錯愛リリスファクション 外伝集
アハレイト・カーク
中岡慎太郎の受難(仮)
西暦1867年12月10日(慶応3年11月15日)夕方
京都市街
寒空の京の町中を、中岡慎太郎は寒さを堪えて歩いていた。
彼は用事があって、谷干城のもとへと伺ったが留守であったため、坂本龍馬のいる近江屋へと足を運ぶことにしたのだった。
「今日は寒いし、龍馬さんのところで一泊でもさせてもらおうかな」
などと考えもって歩いていると、不意に脇の小路から女性が飛び出してきてぶつかってしまった。
「おっと、すまない。お嬢さん、お怪我はないですか」
女は頭巾をかぶっていたが、そこから見える日本人離れした顔立ちと、金髪に慎太郎は目を惹かれてしまった。
「ええ。……あら、私の顔に何か付いてますか?」
「い、いや。何でもない。すまなかったな」
そう言って慎太郎は近江屋に向かって歩き出す。不意に振り返ってみると、女がお辞儀をしていたので、名前くらい聞いてもよかったかもしれないなと思う慎太郎であった。
近江屋
慎太郎は、近江屋に着き龍馬と合流すると、火鉢を囲みさっき出会った異人のような女性の話で盛り上がった。
そんなこんなで日も落ち、夜の9時頃。近江屋に客がやってきた。
客人は三人だった。龍馬の用心棒である元力士、山田藤吉は龍馬の知り合いだという客を迎え入れるために、龍馬たちがいる二階に案内しようと振り返った瞬間に斬りつけられ、ギャッと悲鳴を上げた。
「なんだ、藤吉の奴。客人と相撲でも取ってやがるのか?」
下からの物音に、慎太郎は冗談を龍馬に言う。それを聞き、藤吉が騒いでいると勘違いした竜馬は立ち上がり叫んだ。
「
その声が聞こえたのか下の騒ぎは静まり、再び龍馬は火鉢の前に座り込んだ。その瞬間、ふすまが開いたと同時に発砲音が鳴り響いた。
「ほりゃあピストルか?」
龍馬は立ち上がり、銃を撃った客。ショートヘアの栗毛女性に問いかける。
「ええ、さっき外したのはわざとよ。次は眉間をぶち抜くわ。坂本龍馬」
一発目の弾丸は、天井に当たっていた。龍馬はすぐに懐から拳銃、
「二人とも、行くわよ」
「はいはーい」「はい!」
金髪の女は銃をしまい、後ろで控えていた仲間の女を部屋に呼び込み、
龍馬は、栗毛女と黒髪の日本刀を持った女と剣を切り結ぶが、黒髪の剣さばきは、道場の塾頭を務めるほどの武術の才を持つ龍馬から見れば、なんてことない素人の太刀筋であったが、何故か意識を持っていかれてしまう。
対して、栗毛の女の舶刀の太刀筋は、確実に急所を狙ってきており、黒髪の剣さばきに気を惹かれていることさえも考慮に入れたような斬撃で、竜馬を追い詰めていっていた。
慎太郎の方は、もう一人の女。夕方にぶつかったロングヘアの金髪の女との一騎打ちとなっていた。
彼女の刀も舶刀で、常に受け身で、慎太郎が刀を振るった後の隙に一撃を叩き込むといったスタイルだった。
しかし、慎太郎は普段ならあり得ないところでミスをして追いつめられていく状況に焦っていた。死合に運などないが、この時ばかりは運が悪いとしか言えないほどの状況だった。例えば、弾かれた刀があらぬ方向へ動いたり、確実に当たるといったところで失血による立ち眩みが襲うなどといったように、まともな反撃ができぬまま、慎太郎は追いつめられていた。
龍馬の方も大きな傷を負っており、このまま戦いが長引けば命の危険があった。だが慎太郎も助けに行ける状況ではなかった。
だが、慎太郎の足に何かが当たる。先ほど龍馬が撃とうとしていた拳銃であった。慎太郎はとっさに拾い上げ、リーダー格の栗毛の女性に狙いを定めて叫ぶ。
「龍馬!」
引き金を引き発射された弾丸は確実に栗毛の女に命中する軌道を取った。しかし、突然軌道が変わり弾丸は龍馬の胸へと吸い込まれていった。
龍馬は血を吹き出し倒れこむ。
「残念ね。私のこんな近くにいるあなたはとっても不幸よ。ましてや私とぶつかってしまったところから不幸だったわね。あれさえなければ貴方も龍馬さんも死なずに済んだかもしれないのにね。まあ、私にとっては幸運なんだけどね。」
金髪の女は慎太郎を見下ろしあざ笑う。
「もういいわ。龍馬は始末したし、見回り組の連中もそろそろ来る頃よ」
栗毛の女性はそう言って部屋を出る。それに続いて黒髪の女も部屋を出た。
「それじゃあね、慎太郎さん。楽しかったよー」
そう言って金髪の女は走って部屋を出ていき、部屋に静寂が訪れた。
「龍馬……さん」
そういって、慎太郎は龍馬の方に這いずって行こうとした状態で意識を失った。
「遅いわよ。何してたのよ?」
栗毛の女、灰原葵は金髪の女、金山四葉に叱責する。
「慎太郎さんにお別れの挨拶をね。これで、彼は何か話そうとしても大事なところで運悪く死ぬわ。可哀想にね」
四葉はにたりと笑顔を浮かべる。
「蘭さん、大丈夫だった? 初めての実戦だったけど」
葵は黒髪の少女、日ノ出蘭に尋ねた。
「思ったより簡単なことなんですね。人を殺すっていうのは……」
「そうよ、人は簡単に死ぬ。ましてや戦争なんかがあれば一瞬で大勢の人が死ぬんだから。でもそれは、私たち金蓮花党の目標、女性のための国造りにとっての尊い犠牲となるわ。もうすぐ始まる幕府と新政府の戦、存分に利用させてもらうわよ」
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