猫みたいな君。

実来

今までの僕。

窓から差し込む朝日を眺めているとサーっと優しい風が部屋のカーテンを揺らした。


その風が僕の身体をそっと包んだ気がした。

僕は今日も彼女を想う、、、。



彼女とは、つむぎさん。

僕が今まで出会ったことの無いような人だ。

きっとこれからもつむぎさんのような人には出会わないと僕は思う。

とにかく不思議な人なのだ。


彼女と出会って僕の人生は変わった…初めて色が付いた。



彼女と出会う前の僕は父が用意した道の上を当たり前のように歩いていて、その道の上を転ばないように足下ばかり見て、その先に沢山の分かれ道があると怖くて足がすくんで前に進めないのだ。これから向かおうとしている目的地を僕自身は知らなくて、いつも父の答えを待っているような小さな世界で生きていた。

今、例えるならば…無色だ。



父は昔から僕に厳しかった。

勉強は息が詰まるほどさせられた記憶がある。

スポーツもある程度は出来た方がいいと父に言われると父の機嫌をとるためだけに努力した。

母も父の言うことに従っている僕を見て嬉しそうだった。

そんな生活を続けているとある時、すっと無意識に涙が出た。

苦しいと思った、辛いと感じた瞬間だった。

そんな時、僕は絵を描くことで気持ちを落ち着かせた。

幼い頃から絵が好きで父に隠れて美術館に行くこともあった、

絵を描いたり眺めていると気持ちが軽くなって色々なものから解放され、

自由になれた気がした。

いつからか絵に関わる仕事に就きたいと思うようになり、その夢は次第に膨らんで

いった。


悩んで、考えて、両親に伝えると…怒鳴られ侮辱された。


お前は馬鹿なのか? 今まで私がどれだけお前の人生の事を考えてきたと思ってるんだ!絵の道に進みたいだと?上手くもない絵を仕事にするより真面目に続けてきた勉強を活かせる仕事に就け!そのためにお前を育ててきたんだぞ?

まったく何を考えてるんだ、恥ずかしすぎて話にならん!


父は顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、母はただ泣いていた。



僕は次の日の朝方、家を出た。


父に夢を侮辱されたから、これ以上父の言いなりになりたくないから、

全て当たっている。でもそれだけではないのだ。

自分の中の、ある感情の存在に気付いてしまったからだ。

殺意だ。


このまま小さな世界に残っていたら、僕はいつか父を、母を殺してしまうかもしれない。だから…だから僕は家を出た。


目的地が分からない道をひとりで進むことに決めたのだ。

自分を証明するものを全て捨てて、絵を描く道具と貯めていた少しの貯金を持って僕はまだ薄暗い街並みを眺めながら歩く・・・。








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