100:なんだか重い話だな

「カービィは七歳の頃、家の本棚にあった悪魔の書を誤って開き、中から出てきた悪魔に両親を殺され、自分も時が止まる呪いをかけられたんだ。まぁ、なぜそんな、悪魔の書なんて恐ろしい物があいつの実家にあったんだって話なんだけど……。カービィの両親は共に魔導師でね。それこそこの村の、マーゲイ族のヒーローだった。こんなちっぽけな村の、少数種族の生まれでありながら、共に魔法王国フーガの魔法学校を卒業してたからね。子どもができて村に定住する事を決めたらしいけど……。あの両親がいろんな魔法道具とか、それこそ悪魔の書なんて恐ろしい物を持っていたとしても、誰も不思議には思わなかった。それくらい、二人とも凄く偉大な魔導師だったんだ」


なるほど、カービィの有能っぷりは遺伝なわけか。


「両親が亡くなってからは、ここ、僕の家でカービィも一緒に暮らす事になった。まぁ、もともと兄弟みたいに仲が良かったから違和感もなかったし、何より本当に、凄く楽しかった。その頃は僕の両親もいたしね。けど、カービィと僕が九歳になる年に、村で奇病が流行った。マーゲイ族だけがかかる病気でね、村の医者には原因も治療法もわからなくて、沢山の仲間が死んでいった。その奇病に、僕の両親もかかってしまったんだ」


なるほど、だからデルグは今、ここに一人で暮らしているのか。


「で、カービィの尻尾の話なんだけど、原因は僕にある。その、両親が奇病にかかってしまった時に、カービィが言ったんだ。迷いの森には、どんな難病でも治してしまう薬草がある、って……。僕とカービィは、すぐさま迷いの森へと向かった。あの断崖絶壁を死に物狂いで下りて、三日三晩、森の中を彷徨った。だけど、森は僕たちの侵入を許してはくれず、どれだけ歩いても、気がついたら森の入り口に戻ってしまっていた。もちろん、薬草なんて見つけられるわけもなく、持っていった食糧が底をつき、僕たちは泣く泣く村へと戻った。そして、戻った時にはもう、僕の両親は息を引き取った後だったんだ」


……なるほど、なんだか重い話だな。


「僕は、悲しくて、苦しくて、カービィを責めた。カービィが迷いの森へ行こうなんて言わなければ、僕は両親を看取る事が出来たかも知れない。カービィなんか大嫌いだ! って、言っちゃった……。そしたらあいつ、何したと思う?」


「……何したの?」


「おいらの尻尾をあげるから許してくれ、とか言って、目の前で尻尾を切り落としたんだよ」


うえぇえぇぇ~!?

何それっ!?? ホラーじゃん、完全なるホラーじゃんかっ!???


「もう、ビックリしたよね、ほんと……、頭がぶっ飛んでる。普通じゃないんだよあいつはさ。だけど、その時にわかったんだ。カービィは、いっつもめちゃくちゃで、突拍子も無い事平気で口にするけど、人一倍寂しがり屋で、誰かに嫌われるのが怖いんだなって……」


……いやぁ~、それでもさぁ~、いやぁ~。

よくそんな、自分で自分の尻尾を切り落とすようなクレイジー野郎を擁護できるなぁ~。

デルグも大概、普通じゃ無いとみたぞ、俺は。


「それからしばらく、カービィが旅立つまでは、この家で二人っきりで暮らしてたんだ。奇病も、港町ジャネスコから医者が来てくれて無事に治まったしね」


なるほど、そういう歴史が、二人にはあったんだな。

……なんていうか、波乱万丈だな。


「あいつ、頭おかしいから……。風の噂で、魔法学校に入学できたとか、実験に失敗して体毛が変色したとか、それでも無事に卒業できたとか、首席だとか……、いろいろ聞いてはいたんだけど、なんだかどれもピンとこなくてね」


うん、さっきの話を聞いてからだと、ピンとこなくて普通だと思います、はい。


「けど、今日、普通に何もない木桶に氷水を出したり、顔の腫れを治したりしたところを見ると、あぁ、本当に白魔導師になったんだな~、頑張ったんだな~って、しみじみ思ったよね」


まるで親心だね、デルグ君。


「あいつ、自分の両親の時も、僕の両親の時も、自分に白魔法が使えたら救えたのに、助けられたのにって、悔やんでたんだ。だから……。ほんと、夢を叶えられて良かったよ」


……うん、うんうん、良い話だ。


「あ、ごめんね、ペラペラと話しちゃって。なんだかモッモさんには、あいつの事知っておいて欲しいなって思って、つい……」


「あ、ううん、聞けて良かったよ。本当に、ただ頭がおかしい奴だったら困るけど、そういう理由があるならね、これから一緒にいても理解できる事もあるだろうし」


「……やっぱり、カービィは君たちと一緒に行くんだね?」


「え? あ、明日からの話??」


「ん、いや、いいんだ。今のは忘れて?」


……ふ~ん、何だろうなぁ?


「ジェ~」


……ジェ~? あん??


「ん? モッモさん、何か言った??」


首を横に振る俺。


「ジェジェ~」


……あ~、あいつかぁ。


「ん? また聞こえた?? モッモさん、何か持ってるの???」


「あ~、その~、実はこういうものを持っていまして~」


ズボンと体の隙間に挟んでいた、マンドラゴラを取り出す俺。

この武道着にはポケットがなく、服を買い換えた際に隙間に挟んでおいたのだが……、どうやら居心地が悪いらしく、マンドラゴラは昼間から頻繁に、不満気な声を漏らしていたのだ。


「……何それ? 魔物??」


あ、マンドラゴラをご存知ないのね。


「あ~うん……、僕のペット」


「へ~、可愛いね♪ 名前は?」


名前!? えっと、えっと……


「ゴラ……、ゴラって名前」


ああぁ~!? 適当につけてしまったぞぉっ!??


「ふ~ん。なんだか、怒ってるようだけど……」


「あ~、うん。実は~」


かくかくしかじかでして……


「なるほどね。なら、僕がそのズボンにポケット付けてあげようか?」


「え? いいのっ!?」


「うん、明日からカービィがお世話になるからね、その前御礼って事で!」


そう言って、お守りを作って余った布で、デルグはササッとポケットを作ってくれた。

その間マンドラゴラのゴラは、水を貰ってご機嫌になった。


「はい、どうぞ♪」


「お~、すごいっ! ゴラ、どうだい?」


「ジェジェジェ~♪」


どうやら気に入ってくれたらしいゴラは、デルグが付け足してくらたズボンのポケットにスッポリ入り込み、可愛らしい顔で二パーっと笑った。

それを見て、俺もデルグも、にっこりと微笑んだ。


「モッモさん、明日からカービィのこと、よろしくお願いします!」


深々と頭を下げるデルグ。


「いやいや、こちらこそっ!」


同じように、俺も深々と頭を下げた。


良い友達を持ったな、カービィのやつ。

ちょっぴり羨ましいぞ、この野郎っ!

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