4.遺跡を掘り出したら古代兵器が目覚めてしまった話
ストーンゴーレム? 余裕余裕!
ナトゥンの村を発ってから、歩くこと数十分。
俺は何の変哲もない森の中にいた。
俺はポケットから地図を取り出して再度開く。地図に書き込まれた印はナトゥンから真西。
そして俺のGPS的距離&方角把握能力も、俺がナトゥンから真西に向かって歩けていると言っている。
つまり、情報通りであればここが宝が眠るという遺跡の場所だ。
「しっかし普通に歩いてたらただの森だな」
話によると、ここからさらに北ではいくつかの古代遺跡がすでに発見・発掘されていて、それなりの宝も発見されたという。同時に、その遺跡の中からは南方向にもいくつかの建物の存在を示唆する文書が見つかったとか。
だが、今のところその建物――遺跡は発見されていない。そして、ミミナの街の冒険屋はここにその遺跡があると考えているらしい。
んで、俺は幸運にも一つの情報を得ることができた。それは、昨日入った聖剣の祠だ。コリーン曰く、聖剣の祠は本来地上にあったものが土石流かなにかで地下に埋まってしまったという。
その土石流が広範囲を襲ったのだとすれば、他の遺跡も地下に埋もれているかもしれない。
というわけで。
「まずは掘るか」
俺はツルハシを両手で握り、思いっきり振り下ろした。
バガッゴオオン!!
爆音と土煙が収まると、俺はできたてホカホカのクレーターの底に立っていた。足元はちょうど岩だ。
体を伏せてむき出しになった岩に耳を当て、ツルハシの側面で軽く岩を叩く。カァンと響く音が地中に浸透し、異物との境界面で跳ね返ってくる音によって地中の構造を把握する。地中ソナー能力だ。
音から判断する限り、この地下には大きな構造物が二つある。四角い建物と、上下に伸びる筒と水平に伸びる筒が繋がってできたL字型の……何かだ。
……L字の方が四角い建物よりも下にあるし、井戸の底に地下通路が繋がってるとかだろうか?
ともあれ、まずは地面に近い四角い建物の方へと穴を掘っていくとするか。
というわけで地表から斜めに掘り進むこと十数秒。
四角い遺跡の屋根を掘り抜いて、俺は遺跡の中に飛び降りた。
目の前には壁。左も後ろも壁。右手にはボロボロに朽ちたドアと壁。
どうやら俺は小部屋の一つに降り立ったようだ。
壁や床は青白いレンガのようなものでできていて、その点は鉱山で見た古代遺跡と同じだ。
そして所々に埋め込まれた淡く発光する石によって遺跡内部は薄ぼんやりと照らされている。こちらは聖剣の祠と同じような仕組みだ。
やはりこれは古代文明の遺跡に間違いない。
「ってことは、前みたいにゴーレムがいてもおかしくはないな」
まあストーンゴーレムなら何体来ても怖くないんだが。
とりあえず、部屋を出る前に音で索敵をしようと俺は壁に耳を押し当てた。
すると、聞こえてきたのは
ぱちょん……ぱちょん……
一定の間隔で鳴り続ける水音のような何かだった。
──どっかで雨漏りでもしてんのか?いや、それにしては音が動いてる……いや、近づいて来てる。
瞬間、俺は右手にツルハシを握り、ついでに包んであるボロ布ごと聖剣を引っ張り出した。
そして俺が身構えていると、
……ぱちょん……ぱちょん……
水音のような何かの音は耳に直接届き、徐々に大きく、近くなっていく。
やがて音はさらに接近し、壁の向こう、朽ちたドアの前まで到達した。
ぱちょん
そこにいたのは──大きなゼリー、もしくはわらび餅。両の手のひらに乗り切らないくらいの、ほとんど透明な弾力のある塊。
要するにスライムだ。
スライムはバレーボールくらいの体積がありそうな体をダラーっと平たく伸ばし、ある程度伸びたところで端に体を集結させる。この時に勢いよくひとかたまりになったプヨプヨの体がぱちょんと水音らしき音を立てる。
そしてまた体をダラーっと広げ、再度ぱちょんと集結。どうやらこれがこの世界のスライムの歩き方らしい。
……RPGの水色で目と口があってぴょんぴょん跳ねるアレとは結構方向性が違う感じだ。
などと考えながら俺は両腕を持ち上げ、これからどう動くべきか迷っていた。
ツルハシの先に引っ掛けて投げ飛ばすか。あるいは聖剣という名の棍棒でぶっ叩くか。はたまたスルーして先に進む手もある。
