青い涙を盗め!

新巻へもん

第1話 依頼

 携帯電話から聞こえてくる男の声は耳障りだった。

「青い涙を手に入れてもらいたい。報酬は30万ドル。手付で5万。残りは商品と引き換えだ。期限は2週間。何か質問はあるかね?」


 俺は間違い電話だと言おうか3秒ほど迷った。今は休暇中だ。しかし、この番号を知っている相手を無碍にするのは得策ではない。

代理人エージェントを通してくれ。直接の依頼は受けないことぐらい知っているだろ?」

「分かった。では、前向きに検討してくれたまえ」


 目の前でメリッサがきれいな形の片眉を上げる。

「仕事の話だ。だが、今は休暇中だろ?」

「いくらなの?」

「30」

 唇をすぼめて感嘆の表情をする。


 シャンパンに口を付けてからあっさり言った。

「ケン、受けましょ」

「なあ、ターナーの絵が見たいと言い出したのは君だぜ」

「もちろん、見るつもり。で、ついでにお小遣い稼ぎをしてもいいじゃない?」


 いつも、これだ。金、しかも大金が絡むとメリッサは自分の意見に拘泥する。ブロンド美女で思いっきりスタイルも良く頭もいい。この金にがめつい点さえなければ完璧なんだが。


 そっと溜息をつくと、再び携帯電話が振動する。

「マット。今、食事中なんだ。後にしてくれ」

「なあ、怪盗ニンジャ・マックス。お客さんを待たせたくはないんだ。分かるだろ?」


 話を確認すると先ほどの件だった。

「依頼人は?」

「ドン・カミーロ」

 やばい名前が出てきた。代理人のマットがビビるのも無理はない。ニューヨークマフィアの大物だ。

「分かったよ。マット。引き受けた。入金を確認次第動くよ」


 思わぬ臨時収入の可能性が出てきて、メリッサは上機嫌だ。

「なあ、メリッサ。こんなことは言いたくないんだが、日本には『取らぬ狸の皮算用』って慣用句があるんだぜ」

「知ってるわよ。でも、あなたが手掛けるなら、も同然だわ」

 まあ、いいか。メリッサがご機嫌なら今夜は楽しい夜を過ごせそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る