なんだかんだ活躍してしまった……
その夜、鉱夫たちは遅くまで飲んで騒いでのドンチャン騒ぎを繰り広げた。
というのも、俺たちが見つけた古代文明の遺跡から、かなりの量の財宝が見つかったからだ。
そして俺は、お祭り騒ぎの中心に半ば無理矢理に引きずり込まれた。
まあ、地下空洞を見つけたのも俺だし、そこまでの通路を掘ったのも俺だし、遺跡を守護するストーンゴーレムを倒したのも俺なのだ。この件に関しては英雄扱いされるのはどうしようもない。というかここまでやったのに俺以外がもてはやされるのは普通に嫌だ。
そういうわけで俺は、食って、飲んで、どこかから呼び寄せられた綺麗な女達と喋ったり踊ったりして、なんか神輿みたいに担ぎ上げられたりもして、消化不良を起こすくらいの勢いでお祭り騒ぎを堪能して、一日を終えた。
翌朝、まだ騒ぎが続いているのかと錯覚するような賑やかさの中で俺は目を覚ました。
「……つくえ、かたい」
良く分からない言葉を口走る俺に、誰かの声が掛けられる。
「――――!」
だが、いまいち何と言われているのかが理解できない。
「みず、くれぇ」
「――――?」
直後、ザパァンと浴びせかけられた大量の水が、一気に俺の意識を覚醒させた。
「つめたっ! なんだぁ!?」
「よう、やっとお目覚めか。スーパー鉱夫様よぉ」
食堂のテーブルを挟んで俺の前に立っていたのは、おっさんとじいさんだった。
っていうか。
「なんだその『スーパー鉱夫』ってのは」
「おいおいあれも覚えてねえのか? お前が自分で『スーパー鉱夫』と呼んでくれって言ってただろうが」
なんだそれ。酒の勢いと場の雰囲気でいろいろ適当なことを言いまくった気はするが、スーパー鉱夫は流石にダサすぎるだろう、俺。
「まあそんな話はどうでもいいんだ」
そりゃそうだ。
「本題は、ほれ、これだ」
ドスンと重々しい音を立てて、おっさんが二つの袋をテーブルに乗せた。同時にジャラジャラと金属音が聞こえる。
「何、これ」
「大銀貨30枚と小銀貨25枚。コータロー、お前の特別報酬だ」
瞬間、周りで朝食を食べていた鉱夫たちが一斉に沸き上がった。……かなりの額、なのだろうか。
「これ、どのくらいの金なんだ?」
「普通の鉱夫が丸一年働いても届かんくらいだな」
年収と比べられるくらいの額ということは、前世でいくと何百万とかそれくらいか。
……結構な大金だ。しかもそれを一日で稼いでしまった。
さて、これからどうしたものか。
「これだけありゃ大抵のことはできるし、好きなことやればいいと俺は思うがね」
「わしとしても、将来有望な若者がこんなところで燻ぶっとるのはどうかと思うでな」
すごく遠回しに出ていけって言われてるような気がしないでもない。
だがまあ、せっかくだしちょっとした旅に出てみるのも悪くないか。
「そうだな。旅にでも出るとするよ。でもその前に――」
ガタゴトと揺れる馬車っぽい車内に、俺は一人腰を下ろしていた。
窓から見える景色は普段のものよりも数メートルほど高い。というのも、内装こそ馬車っぽいがこれは馬車ではないのだ。
四足歩行の木製ゴーレムに馬車の車体だけを積んだ、ゴーレム馬車という乗り物らしい。
馬車どころか車ですらない点は流石にツッコミたかったが、陸を走る乗り物が馬車くらいしかないようなので文化的には仕方ないのだろうか。
そのゴーレム馬車の御者が、ひょいっと窓から顔を出してきた。
「お客さん、乗り心地はどうです?」
……どうと言われても、一歩ごとにガタンガタンと上下左右に揺られるのはあまり快適とは言えない。でも一応乗せてもらっている身だしなぁ。
「……まあまあかな」
「ま、まあまあですか……。乗り心地の良さには結構自信あったんですけどぉ……」
これでいい方なのか。まあ比較対象が前世の電車や自動車しかないからな。
「あー、ところで、ミミナまではどのくらいだ?」
ミミナというのが今のとりあえずの目的地だ。そこそこ大きな街らしい。
「はい、昼過ぎには到着できますよ!」
「そうか」
答えて、俺は座席に深く座り直した。その拍子に、ゴトンと腰から下げたツルハシが壁に当たった。
邪魔だし、到着するまで脇に置いておこうかと思ったが、考え直して膝の上に乗せておくことにした。
鉱山から旅立つ直前、鉱山の備品であるツルハシを鉱夫のおっさんから買った。中古だからということで値段は小銀貨2枚。ちなみに新品なら小銀貨3枚か4枚くらいだそうだ。
そこそこ重いしかさばるしで、どう考えても旅には向いてないツルハシだが、これさえあれば大体なんとかなる気がするので持っておくことにした。まあお守りみたいなものだ。
ついでに服も鉱夫のものをもらった。こちらは今回の働きに免じてタダで譲ってもらえた。これは、まあ、気分だ。それと、この服装ならツルハシを持っててもそんなにおかしくはないはずだし。
「……ところでお客さん、何者なんです?」
まだこちらを見ていた御者が、好奇心に勝てなかったようで尋ねてきた。
まあ、気にもなるだろう。どう見ても鉱夫の格好をした男が、気前よく大銀貨1枚を払った挙句、自慢のゴーレム馬車の乗り心地をまあまあと評したのだから。
そこで俺はにやっと笑って言ってやった。
「俺か? ただの鉱夫……いや、スーパー鉱夫さ」
……やはり我ながらすごくダサい。
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