と考えている間に、ぱちょん、とスライムはまっすぐこちらに近付いてきた。目も耳もついてないのに俺の場所が分かるようだ。
未知の相手と戦いたいわけじゃないが、見えてもない俺をここまで追えるとなるとここでうまくすり抜けられてもずっと追われることになりそうだ。
というわけで軽く脅して逃げてもらうとしよう。脅しが通用するのか知らないけど。
遺跡の天井を突き破った時の瓦礫の中から手ごろな破片を一つ拾い、スライムの少し手前を狙って投げ落とす。するとスライムはぷるんと震え、体を伸ばそうとする動きを止めた。
分かりにくいが、今のでひるんだらしい。
続けてもう一発。スライムの透明な体ギリギリに、今度は勢いよく石を投げつけた。直後、スライムは慌てた様子で体を薄く伸ばし始め……
「……消えた?」
土に水が吸われるかのように、跡形もなくスライムは消え去った。
よく見ると、スライムがいた場所の床には亀裂があり、そのごく小さな隙間を水のようにすり抜けていったようだ。
「追い払うのは簡単だったけど……あれだとどこにでも現れそうだな」
念のために石を数個拾ってポケットに入れ、俺は先に進んだ。
小部屋から出ると廊下が一本伸びていた。
廊下の片側には同じような小部屋、もう片側には小さな通気口と思しき穴が壁に並んでいた。まあ今は建物全体が土に埋もれているので通気口の向こうも土なわけだが。
俺はそんな廊下を慎重に歩きながら小部屋をひとつひとつ覗いていった。だが、小部屋にはめぼしいものは何もなく、廊下には罠もなければ警備用のゴーレムのようなやつもいない。
まあ、普通に考えれば敵が侵入してくるのは地上からなので、空を飛んで天井を破壊しながら侵入してくるような特殊な敵でもいない限り、最上階の廊下に罠を仕掛けても効果は薄い。
さらに言えば、この小部屋は数と大きさからして人間が寝泊まりする用の個室だった可能性が高く、襲っても大した旨味はなさそうだ。
そういうわけなので、この階の警備が手薄なのは当然と言えば当然。……俺もこの階に留まる意味はないな。
「降りるか」
呟いて、俺は階段を探し始める。
ツルハシで床を掘り抜いてもいいのだが、落ちた先が安全である保障はない。
なので階段を探すべく俺は廊下の突き当たりを曲がり、そこで階段を発見した。
ちょうど建物の反対側から伸びてきた通路と合流し、その中間地点から下りの階段があった。
その階段の途中、不自然に設けられた踊り場には、人型のやたらと角ばった像が鎮座していた。
石像にしては無骨すぎで、台座もなく、おまけに直立不動。
……これは99%ストーンゴーレムだろう。
バガッコーン
すれ違いざまにツルハシを叩き込んでストーンゴーレムらしきものを一撃で粉砕。俺は邪魔者のいなくなった階段を下り、下の階を探索しようとした。
その瞬間。
きゅぴーん
聞きなれない音が背後――粉々になった石像の中から聞こえてきた。
俺は慌てて振り返りツルハシを構える。が、石像の残骸が動きだしたりする気配はない。
「……空耳か?」
そうあって欲しいという願望を含んだ呟きは、直後に否定された。
きゅぴーん
二回目の音は、右斜め後方。しかも今度はこれだけでは終わらなかった。
きゅぴーん きゅぴーん きゅぴーんきゅぴーんきゅぴーんきゅぴーんきゅぴーん
聞こえた謎の音は、一番最初のものも含めて9回。
言い換えると、ストーンゴーレムらしきものの残骸から聞こえた1回目の「きゅぴーん」に応えるように、8回の「きゅぴーん」が鳴った。
その応答した8回は全て異なる方向から、俺を取り囲むように聞こえた。
具体的な例を挙げるまでもなく、同じ音でやりとりするのはほぼ間違いなく同種の仲間同士だ。
そして、俺が破壊した石像が最初の予想通りストーンゴーレムであるならば。
……ちょっとこれはまずいか。
直後、前後左右それぞれの壁の一部がガラガラと音を立てて崩れ、その奥から計8体のストーンゴーレムが姿を現した。
それぞれの手には鈍く光る槍が握られている。
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