123:モントリア公国国営総合管理局

「うっひゃぁっ!? すげぇえぇぇ!!! 想像以上っ!!!!!」


目の前に広がるその景色に、俺は万感の思いである。


「すっごく都会だったのね、港町ジャネスコ……」


グレコも、目をキラキラさせている。


「建物が、山の様だな……」


ギンロも、珍しく圧倒されているようだ。


「まぁ、この国で、首都の次に栄えてるのがこのジャネスコだからな。驚くのも無理はないな!」


なぜか、腰に手を当てた偉そうなポーズでそう言ったカービィ。

けど、今回ばかりは仕方がないか、カービィがいなければ、俺たちは今ここに立っていられなかったはずだから。


「それにしても、どんな建築技術なの? 五階建の建物があんなに沢山、それも密集しているなんて……」


「全部魔導師の力だろうな。ジャネスコには、フーガから移住してきた奴らも多いからさ。浮遊魔法を使えば、重いものでも簡単に持ち上げられるからな」


なるほど、クレーン車なんて必要ないわけか!

素晴らしいな、魔法って!!


「イーサン村の時から感じていた事だが、この国は獣人に対する差別が全くないのだな。アンローク大陸には、未だ獣人に対する差別が根強く残っているが……」


「ん~、と言うか、この大陸にはもともと人間はいなかったんだ。後から来たのが人間の方だから、国のトップも確か獣人だったはずだぞ?」


「なるほど、そういうことか」


「それにギンロ、おまいが言ってるのはたぶん、アンローク大陸でも一地域の話だ。フーガでは、逆に人間であることの方が舐めてかかられる要因の一つになってたからな」


「そうなのか? それは……、驚いた」


ふむふむ、何やら難しい話ではあるが、ここが獣人に優しい国で良かったよ。

……肝心な国の名前を知らないけどね。


「さ、総合管理局へ行こう! 善は急げだからなっ!!」


カービィの言葉に、俺たちは全員頷いた。






カービィに連れられて、道を歩く俺たち。

町には見慣れない沢山の獣人と、人間たちとが引っ切り無しに行き交っている。

しかし、その誰もがどこか小綺麗で、都会的な雰囲気を醸し出してて、なんていうか……

ほんと、道を歩いているだけで楽しい♪


鉄門から入ってすぐは、五階建の大きな、いわばマンショのような建物が建ち並ぶ住宅街だったのだが、町の中央は様々なお店が軒を連ねる商店街となっていた。

八百屋、肉屋、魚屋、お菓子屋、武器屋に防具屋、靴屋や帽子屋、更には盾の専門店などもある。

それらを見守るように、商店街のど真ん中には、サイズは小さいが、立派な造りの時計塔が建てられていた。

そして、この町の中心にある商店街から真っ直ぐ南に下っていく道の先に、海に浮かぶ船のものであろう、大きな帆が見えている。


うぅうぅぅ~!

町を探検したいぃ~!!

全部のお店に入りたいぃ~!!!

海も見たいし、船も見たいしぃ~!!!!

あぁ~もう、ワクワクが止まらないぃ~!!!!!


「着いたぞ、あそこだ」


ソワソワする俺を他所に、商店街の一角にある大きな建物を指差すカービィ。

建物の上にデカデカと、《モントリア公国国営総合管理局》という看板が掲げられている。


なるほど、ここは【モントリア公国】という国なのだな、初めて知った……


「モントリア公国? それがこの国の名前なの??」


「あぁそうだぞ。あれ? 言ってなかったか??」


グレコの質問に、すっとぼけたような返事をするカービィ。

なかなかに重要な事を言い忘れていたよね君。


「ま、いいじゃねぇか! ほら、サッサと許可証発行の申請して、昼飯でも食べに行こうぜぃっ!!」


おおっ、お昼ご飯かっ!!


まんまと昼飯に釣られた俺たちは、浮き足立ちながら、総合管理局へと入っていった。






「お名前は?」


「もっ、モッモです!」


「ミドルネームですか? 姓はないですか??」


「あ、えと、ただのモッモです! モッモだけです!!」


「わかりました。種族は……、獣人の、んん? ヌート族?? これは……???」


ですよね、見えないですよねヌート族には。


「あ、えと、お母さんがヌート族で、お父さんはわからなくて」


カービィがそう言えって言ったから言うけど……

俺の母ちゃんはそんないい加減な女じゃないからな!

と、心の中で叫ぶ俺。


「そうでしたか、失礼しました。では、獣人でヌート族のモッモさん。ご出身はどちらで?」


「あ、イーサン村です、ここから南東の」


「はい、イーサン村ですね。今回はなぜ、身分証明書の申請を?」


「え? あ、その、友達と旅に出たくて」


「なるほど。それで……、でもあなた、まだ子どもでしょう? 年齢はいくつ?? ご両親の許可はとれてますか???」


「あっと……、体は小さいんですけど、これでも十五歳なんです」


ここは譲れないぞ!

俺はもう、世間一般的には立派な大人なんだいっ!!


「まぁそうでしたか! 重ね重ね失礼しました」


「いえ、慣れてますので……」


「それでは、年齢は十五歳、と……。あと、もしよろしければ、この港町ジャネスコの市民権を取られておきますか? 十歳以上の者であれば誰でも取得できますが??」


「えっと……。それは皆さん取られているんですか?」


「大体の方は、はい。市民権といっても、必ずここに住まなければいけないというものではなく、この町の中における安全の確保と、物品の販売権や公共施設への出入りを可能にするといった、様々な権利の行使を保証するというものです」


「あ~なるほど。えっと……、お金がかかったりしますか?」


「いいえ、国営総合管理局における手続きには一切の金銭の授受はあってはなりませんので」


「あ、そうなんですね、わかりました。じゃあ……、市民権、取っておきます」


「かしこまりました。では、最後にここに手形を押してください」


「あ、はい」


朱印にペタペタ、紙にボンッ!


「はい、ありがとうございます。こちらでお拭きになってください」


タオルで手をフキフキ。


「では、手続きはこれで終了です。身分証明書、及び市民権証明書は、二日後の発行となりますので、こちらの窓口まで再度お越しくださいますようお願いします。他に何か、質問はございますか?」






「ふぅ~、なんとか無事終わって良かった~」


堅苦しい総合管理局の建物の外に出ると、扉のすぐ横で、カービィと一緒に、既に申請を終えたらしいグレコが待っていた。

ギンロは……、まだみたいだな。


「あ、モッモ、遅かったね」


グレコの手には、何やら美味しそうな、りんご飴のような物が握られている。


……何それいいな、俺も欲しいな。


「ん? あ~、はい、モッモの分だよ♪」


グレコは、鞄の中から同じ物を取り出して俺に手渡してくれた。


「わ~い! ありがとう♪」


「どういたしまして♪」


「しっかし、ギンロは遅いなぁ~。何か問題でも起こしてんじゃないだろうなぁ~?」


「まさか、ギンロに限ってそんな事ないわよ。あ、ほら、来たわよ?」


ギンロは、何やらぎこちない動きでこちらに歩いてくる。

……いったい、どうしたんだろうか?


「ギンロ、遅かったな! 何か、問題でもあったか?」


カービィが尋ねる。


「問題……、問題は、なかった、が……」


ん? あれ?? この感じ……

ギンロの顔が、むふふな顔になっているぞ???


怪しく思った俺は、扉をそっと開けて中を見る。

ギンロを担当していたのは確か……、あ……、あ~なるほどね~。


「ギンロ、受付のお姉さんに一目惚れしたんでしょ?」


わざと、意地悪く尋ねる俺。

すると、ギンロはその青みがかった毛並みの顔を、これでもかというくらいに真っ赤に染めた。


「えっ!? そうなのっ!?? え、見たい見たい!!!」


「おいらも見たいぞっ!!!」


俺の真似をして、扉をそっと開けて中を確認する二人。


「あ~、なるほど~、確かに可愛いわねぇ~♪」


「うくくくく♪ ギンロは案外ロリコンなんだな?」


二人の言葉に、更に赤くなるギンロ。


ギンロを担当していたのは、可愛らしい、背の低いエルフの女の子だったのだ。

ピンク色の巻き髪に、大きなパッチリお目目。

確かに、カービィにロリコンだと言われても仕方がないくらいに童顔だ。


「なっ!? おっ!?? いっ、行くぞっ!!!」


真っ赤な顔のまま、足早に歩き出したギンロの後ろを、俺たちは含み笑いをしつつ歩いて行った。

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