伍
詩は、廃工場の奥でニャルラトホテプに詰め寄る。
「ハルサキはッ!? ハルサキとナツキはどこにいるッ!?」
すると、ニャルラトホテプは、その銀髪を揺らしながら、不敵に笑う。
「あははッ! 詩くぅん。せっかちだな、そんなに焦らないのッ。僕がちゃんと教えてあげるから」
赤兎は感じていた。この女……。まずいと。
(ダメだッ。この女はダメだッ! 嫌な……『嫌な予感がする』ッ! 私の妖の直感が叫んでいる)
「ただね?」
ニャルラトは、詩に近づく。
「ナツキに関しては関わらないほうがいいと思うんだよねぇ……?」
「……はッ!?」
詩が、声を上げる。
「何言ってるんだ! 会うために、……わざわざ来たんだッ!」
「だぁかぁらぁ? ナツキってそもそも、だれか覚えてる? 君。その君が言う『ナツキ』って人物について、詳しく思い出してみ?」
詩は必死に頭を掻きまわす。
『春咲、ニホンに興味はある?』
『もし、興味があるのなら――年後に行くと良い。花――ってところだよ。そこではね、不思議なことに――が――になるんだ』
『ついこの前ね、ヒ――っていう姉弟と――っていう子供で実験してたみたいだよ。ただあまり面白いことにはならなかったらしくてさ。二度目の実験が――年後ってことさ』
『次は人数を増やしてさ、暴走するまでやってみるんだって。面白そうでしょ』
『そうね、何処の地域でも殺し合いは絶えないものよ。ここは随分と荒れた地域だけれど、一見平和そうな場所にだって人間の闇は転がってるのよ』
人数……増やす……え?
「あはははッ! 気づいたッ? 気づいたの? ねえねえ、詩くん、どんなきもち? 今、どんなきもち? ねぇねぇおーしーえーてーよー!」
「いや、違うっ。俺は赤兎と契りを交わして能力を得たんだッ! 花の日は関係ないはず!」
詩は、震えた声で青ざめ始める。今まで冷淡で、冷静だった彼の姿が消えかける。
「んじゃぁさ? 『なんでナツキからそんなセリフが出てくるの』?」
「それは……、ナツキが『研究してるから』ッ。花の日を起こすのに関わってたのは……ナツキ本人なんだッ! だから花の日も詳しく知ってるし、ハルサキを、『今年起きる花の日の』犠牲にしようとして……」
「違うねッ!」
ニャルラトは、目を見開いて鋭く狂気的な笑みを浮かべて詩の肩に手を置く。
「ナツキはさぁ……。空気圧の犯人で、自分から『実験台になったんだよ』……十年前に……、んでもってその後も自分を改造する研究を続けた」
続けるニャルラトの言葉に、詩は言葉を失う。
「そもそも、妖怪を『作る』とか『超能力の発現方法』みたいなのは、世界中で古代より研究されててッ。そこにいる赤兎もその結果なんだよねぇ。んでナツキは、その研究の一環として、『赤兎と貴方が出会うように仕向けたの』。君が拷問して殺しちゃった奴もさ。結局はいろいろとナツキに踊らされてたってわけ」
「ナツキの詳しい記憶が、あの会話しか思い出せないのは、なんでだ!」
「簡単だよ」
ニャルラトホテプは、ゆっくりと目を見開く。
「ナツキ。……安藤夏希は僕」
詩は、あぜんとした。
「……」
「わーお! 驚いたー? 安藤夏希は、神である僕、ニャルラトホテプなのでしたー!」
「神……だって?」
「そーそー。暇つぶしにさ、花の日を利用して膨大な伏線を立てることにしたんだよね! 『人間の絶望』が見たくてッ! そして、自分も『花の日』っていう人類の一大イベントに参加することにしたんだ!」
すると、赤兎はいきなり飛び出て詩を引き戻す。
「詩ッ! これ以上『コトバを受け入れてはいけない』! 曲解、言忌み、虚言を使……」
「『ダーメ』」
すると、赤兎の脚が突然、何かの札に貫かれた。脚から膨大な量の魂が抜け出て血が噴出する。
「が……あああああああああああああああああああああ」
赤兎は、激痛に悶えて脚を押さえて転げまわる。苦痛が頭の中を支配していた。
「赤兎ッ! な、何したんだお前ェッ!」
ニャルラトは、嬉々として答える。
「何って? 妖怪退治ですけどー?」
すると、ニャルラトはこう言い放った。
「あとね。ハルサキならもういないよ」
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