第3話 準備

 翌日は、レンタカーを借りて、現場の下見をする。豪壮な屋敷だが、警備はそれほど厳重ではない。犬を連れた警備員が敷地を定期的に巡回しているが俺の目からすれば素人同然だ。


 帰りがけにPCショップとDIYショップを巡って、いくつかの物を買い物して、ホテルに戻る。それから、メリッサはPCと格闘を始めた。俺は買ってきた釘のバランスを試す。


 振り返ったメリッサが俺の行動を見て眉を顰める。

「仕事中に人を殺めないのがプロの流儀って言ってなかったかしら? それに今回の件に危険があるとも思えないけど?」


「どんな事態にも備えるのがプロさ。まあ、仕事中に使うことは無くても、仕事後はどうかは分からないからね」

「何か気になる点があるの?」


「思ったより簡単な依頼なことが不審なんだ。わざわざ高い金を払う必要性が分からない」

「いーじゃない。仕事があるんだから。それに簡単って言っても、それは私が協力してるからでしょ。電子的にあなたが透明人間になれるんだから」


 そう。メリッサは優秀な電子工学のエンジニアだ。彼女の手にかかれば、大抵の電子機器はおもちゃ同然だ。今回もターゲットの監視カメラのネットワークに侵入し、録画した映像を流す手はずになっている。その間、監視カメラは死んだに等しい。


「それに商品がダイヤモンドというのがね」

「それが何か問題なの?」

「ブラックマーケットでも捌きにくい商品なのさ。カットすれば価値は下がるし、足もつきやすい」

「どうしても欲しいっていうコレクターがいるんじゃないかしら。その気持ちは分からなくはないわ」


 メリッサが金にこだわるのは、美術品の収集家でもあるからだ。たぶん、今回の稼ぎでまた何か収集しようと思っている絵の候補も決まっているのだろう。

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