Web小説書いてますっ!
けしごム
第1話
『≪1日目≫
私は学校の昼休み、いつものようにひとりでスマホをぽちぽちしてカクヨムというサイトでWeb小説を書いていた。
よし、書き終えた!
【卵焼きの作り方】という短編ラブコメだ。
話の設定とかはなかなか良いものが思い付けたと思うんだけど、それを上手くいかせる表現力とか文章力が私には欠けていて残念。でも、自己満足だし全く気にしない。
私はこの作品をとても気に入ったのだから。
えいっ、
【公開】ボタンを押して【今すぐ公開する】をタッチ。
あ、いけないいけない、小説の紹介文書いてなかった!
急いで入力し、ついでに自主企画にも参加してイメージカラーも可愛い色に設定した。
なんだかんだ、ラブコメが私には一番書きやすい。
みんな読んでくれるかな、なんて思いながら自分でもう一度読み返す。
・・・ありゃっ、誤字がある!
慌てて小説管理ページから編集ボタンを押して誤字を直す。
ふう。
公開直後はなにかとあわただしい。
まあ、それが楽しくもあるんだけど。
それから時計を見るとまだ昼休みの残り時間はあったので、プロフィールの編集でもしようかとプロフィールを開く。
うーん、最初に設定したときから変わってないなあ・・・笑
さすがに変えようかと思い少し手を加える。
ちなみにペンネームは【炭水化物】という意味のわからないものである。
食べることが好きだからという実に短絡的な思考によりこれになった。
プロフィールの編集を終え、再びプロフィールを読んでみる。
うんうん、まあ、なんだか変な人って感じになっちゃってるけど気にしない気にしない、
「あれ、中山さん。
いきなりごめん、それ、カクヨム?」
「ひぃっ!?」
突然、背後から話しかけられて縮み上がる。
わわわ、か、カクヨム知ってるんですかあああっ!?
て、てか、私=炭水化物だとバレてないですよね!大丈夫ですよねえええ!?
「そ、そうだよ、カクヨム・・・」
サッとスマホを机に伏せる。
ちなみに話しかけてきたのはクラスメイトの相川さとるくんという人だ。
話したのはこれが初めてである。
「カクヨム知ってる人がいるなんて!
中山さんどんなの読むの?
あれ、もしかして執筆もしてる?」
よかった。
私が今、【炭水化物】のプロフィールを見ていたことはバレていなかったらしい。
執筆しているなんて、口が裂けても言うものか!
「えっと、よく読むのはみ、ミステリーとかかな~。
執筆はしてないよ~」
本当はラブコメの方が好きだけどなんとなくそう言ってみた。
だって、私はラブコメとか読みそうなキャラじゃないから。
マジメな人、っていう感じなんだよね。クラスのなかでは。
「あ、俺も読む!
俺も読む専!
どうも文章書くのは苦手でな~。
あ、お気に入りの作家とかいる?」
げげげっ、メチャメチャいるけれども~!
私の好みがばれる!
「う、うーん、いるけど名前忘れちゃったな~ははは・・・」
笑ってごまかす。
誤魔化されてくれ!
「おー、そっかー、
もしミステリーしか読まないなら興味ないかもしれないんだけど、ラブコメ書いてる人で、炭水化物って人がいるんだけど面白いよ!俺の1番のお気に入り!
最近、何作品か非公開になっちゃったんだけど、1つかふたつはまだ公開になってたから読んでみて!
えっとねー、コレコレ・・・」
ちょっとぉっ!?
えええええ、ちょっと待ってくださいなあ!
そ、それ、
あたしなんだけどっ!
ひいいいいいいっ!
相川くんが自分のスマホをこちらに向けてきた。
「この人!
理系くんの実証実験てのが1番最近の作品、ってええ!?うそ!新作公開されてる!!
っつかたった今じゃん!」
そ、そうですよだっていま、公開しましたもん!
大大大パニックの私!
「今回は文字数がけっこう多いな!
へえ~楽しみ。
ね、読んでみてよ。この人の作品!短編だしそんなに時間はかからないからさ」
パニックの私は、ここではたとあることを思い付いた。
これは、チャンスではないか?
まさに、読者の声を聞くためのチャンス!
よし、乗った!
「うん、わかった。読んでみるよ」
「明日感想聞かせて!
カクヨム知ってる人がいるとかめっちゃ嬉しいわ!
じゃ、授業始まるからまた!」
そう言って爽やかに相川くんは自分の席へと戻っていった。
はあ、なんだか大変なことになりそうだ・・・。
――――――――――――――――
≪2日目≫
「中山さん!読んだ?」
「うん、読んでみたよ!」
「どうだった?」
小さい子供のように目をキラキラさせて私をみる相川くん。
うわあ、自分の作品よいしょするとかすっごい嫌だわあ・・・。
「え、えーっと、面白かった、よ、」
「やっぱり!?
