ドラゴンVS古代兵器の頂上決戦……を観客気分で眺める俺

 ゴウッと噴射炎を唸らせて、コロナはスケルトン・ドラゴンめがけて一直線に飛び上がっていく。

 対するスケルトン・ドラゴンは巨大な顎を開いて、何やら口の中にエネルギー的なものを溜めているようだ。

 と、今まさに飛行中のコロナから遠距離通信が入った。

『コウタロウさんは下がっててください。あれは負の生命力のブレスです』

 負の生命力か……。なんかすごいアンデッドっぽい技だな。

「了解した。そっちは大丈夫なのか?」

『ええ、ご心配なく』

 答えながらコロナは相変わらず一直線に飛び続ける。

 直後、骨のドラゴンの口から緑のもやのような球体ブレスが放たれ、飛行中のコロナに命中。全身を飲み込み──

 そのまま素通りした。

「わたしはメタルアンドロイド、非生命体です。負の生命力なんて効きませんよ!」

 勝ち誇った声で言いながら、コロナはさらに勢いを上げて飛ぶ。

 そのまま、ブレス後の隙を晒すスケルトン・ドラゴンの下顎めがけて直進し──

「とりゃあー!」

 ドゴァッと強烈な全速アッパーカットを叩き込んだ。

 あれは痛いな……。

 思わず自分の顎を触ってしまう俺だった。


 巨大な爪が振り下ろされ、長大な尻尾でなぎ払い、ティラノサウルスじみた骨の大顎が襲いかかる。

 そのどれもが、自動車くらいなら軽くスクラップにできそうな威力を持っていた。

 だが、縦横無尽に軽々飛び回るコロナにとって、それらの攻撃はあまりに遅い。

「ふっふっふ。そんな攻撃では何回繰り返しても当たりませんよ」

 余裕まんまんなセリフを吐きながら、コロナはスケルトン・ドラゴンの攻撃をひゅんひゅんと躱していく。

 そんな切り札の苦戦っぷりに、死霊術師は黙っていられなくなったらしい。

「ちょっと! あんた本物のドラゴンなんでしょお!? こんなやつチャチャっと倒してみせなさいよぉ!!」

 スケルトン・ドラゴンの背中あたりでギャーギャー騒いでいるのがここからでも聞こえる。

 ドラゴンのアンデッドを蘇らせた時点で勝ち確だと思ってたんだろうが、あてが外れたというところだろう。

 まあ、そうは言ってもスケルトン・ドラゴンが弱いわけじゃない。相手が軍隊とかなら圧勝するだろうし、例の勇者サマが相手でも安全圏からブレスを吐きまくる戦法で行けばもしかすると勝てるかもしれない。

 なので、単にコロナが強すぎるだけだろう。

 ……自分で言っておいてなんだが、やばいやつを仲間にしてしまったな?


 尻尾と爪の連続攻撃を掻い潜り、コロナはスケルトン・ドラゴンの真下に肉薄。

 片手を突き出し、ジャキッと構えた。

「そこです! 『ナパーム・バースト』!」

 手のひらから真紅の炎がほとばしり、多重爆発が無防備な肋骨で炸裂した。

 ズドドドドン!

 少し遅れて空気が震え、同時にスケルトン・ドラゴンの巨体が、ぐらりと傾いた。

 もうそろそろ決着か?

