48:僕の楽園がぁっ!!

「この里で一番外界に詳しいエルフに聞いたんだけど、やっぱり【精霊国バハントム】は、南の【パーラ・ドット大陸】に存在する可能性が高いらしいわ。パーラ・ドット大陸全域に生息する獣人型の【ウェルマ族】という魔族がいて、彼らはその土地の守り神である【光の神】を崇めているらしいの。おそらくそれが、【光王レイア】じゃないかって」


「じゃあやっぱり、そのパーラ・ドット大陸ってところに……?」


「行くしかないわね。光王自らのお招きだもの、行かないわけにはいかないわ」


ふむ、なるほどそうか。


ドゥルフが部屋を出て行った後、テーブルの上に神様からもらった世界地図を広げながら、俺とグレコは旅についての相談をしていた。


とりあえずその、南の方にあるパーラ・ドット大陸とやらに行かねばならんらしいが……

どうやってその大陸まで行けばいいんだろう?


「やっぱり、船とか? ……で行く?」


「そうね。【時なしの山】を越えて、ずーっと北に進んで行くと、【ジャネスコ】という港町があるそうよ。そこからパーラ・ドット大陸の北端にある【サラブライ】という町に、定期的に船が出ているらしいの。途中で、間にある【ピタラス諸島】の島々を経由するらしいから、およそ一ヶ月ほどかけての渡航になるそうよ」


「一ヶ月!? 一ヶ月もかかるのっ!??」


 なんちゅう長期戦!?!?


「うん。まぁ、それくらいかかるのが普通じゃないかしら? 船っていっても商船だから、ピタラス諸島の島々にも数日間ずつ停泊するらしいしね」


「あ、なるほど。ずっと海の上ではないんだね」


「あはは、さすがに一ヶ月間ずっと海の上はきついでしょ」


笑うグレコと、ホッと一安心する俺。


「とりあえず、モッモの村に食糧を届けたら、時なしの山を越えましょう。ガディスに麓まで送ってもらえばすぐだしね」


「うん。でも……、その、時なしの山って何? どこ??」


「え? ……あ~、名前を知らなかったのね。ほら、モッモが神様に会いに行った北の山よ、聖地のある場所。私たちエルフの間では時なしの山って呼ばれているの。あの山には、季節問わず、どんな動植物も住みつかない。まるであそこだけ時が止まったよう……、ううん、時なんてないかのような空間。だから、時なしの山」


ほほう、そんな名前があったとは知らなんだ。

ピグモルの間では、北の山々って呼ばれてたしな。


 ……ていうか思ったんだけど、ピグモルって本当に、まるで原始人だよね、生態も知識もさ。

薄々気付いてはいたんだけど、他種族と関わると、その違いが顕著に分かるというか……

 もうちょっとこう、どうにかならんものかねぇ〜?


「もう準備はできているから、モッモの鞄に食糧を詰めたら、いつでも発てるわよ? 特に用事も無いし、すぐにでも発とうと思うんだけど」


「え? ……え~、もう行くの~??」


俺は、名残惜しそうに部屋を見渡す。


エルフのお姉さま方との楽しい日々が、いっぱい詰まったこの部屋。

ここから旅立つなんて、ちょっぴり寂しい……、いや、とっても寂しい!


「あと一泊だけ~」


「駄目、今すぐ行きましょう! ほら準備して!!」


ああんっ!

 お願いっ!!

あと一泊だけぇっ!!!


駄々をこねる俺を無視し、グレコはサッサと荷物をまとめて鞄に突っ込み、俺をヒョイッとわき腹に抱える。


「あぁ~! そんなぁあっ!! 僕の楽園がぁっ!!!」


「はいはい、行くわよ~」


グレコに抱えられたまま、半強制的に、俺のエルフパラダイスは幕を閉じたのだった。







「ぐすん、ぐすん……、お別れの言葉も、言えなかった……」


ベソをかきながら、石造りの塔の一階にある食糧保管庫にて、準備された援助の食糧と作物の種と果樹の苗などを鞄に詰める俺。


「ほほう、素晴らしい魔法ですな! どんどん物が入るとは!! しかし……、モッモ様は何故泣いておられるので?」


「さぁ……、家に帰れるのが嬉しいんじゃない?」


食糧保管庫の管理人であるエルフの男とグレコの会話に、俺はキッ! とグレコを睨む。


 くぅ……、グレコめぇ〜……

この恨み、決して忘れぬぞぉっ!!!


「さっ、全部詰め終わったわね? じゃあモッモの村に帰りましょうか! あ、ここにも石碑建てておかなきゃね。村の外でいいかしら?」


グレコをじとっとした目で睨みつつも、頷く俺。


「そんな顔してないで、ほら! 行くわよ!!」


颯爽と歩き出すグレコの後ろを、しぶしぶついて行った。







石造りの塔を出て、一番近くにある、北側の里の出口に向かう。

途中すれ違ったエルフたちからは、頑張ってね! とか、また遊びに来てね! と声を掛けてもらえた。


絶対また来るからね! お姉さま方!!


里の出口に向かう洞窟に入ると、しっとりした空気に体が包まれた。

壁や床に生える湿った苔の香りと、ピチョンピチョン、という水の滴る音が聞こえる。

頭上に見える光を目指して、俺とグレコは階段を上った。


程なくして、丸い形の光が……、洞窟の出口が見えてきた。

その手前には、なんとあいつが立っている。


「あ、ハネス!」


「やぁ、グレコ様」


あっ! ハネスこの野郎っ!!

またもやのこのこと俺の前に現れやがったな!!!


 洞窟の出口の手前で俺達を待ち構えていたのは、ハンサムなのに性格が悪いグレコの友達、ハネスだ。


「もう、二人にりの時は、敬称はつけないでって言ってるでしょっ!?」


 え? えと……

グレコさん、僕がいます、二人きりじゃないですよ??

 僕がここにいますよっ!?


「グレコ、幼馴染として忠告しといてやる。そいつは神の力を宿しし者ではない。だから、自分の命が危ないと思った時は、そいつを捨てて逃げろよ?」


なんっ!? ハネスお前ぇ〜!??

 最後の最後まで、なんちゅう奴だ!!!?


「言われなくても、命が危なければ捨てて逃げるわよ!」


なんっ!? 嘘だろっ!??

 そうなのかグレコぉぉっ!?!?


 二人のやり取り、その双方の言葉に衝撃を受けて、声を発する事が出来ない俺。

 

「ふっ、ならいい。無事に帰って来いよ」


そう言い残して、ハネスは洞窟の階段を降りていった。


なんだよ!? なんなんだよっ!??

 キィイィィィーーー!!!


「何よあいつ……。行こ、モッモ」


 プリプリと怒って、出口に向かうグレコ。


くっ……、グレコ、俺は忘れないぞ!

さっきの言葉、一生忘れないからな!!

畜生っ!!!


 悔しいやら悲しいやらで、俺は半べそをかきながら、グレコの後ろをついて行った。

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