いつも同じ夢を見ていた
真兎颯也
第1話
最近、同じ夢ばかり見る。
男の人と一緒にいる夢。
狭い室内に二人きり。私は彼と向かい合って座っていた。
彼は本を読んでいて、顔が見えない。
でも、知っている人のような気がした。
夢の中の私はその人の名前を呼ぼうと口を開く。
――そこでいつも目が覚める。
結局、その人がどんな名前のどんな人なのかさっぱりわからないまま。
目を開ければ、もはや見なれた白い天井が目に入る。
ベット上の身を起こし、窓の外を眺める。
風が茶色になってしまった木の葉を散らしていた。
「アイヴィーさん、おはようございます」
白いナース服の女性が、いつも通りの時間にやってくる。
今日も、いつも通りの日常が始まる。
私はどうやら、交通事故に遭ったらしい。
らしい、というのは覚えていないからだ。
私には事故の半年前からの記憶が無い。具体的に言えば、高校入学から今に至るまでの記憶が無い。
新たに始まる高校生活に期待を膨らましていたのに、高校生活がもう半年も過ぎていたなんて。
なんて、最初はショックを受けたけど、高校で新しくできた友人達が今までの思い出を教えてくれたから、最近はそんなショックも薄れていた。
だけど、ある友人に会った時、妙なことを言われた。
「元気になって良かったよ。……最近のメル、沈んでたからさ」
「え?」
「ほら、あの日以来……」
「ちょっと、それ以上は……せっかく忘れてるみたいだし」
「あ……そうだね」
友人は何か言おうとしていたけど、もう1人の友人に止められていた。
“せっかく忘れてるみたいだし”って……まるで、忘れた方がいいような言い方をされて、気にならないわけがない。
「あの日って?」
「ううん、なんでもないの」
でも、問い詰めてもそれ以上は話してくれなかった。
――そうだ。その日以来、あの夢を見るようになったんだ。
もしかして、あれはただの夢じゃなくて、私が忘れた記憶の中にあったものなの?
思い出そうとして、酷い頭痛に襲われた。
何とかナースコールを押したものの、看護師さんに介抱される羽目になった。
何かを思い出そうとすると頭が痛む。
それは、私が思い出したくないから?
今日も、高校でできた友人だという人達がやってきた。
彼女らを見ても、やっぱり何も思い出せない。
夢で見たあの場所も、あの人も、思い出すことは出来なかった。
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