スケルトン折りのくたびれもうけ
目の前に広がるのは、ドラゴンの墜落でできたバカでかいクレーターと、頭にでっかい穴を開けられて沈黙しているスケルトン・ドラゴンの死体だ。
……アンデッドの死体っていうのがなんか言い回し的にアレだけど、それは置いておくとして。
「さて、どうするかなぁ……」
本当に、どうしたものだろうか。
俺が悩んでいると、元凶たるロボット娘が顔を覗き込んできた。
「どうしたんですかぁ?」
まったく、何の悩みもなさそうな顔だ。俺は必死で考えてるところだってのに。
「こっちは後始末をどうしようか悩んでる真っ最中なんだよ」
「後始末?」
コロナは可愛らしく首を傾げる。
「ああ。このまま放置していくわけにはいかないだろ」
「うん? ここは無人の荒野のようですし、このままでも誰も困らないと──」
「俺が、困るんだよ!」
感情のままにコロナの超合金のほっぺたを両手で挟みこむ。硬い。
「ふぇ? なんで困るんです?」
「いいか、よく考えてみろ。このままこんなもん放置していったら、ここにドラゴンを倒せるくらい強いやつがいたっていう証拠になるだろ。そうなると、さっき助けた馬車の商人とか、冒険屋のおやじとかから俺たちがいたってことはすぐにバレる。そうなったらもう終わりだ。俺たちはドラゴン殺しの英雄として祭り上げられる羽目になるんだぞ」
「……困る要素が見当たりませんよ?」
「困るんだよ。俺は英雄とか勇者とか、そんな役を演じる気はない」
するとコロナは、ぱちぱちと数回まばたきをして、曖昧に頷いた。
「なるほど、わかりました」
……まあ、分かってくれたならいい。
「一つ提案があるのですが」
改めて考えをまとめようとしているところに、コロナが話しかけてきた。
「なんだ?」
「コウタロウさんのツルハシで骨を叩いてみませんか?」
……予想外の提案だな。
「俺のツルハシは何でも壊せる便利な道具じゃないぜ?」
俺としても理屈はイマイチ分からないが、本来的にツルハシで掘れるものにしか、俺の力は作用しないようなのだ。
だが、そう聞いてもコロナの考えは変わらないようだ。
「はい、それは理解しています。その上での提案です」
「……何か根拠があるのか?」
「先程コウタロウさんが穴を開けた地下空洞、覚えてますか?」
「ああ」
死霊術師が大量の死体と共に潜んでいたあの空間か。そういや、あそこの天井は俺の知らない物質で出来ていたが……。
「あの地下空洞の屋根は、骨で出来ていました」
なんだと?
「正確には約500年前の骨が魔法で補強されたものです。わたしの予想では、長い年月と魔法の作用で骨の成分が石に近付いたせいではないかと」
……確かに、地中で何万年も経てば骨は化石になる。
年月の不足を魔法の効果が補っていたとしたら、骨が化石化していた可能性は、ありそうだ。
そして、地中で500年を過ごし魔力を蓄えたドラゴンの骨も、もしかすると……。
「まあ、試してみてから考えるか」
というわけで試したわけだが、
「なんか、思ったより……」
「きれいに粉々になりましたね」
粉々というか、もはや砂だ。
ドラゴンの上半身くらいまでの骨をばこーんずこーんと砕いた結果、明らかに色の違う砂がクレーターの底にこんもりと山になっていた。
……なんか、これはこれで厄介になったような気がしなくもない。吸い込んだりしたら体に悪そうだし。
「……まあ、これはこれで、ドラゴンの骨には見えなくなったし──」
「ちょっと、何してるのよぉ!!」
突然、背後から女の怒鳴り声が聞こえてきた。
振り返ると、ローブを着た長髪の女──この騒ぎの元凶である死霊術師がいた。
そういやずっと放置してたが、無事に目が覚めたようだ。
さて、こいつの処置も考えないとなぁ……。
「わたしたちはスケルトン・ドラゴンの残骸を処理していたところですよ」
「だから! なんでそんなことしてるのよって、聞いてるんじゃないの! 貴重なドラゴン骨格標本を何だと思ってるのよぉ!!」
……んん? 骨格標本?
「ちょっと待て。お前、死霊術師だよな?」
「ええそうよ私は死霊術師よ。でも死霊術は手段に過ぎないわ。私が作るのは動く骨格標本! 骨の美しさを堪能するためなら何だってするわ! なんか前後の記憶が無いけれど、ドラゴンの骨を破壊するなんて暴挙は当然見過ごせないわねぇ!」
……なんかさっきまでと違うぞこいつ。
コロナも気付いたか、俺のそばに近寄って耳打ちしてきた。
「コウタロウさん、この人……」
「操られてた、って感じだな」
「ええ。近付きすぎてスケルトン・ドラゴンに利用されたってところでしょうか」
若干話がややこしくなってきたが、とはいえ記憶が無いのは好都合だ。俺たちのことを言いふらされる心配はない。
あとはどう言いくるめてやり過ごすか、だが……。
「ちょっと。コソコソ喋ってないで返事しなさいよ。何か正当な理由でもあるのかしら?」
死霊術師もとい骨オタクの女は腰に手を当てて俺たちを睨んでいる。この様子じゃ演技ってこともなさそうだし、まあいいだろ。
俺は最大限相手を気遣うような雰囲気を醸し出しながら、話しかける。
「正気に戻った、ってことでいいんだよな?」
「はぁ? 正気?」
「いや、ビビったんだぜ? スケルトンを引き連れたあんたが急に襲ってきたんだからな」
「えっ……」
血の気の引いた顔で女は口を押さえる。どうやら趣味が少々特殊なだけで、中身は割とまともな人物らしい。
「様子がおかしかったから取り敢えず気絶させて……んで、何だっけ。魔力がどうとか?」
話しながら、いい感じに話を合わせてくれと念じながらコロナとアイコンタクト。ちゃんと伝わったのか、コロナは頷いて話を引き継いだ。
「はい。あなたの様子から魔法的作用を受けていると判断し、周辺を調査したところ、元凶らしきもの──ドラゴンの骨格を発見したので破壊した、というわけです」
「そ、そんな……」
とんでもないことをしてしまったという顔で、女は膝から崩れ落ちた。どうやら、俺たちの話すウソ混じりの話を見事に信じてくれたらしい。
というか、流石は古代のハイテクロボ娘だ。真実とウソを適度に混ぜるっていうウソのつき方まで心得ているとはな。
「ご、ごめんなさい。まさかそんなことが……」
骨オタクの女の方はというと、蚊の鳴くような声で謝っていた。あんまり思い詰められるのもアレだし、適当に処理しておくか。
「俺たちのことなら気にしなくていいぜ。ただ……街道を通る人間を何人か襲ってたらしいからな。この話は黙ってた方がいい」
「はい……」
「あとは、当分の間は王都にも近付かない方が安全かもな。顔が知られてる可能性もあるしな」
「そうします……」
よーし、これで問題解決だな。
と思ったが、骨オタクの女が最後にひとつ尋ねてきた。
「ところで……」
「なんだ? まだ何か?」
「えっと……そのぉ……下半身だけで我慢するから、ドラゴンの骨をもらって行ってもいいかしら?」
恥じらいながら何を言うかと思ったら、結局骨かよ!
「片脚だけで我慢するのが賢明ですよ」
「くぅっ……仕方ないわね。それで手を打つわ」
斜め上の返事をするコロナと、悔しがる骨オタク死霊術師。
もう好きにしてくれ。
ドラゴンの脚の骨(見た目よりは軽いらしい)を担いで歩き去る骨オタク死霊術師を見送って、俺たちは反対方向、王都の方に向き直る。
飛んで入るのは目立つだろうし、ここからは歩いていくとするか。
「そういえば、勇者さまはいませんでしたね」
そういや目的は勇者だったな。
「まあ、王都って言うくらいだから人口多いんだろうし、何かしらの情報は見つかるだろ」
「……あの、最初から王都に向かえばよかったのでは?」
言うなよ。俺も思ったけど。
……さて、気を取り直して勇者サマ探すかぁ。
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