俺、昨日、新作の【卵焼きの作り方】読んでみたんだけどさあ、これも面白くてさ。
ねえ、中山さんから見て、炭水化物さんって何歳くらいの人だと思う?
プロフィールに、女ですとは書いてあるんだけど・・・」
JK2年でーーーーす!
心の中で叫ぶ。
よし、今日帰ったらプロフィールに高校2年生と書いておこうではないか。ほっほっほ。
「えー、どうだろう、文章力とか微妙だし高校生じゃない?」
「あー、こういう文章って文章力ないの?俺、そういうの全然わかんなくてさー。
でも話が面白いから俺は好きだけど。
高校生かあー、知り合いになれたりしないかな。」
やっちまったーーー!
つい炭水化物の悪口を言ってしまったーーー!
「知り合いに?どうだろう、なれるんじゃない?
というか、なってどうするの?」
相川くんはぽりぽりと頭を掻いて少し恥ずかしそうに、
「んー、とりあえず、ファンですって伝えたいかな。」
もう伝わってるよーーーー!なんていう私の心の叫びは伝わるわけがなく。
「そ、そっかー、知り合いになれるといいね!」
ーーーーーーーーーーーーーー
≪3日目≫
「中山さん!見た?
炭水化物さん、高校2年生だって!
ちょっとプロフィール覗いたら付け加えられてた!
あと、また新作!それも新ジャンル!
炭水化物さんのミステリーなんて初めてでさあ。
てか、このミステリー宝石が絡んでくるんだけど、やっぱり宝石のことちょっと知ってるってことは高校生じゃなくない?
どうなんだろう・・・」
コイツ、マジで私のファンなんだな!!笑
確かにミステリーを自主企画に参加するために書いた。
宝石のネタは、とあるミステリー小説で読んだだけだ。
「さ、さあ?
高校生でも、ちょっとしたところからこれくらいの情報なら仕入れられるんじゃない?」
「え、そうなのかなあ。
まあ、高校生だと嬉しい!
あー、高校生だといいなあ!
炭水化物さーーーん!」
ーーーーーーーーーーーーーー
≪4日目≫
私は昼休み、相川くんが炭水化物のファンであることを知ってからカクヨムを開くのをやめていたのだけれど、カクヨムからメールが来ていてなんと、初のコメントが届いていたっ!!!
うーれーしーいーーーー!
ありがとうございますうううう!!!
この嬉しさに負けて、カクヨムを開いてしまったのだ。
にやにやしながらコメントを読み、なんと返信しようか考えていたら
「中山さーん!」
やっちまったーーーーっ!
「・・・えっ!?中山さん?
ええっ、ちょっ、あの、もしかして中山さん!?
たたた炭水化物さんて中山さんなの!?」
ばーれーたーーーー。
相川くんにひょっこりとスマホを覗かれてしまいあっさりと炭水化物=私とばれてしまった。
相川くんと初めてカクヨムの話をしてから数日しか経っていない。
あーあ。
「う、うん。ごめん、隠してて」
コイツ最低、とか思われたらどうしようなんて焦ったけれど、
「いやいやいやいや!
俺がめっちゃはしゃぎすぎたから悪いから!
そりゃあ言い出せないよな!
え、でも待って、すげー嬉しい・・・」
目を丸くして私を見る相川くん。
ちょっ、見すぎです!
「ね、中山さん、今度、どこか一緒に遊びに行かない?
・・・あ、ふたりで。」
ええええっ!?
いや、勘違いするな私!
相川くんはあくまで炭水化物を好きなわけで私のことをどうこう思っているわけではない!決してない!
「えっ、いや・・・、あの、」
「あ、ごめんごめん、こんなにいきなり!
でも、正直言うと俺、ずっと前から中山さんのこと気になってて・・・、
中山さんが炭水化物さんじゃなかったとしても、仲良くなりたいなあとか思ってて。
だからカクヨムの話持ち出したんだし、、。
もちろん、中山さんが炭水化物さんだってことも本当に嬉しいんだけど、
それより、あれかな、炭水化物さんというより中山さんと遊びたいんだ。
だ、だから!何を言いたいかっていうと!
中山さんとまずは仲良くなりたいから俺と一緒に今度遊んでくれませんか!」
えっ、こんなことって、あるの?
わたしが書いてるラブコメなんかより、どうしよ、よっぽどドキドキする・・・。
相川くんの目はホンキそのもので、こちらが恥ずかしくなってくるくらいだった。
「こちらこそお願い、します」
ふっと嬉しそうに笑った相川くんを見ると同時に、どこからか恋の音がした。
「応援コメント書いたの、俺だよ」
「えええっ、ありがとう・・・!」』
という妄想をしてみた。
私は現実に引き戻され、ひとつため息をついてから【今すぐ公開する】をタッチした。
これが、とある日の炭水化物であった。
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