103:バーバー族

「リーシェ~!?」


空に向かって、叫ぶ俺。


『は~い♪』


すぐさまリーシェが飛んできた、のだが……

あれ? 君は、リーシェ、……なの??


『モッモちゃん、 久しぶりっ♪ キャハハ♪』


声と喋り方はリーシェなのだが、なんだかこう、成長した???


「リーシェ、なんか……、変わったね?」


『うふっ、わかる? こないだヘマしちゃったからね、特訓したのよ♪』


わぉ! そうだったのね~。


リーシェのピンクがかった半透明な体は、以前に比べて少し、大きくなっていた。

なんかこう、小学校低学年だったのが、高学年になった感じ。

背が伸びて、体つきも少し大人に近づいて、顔つきも以前よりシャキッとしている。


『それで、御用は何かしら?』


「あ、うん、グレコとギンロを迎えに行って欲しいんだ。たぶん、そう遠くない場所にいるんだけど」


『了解! ちょっと探すから、モッモちゃんはここで待っててねん♪』


ウィンクをして、リーシェは空へと飛んで行った。


よし、これでグレコとギンロは大丈夫だ。

あとは、カービィに説明を……


「ん? カービィ、それ、何??」


離れた場所に立っているカービィは、その片目に、何やら見慣れぬ金属製の物を当てている。

真ん中にレンズのあるそれは、強いて言えば、短い望遠鏡のようだ。

ただ、作りが複雑なのだろう、至る所にピントを調整するような出っ張りがある。


「モッモさん、おまい……。【召喚師サマナー】だったのか?」


……え? なんて?? サウナ???






「召喚士っていうのは主に三つ種類があって、モッモさんのように精霊を呼ぶ精霊召喚師、悪魔を呼ぶ悪魔召喚師、魔物と契約を結んで時空転送を可能とする魔物召喚師。悪魔召喚師と魔物召喚師は一緒くたにされる事もあるけど、とりあえず、おいらはそう習った。さっきモッモさんが呼んでいたのは、風の精霊だろ?」


「うん、そう」


「は~ん……。ただの従魔じゃなさそうだとは思っていたけど……。SSSランクの生物で、さらには召喚師ってなると、もはや伝説級の存在ですな」


「……はい?」


カービィは、何やら眉間に皺を寄せて、非常に難しそうな顔をして俺を見ている。


エスエスエス……、ランク?

何それ知らない、美味しいの??


なんだかもう、いろいろと隠しているのが面倒臭く感じる俺。

この際だ、ハッキリキッパリ言ってしまおう!


「実は僕、神様の」


ガサガサガサッ!!!


「ひっ!? 何っ!??」


背後で草が擦れる音がして、驚いて飛び退く俺。

しかし、そこにいたのは、小さなトカゲだ。


「あ、なんだ、トカゲかぁ……、ビックリした」


「え? トカゲ??」


「あ、うん、ここに……」


俺が指差す先にいるのは、俺の体の半分ほどしかない小さなトカゲ。

海のように真っ青なツルンとした体に、頭には黒い縦縞模様が入っている。

大きな大きな爬虫類の目と、長い尻尾が特徴的だ。

まぁ、トカゲにしちゃあ、ちょっと大きいな……


「おまえ、なにもの?」


……え? トカゲが喋った。


「モッモさん、離れろっ!」


カービィが叫ぶ。

と、同時に、俺の足に何かが引っかかって……


「ぎゃんっ!?」


足が上へと引っ張り上げられ、俺はそのまま逆さまに吊し上げられた。

ぶらんぶらんと宙に浮き、何が起きたのかと辺りを見回す。

すると、どこからともなく現れた十数匹の青いトカゲの群れが、カービィを取り囲んだ。


「出たなっ! バーバー族っ!!」


バーバー族っ!? こいつらがっ!??


すかさずカービィは魔導書を取り出して開き、腰からスティックを抜き出し構える。

ジリジリと迫る、小さなバーバー族たち。


「おまえ、そとのもの、ここ、いてはいけない」


片言で話すバーバー族。

そして、十数匹のバーバー族たちは、カービィ目掛けて一斉に飛びかかった!


カービィっ!??


熟睡ヒュプノス!」


何かの呪文を唱えたカービィの、スティックの先端がピカッ! と輝いたかと思うと……


「ん? あれ?? なんだか、眠、い……」


俺は、逆さ吊りで宙に浮いたまま、深い眠りへと落ちていった。






「……モッモ、……モッモ!」


「う、う~ん? もう朝ぁ~??」


「朝じゃないわよ! もうすぐお昼っ!!」


「え~、そんなに寝てたの僕~。ん~、ん? ここ、どこ??」


寝惚け眼をこすり、目に映った景色にハッとする俺。

なんだここ? どこだ?? どこの森だっ!??


「もぉ~、しっかりしなさいよっ!」


目の前には、真っ金金のグレコと、ギンロと、ピンクの……、あ、カービィか。


「えっとぉ……、そっか、確か……、迷いの森に行くって言って……」


まだ頭がぼんやりしている俺は、なかなか現状が把握できない。

見ると、すぐそばに、小さなトカゲが十数匹、縄に縛られた格好でスヤスヤと眠っている。


「モッモ、カービィと一緒に崖から落ちて、私たちが合流する直前にそこのバーバー族たちに襲われたのよ。カービィが眠りの魔法を行使してくれたから助かったけど、あなたも魔法にかかって寝ちゃったってわけ」


あ~、そっかぁ~。

うん、なんだかそうだった気がする~。


「悪いな、おいらの魔法、なかなか強力で」


ヘラヘラと笑いながら謝るカービィ。

……謝る時は、笑わない方がいいぞ?


「リーシェが来てくれたから助かったけど……。さすがは迷いの森ね、進んでも進んでも、すぐに元いた場所に戻されたわ」


あ、そうだったのか……


「もうすぐ真昼となる。太陽が西に向かえば、ここは薄暗くなるだろう。そうなる前に見つかって良かった」


ギンロがニコリと笑う。

……その装備、いいな、カッコいいな。


「バーバー族も捕まえられたし、あとはこいつらが目を覚まして、槍の在り処を聞けば目的達成ね」


お、おお~、なんか上手い具合に事が運んでいるようだな!


「じゃあとりあえず……、昼飯にしないか? おいら、魔法使ったから、腹ペコで」


「そうね、とりあえずお昼にしましょうか」


「うむ。モッモよ、鞄を頼む」


「あ、はいはい」


こうして俺たちは、無事、迷いの森で合流し、目的のバーバー族を捕らえ、和やかに昼食をとるのであった。


しかし、ここから先に、あんな事が待っているなんて……

この時は誰も、知る由もなかった。

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