94:白魔導師
ピンク色の毛並みで、名前がカービィだとぉ?
どこのパクりキャラだよまったくよぉ~。
心の中で悪態をつきながら、何故か隣の椅子に腰掛けて、俺たちと同じテーブルで食事をし始めた自称白魔導師のカービィを、ジロリと睨む俺。
「ほれっ! これも食べなっ!? カービィちゃんの大好物だろぉ!??」
店のおばさんシェフが、頼みもしないのにどんどんといろんな料理を運んでくる。
どうやらこのカービィは顔馴染みらしく、おばさんはえらく上機嫌だ。
俺が店に入った時には、従魔はちょっと~的な反応したくせにっ!
「おおっ! おばちゃんありがとう!!」
遠慮なく料理に手を伸ばすカービィ。
おいおいおい……
こんなに沢山、頼んでも無いのに次々と……
注文して無いんだから、サービスだよな?
まさか、全部支払えとか言ってこないよな??
この村はそこまで物価が高く無いから、手持ちのお金でなんとかなるだろうけども……
てか、こいつ……、パクパク食いやがって、金は持っているんだろうな???
「おまいさんらも食えよ。美味いぞぉ~♪」
カービィの言葉に、俺たち三人はそれぞれアイコンタクトを取る。
このまま、言われるままにこの料理に手をつければ、俺たちも共犯になるのでは?
だがしかし、当たり前だが、どれもこれも見たことのない料理で、どんな味がするのか、食感はどんななのか、正直興味を唆られる。
漂う匂いも申し分無く、我慢しろと言う方が無理な話である。
「遠慮はいらねぇぞ! お代の事なら気にすんなっ!!」
てやんでいっ! という江戸っ子な雰囲気で、カービィはそう言い切った。
お? 君が払ってくれるのかね??
なら、遠慮せずに頂こうかしら???
再度アイコンタクトを取り、頷き合う俺とグレコとギンロ。
そして……
「じゃあ、遠慮なく」
「そうね、残すのも勿体無いし」
「うむ、頂こうぞ」
結局俺たちは誘惑に勝てず、テーブルの上に並ぶ数々の料理に手を伸ばしたのだった。
「改めて名乗ろう! おいらはカービィ!! 25歳のピチピチボーイだっ!!!」
誰が尋ねたわけでもないのに、自称白魔導師のカービィは、勝手に自己紹介を始めた。
……てか、25歳なのね君。
身長が俺とほぼ同じだから、もっと若いと思っていたわ。
なんなら、もっとお子様だと思っていたわ。
「歳のわりに体が小せぇのは、七歳の頃、家にあった呪いの書をうっかり開いちまって、中にいた悪魔に呪われたせいだ。つまり、七歳で体の成長が止まってる。その時一緒に、悪魔に両親を殺されました! その後、十歳で一念発起して、【アンローク大陸】の【魔法王国フーガ】へ移住し、世界一の魔法学校である【ビーシェント国立魔法学校】に入学。普通なら卒業までに十年はかかると言われてるけど、飛び級に飛び級を重ねて、なんと五年で卒業しました!! それからは、主に白魔法と魔法薬学をメインに行使する白魔導師として、フーガの魔導師ギルドに所属し、数年間活動。現在はそのギルドを辞めて、自由気ままに、世界を旅行しておりまっすぅっ!!!」
そう言うとカービィは、先程と同じく、彼の中でお決まりなのであろう、キラーン☆というキメ顔スマイルでピースサインとウィンクを繰り出した。
俺は、ただただ唖然としつつ、デザートである高原ベリーのムースケーキを口へと運んだ。
なんていうか……、何をどこから突っ込めばいいのか……
マーゲイ族は、平均して140センチほどの背の高さがあるのだが、カービィはその半分くらいの大きさしか無い。
だから、パッと見は子どもに見えてしまうのだが……
とりあえず、体が小さいのは呪いのせいであって、年齢は二十五歳らしい。
つまり、俺より十歳上だという事になる。
そして、サラッと言っていたが、既に両親がお亡くなりである、と……
何故その事実を、あれ程までに明るく言えたのか、俺には甚だ疑問である。
……で、魔法王国フーガ、とな?
ギンロが以前話していた、アンローク大陸に現存する二つの魔法大国、そのうちの一つだろうか??
魔法学校と言えば、眼鏡を掛けた、稲妻型の傷を額に持つ少年を思い出すが……
その魔法学校を、飛び級で卒業したと???
ほほう……、つまり、自分はエリートだと、暗に自慢したわけですな????
で、白魔法と魔法薬学を行使する事ができる、白魔導師である、と……
前世の記憶の中にある、俺が知っている白魔導師は、主にヒーラー的な役割を果たしていたはずだ。
つまり、回復魔法を使える職業、ってこと。
この世界の白魔導師、ひいては白魔法というものも、回復系なのだろうか?????
