人類滅亡十分前

菊郎

人類滅亡十分前


 地球に小惑星が激突すると国際機関が発表した時には、すでに手遅れだった。

 楽観的な役人たちが識者による再三の警告を突っぱねた結果らしいが、過程はどうでもいい。

 幹線道路には車が列を成し、クラクションや怒号が連日飛び交っている。スーパーからは食料品が姿を消した。つい三日前には食料を巡った近所同士の争いが飛び火し、暴動に発展したという。警官隊と市民の衝突は毎日起こっている。そこかしこで終末論を唱える宗教の勧誘員がのさばっているが、誰が入信しようと、どうでもよかった。みんな、自分のことで精一杯なのだ。最後の時は、刻一刻と迫っている。

 Kの眼前では、いい歳した大人たちが鋭い剣幕で罵り合っていた。統一された黒い制服の胸元にはみな、いくつもの勲章が留められている。

「中将、今回の責任はあなたにある。どうしてくれるのだ」

「少佐風情が、生意気な口を叩くな」

「国家、引いては世界の危機というのに、階級にこだわっている場合ではない。あなたが国際機関のM氏やA氏に口添えしたのだろう。一部の勢力から資金提供を受けているという噂もある」

「私は軍人だ。国家と国民、閣下に尽くすのが使命なのだ。安全保障で私が詭弁を唱えるなど、あり得ぬ」

 いがみ合うふたりの間に、白髪の男が割って入った。

「まあまあ、ふたりとも。落ち着いて」

「この恥知らずに、大将もなにか言ってやってください」

 白髪の男は少佐と向き合った。

「少佐。中将は大雑把な男だが、忠誠心はたしかだ。軍に入隊して四十年、こいつの傍にいた私が保証する」

「しかし……」

「いいかね。組織における最大の強みは、結束だ。足並みが乱れれば、烏合の衆と変わらんよ」

 大将は会議室の中央へ歩いて行った。周囲の者が、彼に注目した。

「重要なのは、わが国の核兵器の更新時期を狙って、事態が起こったということです。得をするのは、一国しかありません」

「R国だな」

 会議室の最奥に座っている大統領が言った。

「はい。今回の小惑星衝突は、R国が引き起こしたものだと推測されます。諜報部からも同様の報告が上がっています」

 大統領は立ち上がると、

「大将、T海沖を航行している潜水艦に連絡を。槍を放つ」

「はっ。潜水艦の現在地からならば、R国首都への着弾は十分後といったところでしょう」











 

 

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人類滅亡十分前 菊郎 @kitqoo

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