってくる奴が沢山いて……


ザシュッ!!!


「ガッ!? ……グゥ~」


ギンロの剣にかかり、生き絶えるジャコール。


「はぁはぁ……。あ、ありがとう、ギンロ……」


「はっはっはっはっ! 気を抜くでないぞモッモ!!」


先ほどから幾度となく、噛み殺されそうになっている俺を、ギンロはすかさず助けてくれている。


けどさほら、助けてくれた事はありがたいけど、そろそろ眠りの呪いに変えちゃ駄目かな?

絶対にそっちの方が安全だよ??


魔法剣は、以前使っていた剣よりもはるかに使い易いようで、ギンロの動きはいつになく軽やかで無駄がない。

襲い掛かってくるジャコール全てを、ものの一瞬でギンロは斬り倒していく。

前も後ろも右も左も、目が他のところにもついてるんですかっ!? と問いたくなるほどに、今のギンロには死角すらない。

また、凶暴な敵が全力で襲ってくることがスリリングで堪らないらしいギンロは、俺には全く信じられないほど、楽しそうに戦い続けているのだ。


悲しい哉、これが魔獣の本能なり。

俺には一生かかっても理解できない思考である。


しかし、あれだな……

もう少し、違うやり方があったのでは?


「うわぁっ!? へぶぅっ!!?」


「ぬっ!? しっかりしろモッモ!!」


ギンロが薙ぎ払った二体のジャコールの下敷きとなり、地面に突っ伏す俺。

そんな俺の首根っこを掴まえて、強引に引き上げるギンロ。


うぅぅ~、下にあった小石がお腹に刺さって地味に痛い……

何度目だよこれぇ~、もう嫌だよぉ~。

しっかりしろと言われても、こちとら戦闘経験なんか皆無な絶対平和主義者なんだよぅっ!


さすがにこれは駄目だろうと、作戦の変更を申し出ようと考える俺。

だがしかし、俺の首根っこを掴まえたままのギンロは、俺の体を頭上にずいっと掲げて……、叫んだ。


「さぁ群がれジャコール共っ! ここに餌があるぞぉっ!!」


……そう、今回ギンロが立てた作戦は、その名も、餌がここにあるよ! 作戦。

何を隠そう、先ほどから俺は、ジャコールたちをおびき寄せるための餌に使われているのである。


空中でプラプラと揺れる俺の体を目にし、さもご馳走を見つけたかのように涎を垂らしながら、全速力で群がってくるプラト・ジャコールたち。

いったいどこに隠れてたんだと問いたくなるほどに、そこら中から姿を現し、こちらに走り寄ってくる。


……おいお前ら、夜行性じゃなかったのかよ?

お食事は夜だけにしてちょうだいっ!!

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