運命に嫌われている

一ノ瀬

一章 BAD ENDを回避しろ!

プロローグじゃない、これはバッドエンドだわ

 「お疲れ様でした~お先でーす」


 本日も何事もなく業務を終了し、定時上がり。同じ帰宅道、同じ時間帯の電車、バス。いつもと何も変わらない極々平凡な二十九歳(童貞)のリーマン生活。

 自宅付近のコンビニで、いつも俺が来店時にいるバイトの子をからかいながら缶ビールとつまみを買って帰る。勿論帰宅を待つ人は誰もいないソロ生活。


 本当に何事もない人生だった。

 一般家庭に生まれ、普通に小中学校を地元で通い、友人と遊んだり部活動にほどほど青春の汗を流したり、高校は変化を求めて、自分の学力より遥かに高い所に進学した結果…勉学に手一杯でこれといった思い出も残らなくてそのままバイト先に就職。


 何か面白いことないかなーとか、アレしたいコレしたいという欲求は無いと言っては嘘になるが、現状の生活に充分満足していた。今でも年数回は学生時代の友人達と飲みにも行くし、職場ではそこそこのポジションで、皆からもそこそこ信頼されている。世界は自分の視野じゃ見渡すことは不可能だが、自分の見れる範囲では十分に日々を謳歌しているつもりだ。

 劇的な変化は疲れるし、新しい事にチャレンジする体力など微塵も無い。逆に普通の日常を過ごせている自分が幸せだとさえ感じている。だってそうだろ?世の中には俺の陳腐な頭じゃ想像できないような苦労をしている人もいれば、死と隣あわせな場所で膝を震わせながら生きている人もいる。実際ニュースやネットでしか知らない情報なので、正直知ったこっちゃない。俺は俺でしかないのだから。世界中の苦しみや悲しみなんて想像できないし、分かりたくもない。


 唯……唯一、自分の人生に最大の悔やみがあるとしたら――――彼女が一度もできなかったこと。

 外見は決して悪くはないはずだ!いやマジで! 

 だけど、何というか小中は遊びに夢中だったし、高校は勉強に夢中…。恋愛をする機会が全く無かったのだ。職場は恋愛禁止だしな!


 この歳になるとさすがにヤバくね?って思ってしまうよね、さすがに。親からは最早お見合いの連絡以外こなくなったし……死んでも行かないけど。

 おっさん予備軍(童貞)はさすがに焦ってます!助けて神様!お金ならそこそこアルヨ!ネットで予備知識は腐るほど学んだYO!


 ピンポーン


 現実逃避している間に出前が到着したようだ。

 心の涙を拭い、玄関先に向かう。


 「はーいお待たせしまし《ドスッ》……んえ?」


 恐る恐る奇妙な音がした方向――――――自分の胸元を見ると、そこにはナイフが刺さっていた。


 ???え?Why?ええ?

 理解が全くできず、体に力が抜ける。見事なまでに呆気ない最後だった。

 死ぬとわかっているのに痛みが麻痺して感じないせいか、考えるのは後悔ばかり。


 (…一度でいいから女の子と……キスぐらいしてみたかったなぁ……無念)


 刺したであろう犯人の顔を見上げる力も残っておらず、ただ刻一刻と光が失うのを待つだけ。


 「GAME OVERおめでと。次もこうならないように頑張ってね?」


 薄れゆく意識の中、少女の声が聞こえた気がした。

 瞼が段々重くなっていく。来世はモテ男になりますようにと願い。



―――――――――――――――童貞は呆気なく死んだ。










「カウントを開始します。残り回数、十回になりました。残り回数以内に死の運命を回避してください、以上」


 強制コンティニュー開始


 

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