 と思っていると、スケルトン・ドラゴンが妙な動きをした。

 口を開き、ブレスの予兆を見せた骨の竜。開いた口が狙うのは、腹の下にいるコロナ──ではない。

 吐き出された緑色の負の生命力の塊は、円を描いてドラゴンの頭上を通り過ぎ、

「きゃああああっ!?」

 自らの背中に着弾。

 遥か上空から人影がひとつ、真っ逆さまに叩き落とされた。死霊術師だ。


 ドラゴンの背中から叩き落とされた死霊術師の女は、ローブの裾と黒髪をなびかせながら降ってくる。

 初め米粒くらいだった女は、俺の真上でゆったりと回りながら徐々に大きくなっていく。

 つまりこの軌道は、もしかして──

『コウタロウさん! このままだと落ちてきた女性と衝突しますよ!』

 やっぱりそうか。

 身の安全を第一に考えればこのまま避けてしまってもいいが……

「コロナ、あと何秒ある?」

『地表到達まで7秒です!』

 それだけあれば、なんとかなるか。

 俺はツルハシを抜き、大きく振りかぶって、ズドォン! と一発、地面に穴を開けた。

 そして土砂が舞い上がる中を、さらにもう二度、ドゴォァン! バゴォォン! と穴を掘る。

 出来上がったのは深さおよそ5メートルの縦穴。その底に、舞い上がった土砂が降り積もっていく。

『あと3秒!』

 慌てて俺は縦穴の壁にへばり付く。

『2秒、1……到達!』

 瞬間、俺の目の前に死霊術師の女が降り注ぎ──ドズンッと盛大に土埃を舞い上げて着弾した。

 ……うん、まあ、体の半分以上が土砂に埋れているけど、その分だけ衝撃は緩和されたはずだ。

 充満する土埃を息を止めてやり過ごしてから、俺はコロナに通信する。

「こっちはもう気にしなくていいぞ。好きにやってくれ」

『了解しました。どうやら向こうも本気のようなので、全力全開で討伐しますね!』

 あっちはあっちで何か動きがあったようだ。


 縦穴の壁を掘り崩し、気絶したままの死霊術師を肩に担いで地上まで這い出る。

 死霊術師が杖のように持っていた骨は、穴の中を探しても見当たらなかった。

 落ちてくる間に手放した可能性もなくはないんだが……俺の勘では、骨はそもそも落ちてきていない。

 最初見た時から気になってはいた。

 あのクソでかい骨は何者の骨なのか。何故骨を杖代わりに持っていたのか。

 長さ2メートルの、恐竜の化石と言われても違和感のない長大な骨。死体を動かす死霊術をサポートする魔法的な力のある骨。

 現状を考えれば、答えはひとつ。

 あれは、なのだ。

 つまり、ドラゴンの骨を使うことでドラゴンの力を引き出しつつ、スケルトン・ドラゴンを従えていた、ってところだろう。そう考えれば、スケルトン・ドラゴンが急に反逆したのも分かる。

 そして今、スケルトン・ドラゴンは自分の骨を奪い返して自由の身となった。それが果たして戦況にどんな影響を与えているのか──


 俺が穴から這い出ると、そこは弾幕バトルの真っ只中だった。

 色とりどりに光を放つ攻撃の数々と、皮膚が直接ビリビリ震えるほどの壮絶な轟音。……どうやら、コロナとスケルトン・ドラゴンが攻撃をばんばか撃ち合っている状況らしい。

 上を取ったコロナは機敏に飛び回りつつ、炎、電撃、光線、弾丸をばらまく。下になったスケルトン・ドラゴンは大きく旋回しながら、吹雪、竜巻、衝撃波などを口から吐き出して応戦している。

 そう、口だ。

 さっきまでは骨しかなかったはずのスケルトン・ドラゴンの頭とノドに、肉やら皮やらが無造作に貼り付いている。

 いかにも再生途中といった不完全な状態だが、このおかげで負の生命力以外のブレスも使えるようになったようだ。


「コレデ互角デアルゾ、金属人形ヨ」

 ミサイルのような氷塊を吐き出しながら、スケルトン・ドラゴンが言う。

 氷塊は上空のコロナを追尾したかと思うと、バキバキッと音を立てて炸裂、無数の氷柱となって四方に飛び散った。

「くっ……地上の支配者にしては姑息な手を使いますね!」

 対するコロナは飛行スピードとテクニックで大半の氷柱を躱し、それでも躱しきれなかった氷柱の1本を金属の拳で打ち返した。

 お返しとばかりに、今度はコロナが両手に電撃を纏わせる。バチバチッと青白い電撃が空を焼き、両腕の電撃が繋がって一本の円弧になる。

 対するドラゴンは口内に冷気を溜め込み、ビキバキと氷の槍を形成していく。

「『プラズミック・アーク』!」

「ゴァアアアッ!」

 直後、電撃の円弧と槍型の氷塊が同時に放たれ──

 ドゴバァアアン!

 盛大な音と光を残して電撃と氷塊は相殺、消滅。

 コロナとスケルトン・ドラゴン、実力はかなり拮抗しているようだ。


 ……うん、俺の出る幕はないな。

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