第33話 魔王、壁ドンされる
目の前の四天王の残り物と遊んでいた私だったが、退屈なので適当に残り物をあしらいつつ勇者達の戦いを見物することにした。以外にも勇聖者のヤツ、なかなか優位に立ち回っている
「ふ、どうやらお互いハンデはない様だな」
エルブのその言葉に勇聖者は聖職者にあるまじき不敵な笑みでエルウッドブに挑発し返し、エルブは狼狽え始めた
「ハンデ?私と同等だとでも? そもそも相手に攻撃が利かない貴方より、相手に一発お見舞いすれば決着がつけられる私の方が断然有利でしょうに」
「強がるな、一本目のナイフが貴様に不完全とは言え刺さった以上、その防御法は完全ではあるまい。攻撃を予想せねば浄化できぬのではないか?」
「確かにその通りですが、急所を狙われるのは慣れっこなので予測するのは簡単ですよ」
「その思い上がり、果たしてこの俺に通じ・・・」
「ああ、無駄ですよソレ。急所攻撃が見切られてしまうなら急所以外を攻撃すればいいとの魂胆でしょうが」
「なに」
「殺傷能力の低いナイフ戦において、筋肉や腱、神経などを攻撃し運動機能をマヒさせる、顔や額を攻撃し出血で視野を狭くさせ感覚を鈍らせる等と言った、相手の戦闘力を削ぐ戦術に長けているのは重々承知してますからね」
「そんな聞きかじった知識だけで対応できるとでも」
「面倒くさく難しいので使い手は少ないのですが、マトモな武器も変えない貧困層が住むスラムには結構おおいのですよナイフ使い。そう言う貧乏な人って人生神頼みな人おおいですよね、僕は聖職者ですよ。質が悪い人だと教会の備品とか盗みに来ますし、対応には慣れてます」
「う…」
エルブは完全に勇聖者の狂言に押されている。そやつ、少なくとも私が出会った時はスラムどころか人付き合いを嫌って町はずれの墓場に勤務していたのだぞ。まあ、元尖兵ゆえ有り合わせの武器で対応できるようナイフに扱いにも長けているのは真実だろうが・・・
「まあ、適当に動いてもいいですけど、戦術に合ってない動きで隙を見せず戦えますかぁ? こう見えて人より人生経験豊富なんですよ僕」
そう言えば真実を混ぜた嘘の方が相手を信じさせやすいと悪魔が言っていたな。勇聖者もそれを心得ているのか、続けてエルブを挑発した。エルブの返答は・・・
「うるさい! 浄化で魔力を使う以上、どちらかの魔力が先に尽きるかの勝負! たとえ聖職者と言えど魔族である俺に魔力量で敵うものか!!」
・・・先にハンデが無いなどと口走っていた者が言っても説得力は皆無だろう、しかもあのように狼狽えていてはな。聖職者相手に舌戦を挑んだのは無謀であったな。逆に相手に押されていた勇者の様子はどうだろう?
「ガキン」 「ガン」 「ギュン!」
「カン!」 「シャン!」
勇者は鍔迫り合いでは不利だと判断したのか、間合いを広く取った斬り合いを挑んでいる。相手のゲッテムは勇者を挑発した
「フハハ!なんだ、身体能力だけでは俺には敵わんぞ! 技の一つでも使ってきたらどうだ!」
「うるせえ! こっちにも事情があるんだよ事情がぁ!!」
なにせ勇者は戦闘スキルを一切持っていないからな。ゲッテムもそれに気づいた様だ
「ふん、使わないのではなく使えんのか。不甲斐無い奴よ」
「そんでも他にやりようはあるさ!」
勇者はゲッテムが油断した隙に首元からなにかを取り出しそれを口に運ぶ
「ごくッ、・・・ぷふぁい!」
どうやら薬の瓶を紐で結びネックレスの様に首に下げていた様だ。鎧との間に仕込んでいるのだから攻撃を食らうと割れてしまいそうなものだが・・・、あえて狙っているのか? 回復薬の瓶が割れ、中の薬液が身体に掛かれば回復できるであろうからな。しかし勇者が飲んだのは回復薬ではあるまい
「いまさら小細工をしたところでッ!」
ゲッテムの攻撃が勇者に襲い掛かるが、その攻撃を勇者は弾いて見せた
「ギイィン!!」
「なにぃ!?」
「力が足りないなら補充するまでよ!」
なるほど身体強化薬か。本来なら胴に強い力が加えられると割れ、己が肉体を強化させる算段だったのだろう。わざと攻撃を受け相手に優位だと思わせ、強化した身体で奇襲する。相手にしてみれば相手が何の前触れもなく強くなるのだから面食らうであろうな・・・
「こしゃくな真似を!」
「さあ、こっから本気で行くぜ!!」
・・・今回は相手が悪くその手は使え無かった様だが。まともにゲッテムの攻撃を受けていれば鎧ごと真っ二つだろう
「フハハ! 良いだろう貴様の本気をみせてもらう」
「ああ、どこぞの魔王様には通じなかった生兵法だがな!」
なんだと? 全く気付かなかったが何時だ? あの爆発が起きた時か、やけに城の残骸を綺麗に捌くものだと思ってはいたが・・・
「むぐ?」
物思いにふけっていると不意に背中に冷たい感触がした。やれやれ、勇者との戦いを思い出していたら少々力が抜けてしまったようだ。この様な者にこの私が壁まで追い込まれるとは
「キサマァ! 少しは真面目に戦ったらどうだ!!」
私に自慢の槍を口で咥えられ防がれご立腹の残り物…、名前はたしかリーンだったか? リーンは強く槍を押し込もうとしているが、そんな力では私を壁に押し付けても名なお、貫くことは出来まい。しかし少しボーとしてしまったのは悪かったな、少し愛想を良くしてやろう
「
「キ、サ、マァァアア!!!!」
さらに怒らせてしまったようだ。しかしこの槍先、これだけ力を加えてもまったくビクともしない。これだけ強く噛んでも歯を食いこませる事も出来んとは。・・・・どの様な業物か気になるな、味をみておこう
「ぺろれろ・・・」
「ッ!? 口の中で私の槍に何をしている!!!」
ふむ、アダマンタイトに何か混ざっているな。この味は爪・・・・、いや、
「チロ、ペロ・・・」
昔は人類も海獣や神木に宿ったヤドリギからこういった業物を作っていたのだがな・・・。あの頃はよかった、張り合いがあって。私もまだ魔王とは程遠い小僧であったが・・・
「ふざけるのも大概にしろ!!!!」
・・・・うるさいな、この残り物。たまには思い出に浸らせて欲しいものだ
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