111:あ〜、ポチッとな!

「われら、このもりに、いられない。われら、かずがへった。このもり、たべものがない。たまごが、こどもとなると、たべもの、たりなくなる。われら、どこかへ、いかなければならない」


なるほど、そうか。

つまり、もともと数が多くて食べ物が何とかなっていたけど、数が減ったから食べ物が足りない、と……

ん~? 普通、逆じゃないかな??


「なるほど。大人の数が少ないために、産まれてくる子らを養っていけない、という事だな? 卵の数は、子らの数は幾つなのだ?」


あ~なるほどそういうことね。

ギンロにしては理解力あるな~。

こういう、種族の存続的な問題に関しては、ギンロの頭の回転はかなり良くなるようだな。


「たまご、ぜんぶで、よんじゅうと、に。かりをしても、このもり、えもの、すくない。われらだけでは、とてもむり。こども、そだたない」


「う~ん、確かにそうよね。そろそろ日暮れに差し掛かっているけど、朝からこの森にいるっていうのに、魔物の一匹も遭遇していないし……。ここに来るまでに、食べられそうな果実があったかって言われると、なかったと思うし……」


確かにそうだな。

この森は、なんていうか、本当に静かだ。

遠くで飛んでる虫の羽音が聞こえるくらいに、辺りには何もいない。

それに、グレコが言ったように、果物や野菜の匂いが全くしてこない。

あるのは木だけ、何の変哲も無い、枝と葉が生い茂った木だけだ。


「モッモの故郷はどこにあるんだ?」


カービィが唐突に聞いてきた。


「……それ、今関係ある話なの?」


すかさずグレコが突っ込む。


「いやほら、モッモは絶滅したはずのピグモルだろ?」


……やべぇ、それもバレてたのか。

恐るべし、カービィ博士の観察眼!!


「ピグモルなんざ、世界的にはもう珍獣中の珍獣。そんな種族が暮らせる場所なら、SSランクのバーバー族も、安心して暮らせるんじゃないかな~って」


その、SSランクってなんぞや?

なんか、少し前も、似たような言葉を聞いた気がするぞ??


「確かに……。テトーンの樹の村の近くならば、食べ物も豊富であるし、何よりガディス殿がおられる。ガディス殿の事だ、モッモの頼みとあらば、バーバー族の事も守ってくれるだろう」


ん~、まぁそうだろうね。


「そうね。たぶん、村のみんなも平気じゃない? ダッチュ族たちともすぐに打ち解けていたし!」


ん~、まぁまぁそうだろうね。


「ダッチュ族!? ダッチュ族もいるのかっ!??」


驚くカービィ。


「あ~うん、こないだちょっと、助けてね。今は子どもたちだけだけど、みんな元気だよ」


「うわ~お……。それが本当なら、また学会の資料は書き直しだな。ダッチュ族は、およそ二十年前に滅んだと記録されていたはずだから」


二十年前といえば……

ダッチュ族が妙な人間たちに追われて、あの虫だらけの森に移住した時だな。

確かに、まさかあの森で生き残ってるなんて、誰も思わなかったんだろうな……


「それなら尚更安心だな。ダッチュ族が暮らせているのなら、安全な所に違いない。どこだ? どこにあるんだ?? その、なんて言ったっけ、何とかの村」


「テトーンの樹の村ね。僕たちピグモルが暮らす村の名前だよ。森の名前は確か……、あれだ、幻獣の森。クロノス山の南側の地域だよ」


俺の説明に、カービィはピシーン! とした顔で固まる。

ただただ一点を見つめて、一言も発しない。


「……カービィ? どうしたのだ??」


「……本当に、クロノス山の南なのか?」


「そうよ。私の故郷、ブラッドエルフの村もあるわ」


「……ブラッドエルフの村も?」


「僕の故郷の村から、ちょっと離れた場所ではあるけどね。あとはそうだな、さっきギンロが言っていたガディスっていうのは、ギンロと同じフェンリルで、ピグモルたちを守ってくれる守護神なんだ」


「……え? ギンロ、フェンリルだったのか??」


「ぬ? そうか、獣人と偽っておった故、知らなかったのだな。我はフェンリルと氷国の民との間に生まれしパントゥーなのだ。隠していたつもりはなかったのだが……」


「……何だが、一気に膨大な情報が入ってきて、おいら、……おいら、パンクするぅ~」


「おっ!? カービィっ!??」


「なぬっ!? しっかりしろ、カービィ!??」


「あ~、目を回しちゃってるわね、これは……」


文字通り、本当にグルグルと目を回しながら、プシュ~! という効果音が似合いそうなほどに顔を赤くして、カービィは後ろに倒れてしまったのだった。






「みんな、卵は持ちましたかっ!?」


「もった!」


「もったぞ!」


「すべて、もった!!」


バーバー族たちが首から下げている簡易的な動物の皮の鞄の中には、バーバー族たちの大切な卵、彼らの未来が詰まっている。

その数およそ四十二……

産まれてからが大変だなこりゃ……


「槍は全部持ちましたかっ!??」


「もった!」


「ぜんぶだ!!」


「だいじょうぶ!」


バーバー族たちは、それぞれその小さな背に大きな槍を背負っている。

自分たちの数より多い二十本もの槍を盗んでしまったので、中には槍を二本背負っているバーバー族もいる。


「じゃあ皆さん、円になって、隣と手を繋いでくださ~い!!」


俺の言葉を合図に、みんなが円形に並んで、隣同士で手を繋ぎ、大きな輪を作った。

カービィいわく、空間移動の魔法、及び魔法アイテムは、間接的に繋がっていれば行使の対象になる、という事だった。

つまり、みんなで手を繋いで輪を作れば、それが一個体と見なされて、みんなで一緒に移動できる、ということなのだそうな。

何も、ダッチュ族の時のように、みんながこう、ギュ~! と、引っ付かなくてもいいらしい。


俺の左肩をギンロが、右肩をカービィが握って、そこには大きな輪が出来上がった。

うん、これなら、手を繋ぐよりも断然ゾクゾクがマシである。


「じゃあ行きま~す! とりあえず、槍を返しにデルグの家まで~!!」


あ~、ポチッとな!


導きの腕輪に手をかざし、俺とグレコとギンロとカービィ、十四匹のバーバー族と、四十二個のバーバー族の卵たちは、迷いの森を後にした。

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