4.バトル 4
「あいつら、どこへ行きやがった」
チャラ男たちが、頭から水を滴らせ、キョロキョロと辺りを見回した。
と、そこへ。
「や〜、水も
ひょこっと右の障害物の上に真琴が姿を現した。
「男前度アップっすよ〜」
左の障害物の上には、いつの間にかコウキが立っていた。
「お前ら……!」
チャラ男たちはめいめい水を発射するが、狙いが定まっていなかった。
「先輩たち、足遅いから」
「俺らに追いつけるかな〜?」
真琴とコウキは、あはは!と笑いながら、チャラ男たちの水を避けると、障害物の向こう側へと姿を消した。
真琴のほうへは
その判断は、悪くはない。二対一なら、二のほうが絶対有利だからだ。
コウキは、笑いながら、
障害物の間を駆け抜けたかと思うと、いつの間にか障害物の上に登り、当てる気のない水を発射しては逃げる。その様子は、いつでもお前らなんか殺せるんだ、と言わんばかりだった。
コウキを追いかけた
右へ曲がったかと思ったら、障害物を足場に頭の上を駆け抜けて行く。
せめてビビらせて足を止めようと水を撃つが、当たらないことがわかっているのか、コウキは全く意に介さなかった。
「一年!ちょっとは止まれ!」
「ぃや〜っす!」
コウキはそう言うと、ぴょんと障害物の向こうへと飛び降りた。
障害物の上に、自分の武器であるバケツを置くと、グッと両手で体を持ち上げる。
「おめぇ、何してんだ。さっさと来いって!」
「や、ちょっとここ、登れるかと思って……」
よいしょ、とやや不格好だったが、
これなら、もっと早く登ればよかった、と思う彼の足元に、音もなくクロが近寄っていた。だが、遠くを見るのに忙しい彼は、それに気がつかない。
さて、置いて行かれたけれど、
死角から飛んで来た水弾に、彼の二つ目の
◇
「ピンク、
司会のその声に、コウキはわははっと笑った。そして、さらに動きがトリッキーになる。
コウキは、絶好調で、校舎から見ている者たちに手を振ると、ちょろちょろと中庭の木に登る。
「追い詰めたぞ!」
登ったそこは、行き止まりだ。いくらトリッキーな奴だろうと、もう袋の鼠だ。
だが、すぐにその顔は苛立ちに塗り替えられる。
なぜなら、飛距離のない
コウキは、足元に届くか届かないかの水を一切気にせず、
すると、
「ピンク、
サダが、真琴の方もうまく行っていることを教えてくれた。
コウキはにま〜っと笑うと、後半戦、行ってみよ〜と木から飛び降りた。
◇
さて、時間は少し
「あいつ、どこ行った!」
「あっちじゃないか?」
そう話す声を背中に、サイトーが待機する所まで静かに進む。その進みは、二人に見つからないようにかなり慎重なものだった。
なんの訓練もしていない真琴だったが、音楽と野次が足音を消してくれる。着ているパーカーは、障害物と同じ色彩だったので、一応、迷彩効果が得られる。
それらを味方に、真琴は、二人に発見されることなくサイトーのところまで戻ってくることができた。
その時、ピンクの
サイトーと目線だけで「1
そして、お互い準備を整えると、真琴は耳を澄ました。と、そこへタイミングよく、野次が聞こえる。
「マコト、足止めてんじゃね〜!動け動け!」
「うっさ〜い!こっちにはこっちの考えがあるの!」
居場所がバレても構わないとばかりに、真琴が野次に叫び返した。
その声に反応して、敵が向かって来る。
真琴は、一緒に身を隠していたサイトーと視線を交わす。
「……完全試合まで、あと半分だね」
「行けるか?」
「誰に聞いてんの?」
「だな。……行くぞ」
交わす声には、どこか怒りが潜んでいた。
障害物から顔を出した真琴は、失敗した!とか、困った!と言うような表情をしていた。
真琴と目があった
何を話しているのかわからなかったが、傍にいる
そして、迷いなく真琴の方へと向かってくる。
「きゃぁ!」
我ながら、棒読みだな、と思うが、作戦だから仕方がない。可愛らしい悲鳴をあげて、逃げるふりをする。
その時、通り過ぎたサイトーが、笑いをこらえているのが見えた。
……サイトーとはゆっくり話す必要がある。だが、それは今ではない。
開始早々、真っ先にやられたのが
そんな警戒、するだけ無駄だ。
サイトーは、敵が射程圏内に入ったのを確認すると、隠れていたところから飛び出した。
「いた!……あれ?」
人の気配を感じた
その横には、水がなみなみと入ったドラム缶が。
二人を、嫌な予感が襲う。いや、予感ではない。それはすぐに現実のものとなった。
サイトーは、歯をむき出して笑う。そして、気合いとともに、バケツの水を二人にぶっかけた。
「うらぁ!おりゃぁ!」
「うわ!」
「げっ!」
だが、サイトーの攻撃は、途切れることがなかった。
なぜなら、ここは、各
ここは、空になった水鉄砲に給水するだけでなく、このように
遠慮容赦なく、頭から水をかけられた二人は、ずぶ濡れになって、スタート地点へと帰って行った。
◇
「どっちがくると思う?」
「賭けるか?」
「私、
「……賭けになんねーな」
二人の言葉通り、最後の一つの
戦局は、0
「ここまですると、ちょっと大人げねーな」
と真琴たちと合流したクロが言った。
「じゃ、お前、死んでやったら?」
「……ねーわ」
自分の言葉に乗って来たサイトーを否定して、クロは、頭を振った。
敵は、コウキのところに一人、スタート地点に二人。スタート地点の二人は、何か話し合っているようだった。そして、話し合いが終わると、
「なんか考えてんな」
「一応、油断せずに行こう」
「じゃ、マコト。お前様子見てこい」
「は〜い」
横からの奇襲を警戒しながら、真琴が
「はぁ!?何それ!」
その情けない姿に、真琴が
何だ?何かあるのか?
先ほど、
そして、それに思い至った真琴は、笑いながら足を止めた。
「あはは!先輩、さっきと同じことしようとしてます?」
真琴の笑い声に
「……は?何がだ?」
「
「……!!」
図星だったのか、
「やだなぁ。もっと、オリジナリティ見せてくれないと。コピーなんて、世の中に
真琴のそのセリフが、
冷静さを欠いた者など、敵ではない。武器によるハンデを物ともせずに真琴は
「ピンク。
サダの声が中庭に響き渡る。
真琴はその瞬間、油断していなかったと言えば嘘になる。
目の前には、死んだ
だから、脅威になるものはいないはずだったのだ。
だが。
「くそっ!この一年、ナメやがって!」
死んだ
「――!?っやぁ!」
先ほどのわざとらしい声とは違った、切羽詰まった小さな悲鳴が真琴の口から漏れた。
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