第5話 全力疾走
「おらぁっ!」
ダルドさんが巨大ミミズに斬りかかりました。相手は大きかろうと所詮はミミズ。彼の剣はたやすく巨大ミミズを切り裂くと思われました。
しかし、彼の剣は傷を与えることができませんでした。ミミズのまとう粘液が刃を滑らせ斬撃を防いだのです。
「くそっ、攻撃が通らん!」
ダルドさんが吐き捨てるように言いました。剣士の彼では相性が悪そうです。
「ダルドどいて! アクアランス!」
マリーさんが水魔法で攻撃しました。彼女は火力の花形である魔法職、これなら効くでしょうか。水でできた槍がミミズの頭に命中します。衝撃でミミズが後ろにのけぞりました。
「今のうちに逃げましょう!」
私は撤退の指示を出しました。ここはダンジョン。今は相手が一体ですが、騒ぎを聞いて他の魔物が集まってくる可能性があります。逃げられるうちに逃げるが吉です。私達は入口に向かって走り出しました。
「ジェミーはどうした!? どこに行った!」
ダルドさんが声を荒げます。
「さっき一人で逃げていきました。私達が戦っている隙に」
「畜生!」
「GYAAAAA!」
巨大ミミズが咆哮をあげながら追いかけてきました。
「ぎゃあああああ!」
私達は悲鳴を上げながら逃げます。元来た道を右へ左へ、曲がりくねった一本道を駆け抜けます。そしてジェミーさんに追いつきました。
「てめえっ! よくも俺たちに擦り付けやがったなっ!」
「あ、あんたら、なんでこんなとこにいるんだ!」
「いいから走って! 追いつかれるわよ!」
「お、置いていかないでくれ!」
ジェミーさんが徐々に遅れます。どう見ても金塊を背負っているせいですね。
「そんなもん置いてけ! あほが!」
「いやだ! 俺は金持ちになるんだ!」
「GYAAAAA!」
巨大ミミズが徐々に間を詰めてきました。
「ぎゃあああああ!」
「このままじゃ追いつかれるわよ!」
「足止めしてみます! このまま走ってください」
私はそう言うとポケットから魔石を取り出しました。魔石というのは魔力を多く含む鉱石の総称です。それぞれ決まった属性があり、その属性の魔法を使う際に効果を高める触媒となります。この魔石は火属性のCランク、そこそこの値段が付く代物です。私はスキルを発動させ、魔石にステータスを与えました。
『足止めをお願いします』
『了解した。この身を捧げよう』
私は魔石にお願いをすると、走りながら後ろに魔石を放りました。そして巨大ミミズが魔石を踏んだ瞬間、魔石は自爆しました。
私のスキルは物と話すだけではありません。命を与える時に、スキルも与えることができます。今回与えたスキルは「自爆」。魔石は私のために命を散らしてくれたのです。どうか安らかに魔力へと還ってください。
爆発の衝撃で洞窟の奥が崩壊しました。ミミズは押しつぶされて死んだようでした。
「やったか!?」
「分かりません」
洞窟は完全にふさがってしまっていました。
「そんな、せっかく見つけた金鉱脈が……」
「急ぎましょう。ここも崩れるかもしれません」
私たちはうなだれるジェミーさんを連れて洞窟を出たのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます