129:いわゆる予言者的な力

ドキドキドキドキ


俺は今、猛烈に緊張している。


ドキドキドキドキドキドキドキドキ


心臓の鼓動が、鳴り止んでくれない。


「はぁ~♪ お湯のお風呂って、すっごく気持ち良いのねぇ~♪」


「きっ!? きもちいいっ!??」


「え? うん、とぉっても、気持ち良いぃ~♪」


ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ


オーマイゴッド!

俺のちっちゃなマイハートが、今にも破裂しそうだぜぇっ!!


現在俺は、生まれて初めての、混浴中である。

隣では、裸一丁に薄い麻の布を巻いただけのグレコが、気持ちよさそうに湯に浸かっている。

俺は、なるべく不自然にならないように目を逸らし、なるべく気付かれないようにチラチラと横目でグレコを見ていた。


「お湯加減はいかがですかぁ?」


風呂場の外で、薪をくべてくれているらしいリルミユが声を掛けてきた。


「あ、ちょうどいいです~♪」


あぁっ!? グレコ、こっち向かないでぇっ!??

きゃあっ!? 布がはだけそうよぅっ!??


「ん? モッモ?? 顔真っ赤だよ、大丈夫???」


うううんっ! 全然大丈夫じゃないから、あっち向いててよぉっ!!


先ほど受付にて、アマガエル獣人リルミユにピグモル君と呼ばれた俺を心配して、グレコは一緒にお風呂に入ると言い出した。

それは良くない、すこぶる良くない! と、精一杯拒否したのだが……


「神の力を宿しし者を助けるのが私の使命なのよ? もしモッモに何かあったら、取り返しがつかないんだからね!?」


なんて、最もらしい事を言われてしまい……

カービィが泣いて羨ましがる中、俺とグレコは一緒にお風呂に入ることとなったのだった。


受付で待っていたリルミユに連れられて、地下へと階段を下って行くと、そこには五右衛門風呂のような小さな釜焚き風呂があった。

こんな地下で、釜など炊いて大丈夫なのか? と思ったけれど、どうやら地上へ続く排気口が沢山あるので、一酸化炭素中毒になっちゃう!? とかいう心配は必要なさそうだ。

地下は薄暗くて、もちろん電気などないので、そこかしこに蝋燭が設置され、炎が揺らめいて……

そして目の前には、裸も同然のグレコ様である。

もはや、理性を保てている方が失礼じゃないだろうか、とすら思える状況なのである。


結果、案の定……


「ん? モッモ?? ちょっと、モッモ!?? 大丈夫!???」


「う、う~ん……、ブクブクブク」


お湯の熱さと、胸の高鳴りによって、俺は完全にのぼせてしまったのだった。






「はい~、冷たいお水ですよ?」


別室のベッドに横になって、リルミユにお水を口に運んでもらう俺。

目の前がグルグル回るし、なんだか吐きそうだし……

でも、とりあえず水を一口飲むと、少しばかり気分が良くなった。


「ごめんなさいねぇ、久しぶりにお湯を炊いたもんだから、いまいち火加減がわからなくって……。気分はどお? まだ目眩がするかしら??」


「あ、少し……、でも、さっきよりはマシになりました」


「そぉ、良かったわぁ。あなたに何かあると、みんなが困りそうだからねぇ、ケロロ」


……どうして、俺に何かあるとみんなが困る、などと言うのかね?

このリルミユ、何を何処まで気付いて、知っているんだ??


そんな俺の心情を読み取ったかのごとく、リルミユはこう言った。


「あ、ごめんなさいね、変なこと言って。でも、わざとじゃないの、昔からこうなのよ私」


……昔から、何がどうだと言うのだろう?


「実は……、私、他者の秘密が分かってしまう癖があってね。あなたが今一番秘密にしていたい事が、どうしてだか分かってしまうの。だけど、自分でもその、頭の中に浮かんでくるものを上手く整理出来なくて……、言わなくていい事までいつも言ってしまうのよねぇ~。悩みの種だわぁ、ケロケロ」


……は? えっと、秘密にしていたい事が、頭に浮かんでくる、とな??

