第3話 ドヴェルグの学校
ゴブリンとの戦闘から3日が経った。
俺は今ドヴェルグの学校に通っている。
学校といっても前世のような基礎知識を学ぶ場ではなくて、授業は午前中に二つのみで読み書き計算のみならずドヴェルグの生活に必要な鍛治やルーン文字に関する授業も行っている専門学校のような場所だ。
「今日の授業はルーン文字についてじゃ。」
そう言って授業を始めたのはルーン文字と鍛治の授業を担当しているヴァルター・ベーレンス教官だった。
ベーレンス教官は258歳で、鍛治職人をしながらルーン文字の研究をしていてルーン文字に関しては俺が住んでいるアイリヒの町(ドヴェルグの王国の西に位置する)随一と言っても良い人物だ。
「まずルーン文字は全部で何文字じゃ。そこのお前答えい。」
ベーレンス教官に指を指された子は自分が答えると思っていなかったのか目をキョロキョロさせながら慌てふためいて答えられなかった。
その様子にベーレンス教官が段々イライラしていくのを感じていた俺はその子に変わって答えることにした。
「24文字です。」
「正解じゃ。」
周りから「おー!」と驚いた声が聞こえる。それもそのはずでルーン文字の授業は今日が初めてなのだから普通答えられるわけがないのだ。俺が知っていたのはルーン職人である親父から聞かされていただけである。
「ではこのルーンの読みと意味を答えい。」
ベーレンス教官は続けて後ろの黒板にルーン文字を一文字書いた。
その文字はナイフや片刃の剣の剣身のようなまたはカッターナイフのような形をした文字だった。それ以外ではUを上下逆さまにしたような形と言える。
よく親父の工房で見かけるルーンだったのですぐに答えられた。
「ウルと読みます。元々の意味は野牛で、転じて不屈の精神、強さ、勇気などの意味も持ちます。」
「正解じゃ。また、スピード、弱点の克服、身体的健康といった意味も持っておる。」
またも周りから「おー!」という声が聞こえた。最初の1問ならともかく2問連続で正解だったので最初の1問目で俺が偶然答えられたと思った生徒もこれには驚いた様子だった。
そんな風にベーレンス教官と問答を繰り返していたら、いつの間にか授業終わりを知らせる鐘がなったのでルーン文字の授業は終わってしまった。
次の授業は鍛治の授業だった。
そのためルーン文字の授業と同じくベーレンス教官が担当教官として授業をすることになった。
「では鍛治の授業じゃが、鉄を用いての鍛造はまだお主たちには難しいじゃろうから銅を用いて剣を鋳造してもらう。それと金属にルーン文字を彫ることも行ってもらう。ルーン文字は先ほど教えたウルという文字じゃ。」
そして俺を含めた生徒たちはベーレンス教官の指導のもと銅剣の鋳造とルーン文字の刻印をひたすら練習させられることになった。
それから俺たちは学校に併設されている鍛治場でひたすら銅剣の鋳造とそれにルーン文字を彫る授業をやらされた。
「では今日の授業はこれまでじゃ。それと鋳造した銅剣じゃが記念に出来の良いものを一本持って帰ると良い。親御さんも喜ぶじゃろう。」
ベーレンス教官はそう言うとそのまま鍛治場を後にして帰っていった。
家に帰ると家の鍛治場からカンッカンッと金属を叩く音が近所迷惑じゃないかというくらい盛大に聞こえた。
鍛治場に入ると親父が剣を造っているところだった。ファルシオンと呼ばれる相手を叩き斬ることを目的とした剣で親父がよく造っている剣だ。
「ただいま。」
「おう。」
親父は手短に答えると鍛治を中断させて昼飯の用意をしだした。
「鍛治は良いの?」
「あまり出来が良くなかったから鋳潰してやり直しだ。学校はどうだった。」
「今日はルーン文字と鍛治の授業だった。」
「て、ことは担当はベーレンスの奴か。」
「知ってるの?」
「鍛治の師匠が同じだった。それより鍛治の授業だったなら銅剣造ったろ、後で見せてみろ。ほれ、昼飯できたぞ。」
昼飯はホットドッグだった。
ケチャップもマスタードもない、パンに太いソーセージとキャベツの酢漬けだけを挟んだシンプルなものだった。
「ごちそうさま。」
「おう、剣見せてみろ。」
昼飯を食べ終わった直後、親父にそう言われて今日造った銅剣を見せた。
「グラディウスか、初めてにしては良くできてるな。」
そう言いながら親父は俺の頭をガシガシと少し乱暴に撫でた。
親父は力が強いので撫でられた頭が少し痛かった。
「それにしてもウルのルーンか、ベーレンスの奴は相変わらずだな。」
「どういうこと?」
「ベーレンスは昔から実用本位な奴でな、自分の教え子には必ず最初に剣を造らせて、それにウルのルーンを刻ませるんだ。すぐに使えるように。」
「すぐに使える?」
「ああ、トルゲならわかるだろうがこの前の洞窟のように安全だと言われている場所でも必ずしも安全とは言えないだろう?」
「うん。」
「だからベーレンは初めの授業では勇気を意味するウルのルーンが刻まれた剣を造らせるんだ。万が一教え子が襲われても戦えるように。」
なるほどだから鍛治の授業の時に銅剣の鋳造と平行してルーン文字の刻印も練習させられたのか。
まあ、だからといってはじめての授業で休みなく行わせることもなかったと思うが......
そんなことを考えながら親父に向き直ると親父は俺が授業で造った銅剣を、特にルーン文字を彫った場所を見ながら眉間に皺を寄せていた。
「どうかしたの?」
「このルーンは
「そんなこと言ったってはじめてルーン文字を刻んだんだから仕方ないだろ。」
「だからと言ってこれじゃあルーンが発動しないだろう?」
うるせぇ!これでもうまく彫れた部類じゃ!
と言い返したかったものの本職のルーン職人である親父から見ると稚拙も稚拙、素人の手習いに思えるのだろう。
しかも彫ったのが自分の息子なのだから無意識ながら余計に厳しく見ているのだと思われる。
まあ、こんなこと親父に言っても親父は認めないだろうけど。
「時間があったら教えてやるか.....」
ふと、何気なく親父から漏れた言葉を聞き取れた俺は満面の笑みで親父に答えるのだった。
「よろしくお願いします!」
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