112:ようこそ幻獣の森へ!!

「ふ~、こんなもんかなぁ~?」


机の上に羽ペンを置き、両手を上に上げてグッと伸びをする俺。

ここは、テトーンの樹の村の自宅の、俺の部屋。

冒険の書に、これまでの事を記していたのだ。


窓の外は暗く、宴の音もいつしか止んでいる。

優しい月明かりと、テトーンの葉の香りが、静かな夜を包んでいた。






バーバー族たちと共に、導きの石碑があるデルグの家まで戻った俺たちは、二十本の槍を無事にデルグに返した。

バーバー族たちは、それはもうヘコヘコと、お辞儀人形のように頭を上下させて、デルグに謝罪していた。

見た目はこう、結構いかつい爬虫類なのだが、中身は真面目で礼儀正しいらしい。

デルグは、カービィに何かを言いたかったようだが、また次に会った時でいいと言って、俺たちを送り出してくれた。


再度、導きの腕輪を使って、今度は幻獣の森のテトーンの樹の村まで帰った俺たち。

バーバー族の姿を見たピグモルたちは……、言わずもがな、例によって村は大パニックとなった。

なんとか事の経緯を話し、絶滅しそうな彼らを助けたい! と力説した所、みんなは快くバーバー族を受け入れてくれた。

お人好しにも程があるが、まぁ、それがピグモルの良いとこだよね♪


そのまま、みんなを村に残して、俺だけでクロノス山の聖地へ向かい、空に向かって大声で神様を呼んだ。

こんなので本当に現れてくれるのか? と不安になったが、思いの外、神様は簡単に、スーッと空から降りてきてくれた。

そして、カービィに言われるままに手に入れた、例の金た……、金の玉を神様に渡した。

神様は、おそらく何処かで見ていたのだろう、大して驚きはしなかったが……


「あまり、無理はしなくていいからね? 君の役目は、あくまで偵察だ。危険な事は、極力避けるんだよ??」


優しく注意を受けた俺は、コクンと頷き、空へと帰る神様を見送った。


そして再度、テトーンの樹の村へと戻ってくると、そこでは既に、宴が開かれていた。

宴の名目は、《バーバー族の皆さん! ようこそ幻獣の森へ!!》というものだった。

おそらく、テッチャがみんなに話したのだろう、外界ではここが幻獣の森と呼ばれている事を。

その事にとても喜んだピグモルたちは、自らを幻獣ピグモルと名乗って、バーバー族やカービィと握手をしていた。


なんていうか、調子が良いというか……


ただ一つ、驚いた事が。

なんと、ピグモルのみんなは、公用語を話せるようになっていた。

今までは、なんて言ったかな……、忘れたけど、古い言葉を話していて、外界の者との会話は不可能だった。

それが、若干片言ながらも、グレコやギンロ、バーバー族やカービィと、言葉を交わす事が可能になっているではないか。

後から宴に参加しにきたダッチュ族のポポや、テッチャに聞いてみた所、毎日みんなに言葉を教えているのだという事だった。

同じ土地に住むのだから、言葉が通じないと不便だという事で、みんな頑張ってくれたらしい。

ただ、長老だけは……


「わたし、ここ、えらい。どうぞ、来て、楽しく!」


……うん、年寄りに今更語学の勉強は難易度が高かったようだな。

俺には、長老が言おうとしている事がだいたいわかるけど、バーバー族たちは首を傾げていた。


宴は、今までの中で一番、最高に盛り上がった。

バーバー族たちは、身体能力が相当高いらしく、新体操選手も顔負けのアクロバティックなダンスを披露してくれた。

バク転、バク宙なんてお手の物、五匹で肩車をしてトーテムポールのようになって見せたり、四匹が背を向けた状態で円陣を組んで、尻尾をトランポリン代わりにして一匹を宙に投げ、投げられた一匹は空中でクルクルと回転して見せたりと、大道芸のような技まで披露してくれた。


いつものように酔っ払ってしまったピグモルたちが、お土産はないのかと迫って来たので、鞄の中に残っていた高原ベリーを手渡す俺。

すると、大層気に入ったらしく、次に村へ行った時にはもっと沢山買ってきてくれ! とせがまれた。

さすがに、この高原ベリーはあそこの土地だからここまで美味しくなるのだろうし、テトーンの樹の村での栽培はおそらく不可能だろう。

となれば……、仕方ないな、後日買いに行くしかないか、と半ば諦めた気持ちで俺はみんなの熱意に折れた。


ダッチュ族の子どもたちは、以前よりかはみんなややふっくらとした体つきになっていた。

ここには食べ物が豊富にあるから、当たり前っちゃ当たり前なのだが……

少し余分なお肉も付いていそうなので、ピグモルのように中肉中背になりたくなければ、運動をしましょうね! と脅しておいた。


テッチャは、いくつか磨き上がったウルトラマリン・サファイアがあるので、明日にでもドワーフの洞窟へと連れて行って欲しいと言った。

目がこう、欲にまみれてギラギラしていた……

カービィが言うには、港町ジャネスコの商船の出港まではまだ十日以上あるとの事だった。

なので、とりあえず……

明日はテッチャと一緒に、鍛治職人協会の支部があるドワーフの洞穴まで行く事になるだろう。






と、そんなこんなで、宴を一足先に抜け出した俺は、自室で冒険の書の執筆に精を出していたわけだ。


なかなかこう、書き出すと楽しくって、事細かに書きすぎる傾向があるもんだから、知らない間に随分と時間が経っていたようだ。


窓の外には、広場のキャンプファイヤーの火がチラチラとくすぶる中、まだ何匹かのピグモルとバーバー族たちが深酒をしているようだが、ダッチュ族やテッチャは既に帰宅したようだ。

少し離れた場所に簡易テントが張られているので、おそらくグレコも就寝済み。

テントの隣では、胡座をかいて地面に座り込んだギンロが、テトーンの樹にもたれかかって目を閉じていた。


さて、俺もそろそろ寝ようかな、と、椅子から立ち上がった、その時だった。


「モッモ! 二次会だぁっ!!」


シチャの実から作った酒の匂いをプンプンさせながら、上機嫌なカービィが俺の部屋へと侵入して来た!

体の大きさがほぼ同じだから、俺の家にも入れてしまったのだ!!


……二次会って、今からですか?


もう、寝ようと思ってたのにぃっ!!!

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