夢の後始末

つくお

1 悪い夢を取り除く

 ぼくがよく見る夢のことを知っていたので、どきりとした。

 平日の昼間、ショッピングモールの閑散としたフードコートに高校生はぼくたち二人だけだった。名前も知らない子だった。彼女が着ているミッション系の制服は、この辺りでは見かけないものだった。

「その夢、苦しいよね」

 ぼくはうなずきつつ身を固くした。毎晩夢にうなされているのは本当だったが、なぜこの子がそれを知っているのだろう。

 テーブルの上に転がっているイヤホンからかすかに音漏れがしていた。うなされているうちに自分で引っこ抜いてしまったのだろう。眠らないように激しめの音楽を選んで流していたのだが、結局役に立たなかったのだ。

 近頃はちょっとしたうたた寝でも悪い夢を見るようになってしまった。

「あなたの苦しみ、取り除いてあげる」

 彼女はやわらかい微笑みを浮かべた。夢のことを知っているだけでなく、そんなことまで言うのだ。

「でも、どうやって?」

 すると、彼女がいきなりテーブルに身を乗り出して顔を近づけてきた。

「うわ」ぼくは思わず椅子を引いて避けた。

「声出さなくてもいいのに」

 彼女がくすりと笑うと、鼻腔をくすぐるような甘い香りがふわりと漂ってきた。ぼくはうろたえて視線をそらした。

「こっち向いて。大丈夫だから」

 その言葉には、ぼくを安心させるような響きがあった。

 おずおずと視線を戻すと、彼女はおもむろに人差し指を一本立ててみせた。

 どうするつもりだろうと見ていると、彼女は何かを念じるように自分の指先を見つめた。やがて、ふいにぼくに視線を移したかと思うと、その指でぼくのおでこをつんと軽く押してきた。

 その反動というより驚きによって、ぼくは椅子の上でよろめいた。彼女はこれで大丈夫と言うようににこりと笑った。

 ぼくは呆気に取られて彼女を見つめた。

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