けどさ、なんかこう、ピンとこないよね。
見た目もそうだけど、話し口調とか雰囲気とか、言動がチャラ過ぎて……
彼が神聖な白魔法の使い手だとは、全く思えない。
服こそ白いローブを着てて、いかにも白魔導師らしいのだが……
毛並みがピンク色だし、何故かその表情には一切の緊張感がないのだ。
それに、回復専門の職業なのに、腰に装備している鞭はいったい何なんだね?
その鞭で、いったい何をする気なのかね??
全くもって、白魔導師たる要素が、彼には無い。
「白魔導師か、なるほど……。ならばそれは、白の
そう言ってギンロは、カービィの目の前、テーブルの上にドーン! と置かれている、何やらたいそう分厚く、神秘的な紋様の描かれた皮の背表紙をつけた書物を指差した。
おお~、さすがギンロだ。
アンローク大陸の事、ひいては魔法を使う者の事には、やはり詳しいのかな?
魔導書って、なんだかカッコいい響きだなぁ~。
「惜しいっ! 確かにおいらは白魔導師だけど、この魔導書は、白魔法専門のものではないんだなぁ~。これは【
ドヤ顔になるカービィ。
あまりにドヤドヤしたその顔に、なんのこっちゃ分からない俺たち三人は、沈黙する。
「と、ともかく……。あなたが凄いマーゲイ族なのはよく分かったわ。でも、私たちに何か用なのかしら? 勝手に食事の席に割り込んでくるなんて、無礼極まりなくてよ??」
おっ! いいぞグレコ!! 攻めろっ!!!
「用も何も、おまいさんらが外で盗人呼ばわりされてる所を通りかかってよ。相手はおいらの昔からのダチだったもんで、話を聞こうと思ったわけさ!」
えっ!? あいつらのダチなのっ!??
カービィの言葉に、途端に表情が歪む俺たち三人。
「それなら……、友達の方に聞いたらいいじゃないのよ?」
大層不愉快そうに、グレコが問うた。
「あ!? それもそうだなっ!?? なっはっはっ!!!」
お気楽に笑うカービィを見て、不快感を顕にするグレコと、沈黙を貫くギンロ。
あ~……、なんだこいつ?
魔法学校を首席で卒業したって言うくせに、頭のネジ緩くないか??
「デルグの家は村の東端にある、行ってみようぜ!」
何故かカービィは、俺たちにそう号令をかけた。
え? ん??
行ってみようぜって……、どうして俺たちが行かにゃならんのだね???
「私たちは行かないわ。ここから北西にある港町ジャネスコを目指しているの。ピタラス諸島を経由して、パーラ・ドット大陸まで行かなきゃならないのよ」
ピシャリと言い切るグレコ。
相手してらんないわ、って感じで、食後の珈琲を口へと運びます。
「ほぅ? 奇遇だな! おいらも故郷に顔を出した後で、パーラ・ドット大陸に行こうと思ってたんだよ!! けど、あれだぞ? 商船の次の便は二週間後だ。まだまだ時間はたっぷりある!!!」
おん? なんだって??
よく分からないけど……、パーラ・ドット大陸に向かう船が、二週間後に出航するという事だろうか???
でも、それとこれとはどういうご関係で????
俺たちがその、デルグの家に行く理由は、無いのでは……?????
「お主、何が言いたいのだ?」
胸の前で腕を組んだまま、ギンロが尋ねた。
怒っている様子は無いが、心底呆れた顔をしてカービィを見つめている。
するとカービィは……
「つまり、盗人をおいらたちで捕まえないか? ってことさっ! おまいさんらも、疑われたままでこの地を去るのは気分良くないだろ?? 逃げたと思われるぞ???」
変な事を言ってきたではないか。
盗人を、捕まえるだとぉ~?
なんでそんな事……、するはずないだろ!?
疑われるも何も、こっちは全く身に覚えが無いんだもの、無関係にもほどがある。
逃げたと思われるってのも……、別に、俺はそれでいいけど??
だって無関係なんだもの。
と、俺は心の中で思った……、のだが……
「それは嫌ね。あいつらにもう一度会うのは嫌だけど、逃げたと思われる方がもっと嫌だわ!」
え? ……えっ!?
ちょっ、待っ!??
グレコさんっ!?!?
「右に同じく。舐めた連中には、しかと報復をせねばな」
えぇえっ!?
なんっ!??
ギンロまで!?!?
何故か、グレコとギンロが、またもや殺気立ち始めたではないか。
意味が分からず、二人の顔を交互に見る事しか出来ない俺。
そして……
「よしっ! そうと決まれば、デルグの家へと直行だぁっ!!」
なんでお前が仕切ってるんだよカービィ!?!??
カービィの号令で、椅子から立ち上がるグレコとギンロ、カービィの三人。
そのまま三人は、スタスタと、店の出口へと歩いて行き……
ちょっ、待っ!?
なんで!??
置いてかないでよっ!?!?
アセアセと椅子を降りた俺は、慌てて三人の後をついて行く。
この冒険は、俺の冒険なんだぞ?
この旅は、俺の旅なんだぞ??
主役は、俺なんだぞ???
なのに……、なんでこうなるのぉおっ!?!!?
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