何その、とっても便利そうに思えて、あんまり便利ではない能力。

しかも癖って……、癖の問題なのそれ???


「あなたは~、えっと……、お名前はなんと言ったのかしら?」


あ、名前は知らないのね……


「あ、僕、モッモって言います」


「そう、モッモさんね……。あなたは、私が今まで見てきた誰よりも、沢山の秘密を抱えているのね。けど安心して、あなたはそれらを受け入れる大きな心を持っているし、全てを許せる優しさを持っているわ。だから……、だからもし、嘘偽りを心苦しく思うのなら、正直者でいてもいいの。たとえ危険が迫っても、あなたの周りには手を差し伸べて、助けてくれる仲間がいるでしょう?」


……えっと、それはつまり~。


「リルミユさんは、僕が、ピグモルである事を正直に周りに話しても大丈夫だって、言いたいんですか?」


俺の言葉に、こくんと頷くリルミユ。


……なんだろうな、この不思議な感じ。

何にも知らないはずのリルミユが、まるで俺の全部を知っているような、俺の心の内を全て理解しているような、そんな気になるこの感じ。

でも……


「リルミユさんは、ピグモルが何かを知っていますか?」


「……いいえ、ごめんなさい、知らないのよ。ただ、あなたを目の前にした時に、あなたがピグモルという種族である事と、それを隠さなければいけない状況で、でも頑なに自らはピグモルという種族である事を誇示したい、という複雑な気持ちが見えたの」


……うぅ~、リルミユの説明はなんだかややこしいし、正直理解不能だぁ~。

気持ちが見える? 何それ?? メンタリストか何かですかっ!??


のぼせ上がった頭で、難しい事を説明されて、その真意を考え続けた俺は、再び目を回すのであった。






「リルミユさんは、いわゆる予言者的な力を持っているんだよ」


部屋に戻って、買ってきたパンをはむはむ食べながら、カービィに話を聞く俺とグレコ。

リルミユの言葉があまりに不可解で、謎は深まる一方だったので、結局カービィに、リルミユに俺がピグモルであるという事がバレてしまったと、俺は自ら暴露したのだ。

てっきりカービィは、バレた事に怒り出すかと思ったのだが……


「予言者って……。神のお告げとか、精霊の言葉を聞いて、その先に待っている未来を知る者の事よね?」


「ん~、まぁ難しく言うとそうなんだけど、リルミユさんのはもうちょっと簡単だし、いい加減な感じだな」


……いい加減な予言などされたくないな。


「ふ~ん……。でもまぁ、その予言の力ってやつで、モッモの正体がばれたわけね?」


「そうなんだろうな。けどモッモ、安心しろ。リルミユさんやタロチキさんは、ピグモルであるおまいさんを獲って食おうなんて物騒な事は、これっぽっちも考えてないだろうからさ!」


……むしろ、そんな事考えてたら引くわ。

なんで哺乳類まがいの俺が、爬虫類まがいのリルミユやタロチキに食べ物だと思われねばならんのだ。


「けどあれね、そんな事が出来るって事は、リルミユさんは只者じゃないって事にもなるわね」


「そうだな。だけど、本職はこの宿屋の女将だからな。本人も、あんまりその力に関しては自信がないようだし……。モッモ、何言われたのか知らないけども、あんまり真に受けちゃ駄目だぞ!?」


ぼけ~っと話を聞いていた俺に対し、カービィは軽く釘を刺した。

しかし、既に俺の中では、別の思いが渦巻いていた。


リルミユの、偽らなくてもいい、という優しい言葉が、俺の中で反芻していた。

俺は俺のまま、ピグモルのままで堂々としていればいいと、背中を押されたように感じたのだった。


しかし、この事が原因となり、俺は再び窮地に立たされる事となるのであった。

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