岩に刺さった聖剣? 掘ればいいじゃん
逃ゲ水
1.勇者を断ったら鉱夫にされた話
勇者? やだよそんなの
「ご転生、おめでとうございまーす!」
やけに明るい女の声で、俺は目を覚ました。
「……なんだここ」
目の前に広がるのは、雲の上のような世界だった。
足元は雲だか綿だか良く分からないものが敷き詰められていて、横と上は見渡す限りの青。
そして、真っ白なドレスの女が一人、俺の目の前に立っていた。
「えーと、状況が分からないと思うのでまずは説明しますね。あなたは――」
「死んだ」
そう、そうだ。俺は死んだのだ。突然の大地震で不運なことに地下深くに生き埋めにされた俺は、暗闇の中で助けを待ち続けて、そのまま死んだのだ。
「ええ、そうなんです。それで状態のいい良質な魂だったあなたを釣り上げて、ちょっとこの世界に転生してもらうことにしたのです」
魂、世界、転生……。要するに異世界転生というやつか。
「それで、なんで俺なんかを?」
ぶっちゃけ、俺はただの一般人だ。死に方は少々特徴的かもしれないが、それくらいだ。異世界に行って活躍できるような要素はない。
「それはもう、素敵な輝きの魂だったからです! あなたならばきっとこの世界を救う勇者になれる! そう思いましたので!」
「勇者、ねぇ……」
「はい。実は今、地上界は魔界を統べる魔王の侵攻を受けていまして、地上に住む人間のためにも早急に対処する必要があるのです。ですが、私たち神々が直接介入するわけにもいかず――」
どこかで聞いたようなシナリオだなと、女の話を聞き流しながら思う。
そもそも、魂の輝きだかなんだか知らないが、俺に世界を救う勇者を任せようというのが間違いだ。
勇者だの英雄だのは、そういうのが好きな目立ちたがりで正義の味方ヅラが平気でできるような人間がやるべきことだ。俺には向いてないし、やるつもりもない。
だから率直に言ってやった。
「あんた、見る目ないな」
「……はい?」
こんな反応は初めてだったのか、女が笑顔のまま固まった。
気の毒だなと思わないわけでもないが、やりたくもないことを引き受けるのはごめんだ。
「俺は勇者なんかやらない」
「……あ、自信がないんですね。でも大丈夫です。勇者に必要な資質や才能はこちらで用意しておきましたから! あなたは思う存分に世界を救ってくれればいーんです!」
「そうじゃない。俺は、勇者なんて興味ないし、世界を救う気もない。勇者にするならもっと違う人間を選ぶべきだったな」
そう言い切ると、またしても女は固まった。今度は流石に笑顔も消えている。
この女――っていうかほぼ確実に女神だが――の機嫌を損ねたらどうなってしまうのか、考えなかったわけじゃない。でも、俺は今さっき死んだところだし、もう一度死んだって別にどうとも思わない。
そこまで覚悟していたが、女はなおも食い下がった。
「いいんですか? 今この瞬間にも、地上界ではあなたと同じ人間が魔王軍の侵攻により傷つき苦しんでいるんですよ? あなたなら、彼らを救えるんですよ!」
「知らないな」
「なっ……」
「他人がどうなろうが知ったことじゃない。俺は頼まれたって救世主だの勇者だのにはならない。分かるか?」
すると、女の顔から表情がストンと抜け落ち、機械のような声で話し出した。
「理解しました。では、あなたは処分します」
「殺すのか? いいだろう、やれよ」
「いいえ、私にその権限はありませんので。あなたには勇者の資格を剥奪した上で地上界に転生してもらいます」
おっと、想定外の方向だ。
「そうですね。あなたは下を向いて穴掘りでもしているのがお似合いでしょう。さようなら」
直後、女もろとも景色が消え去り……気付くと俺は、見知らぬ部屋に立っていた。
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