夢死(ゆめし)

峰ひろ

第1話

 

= ボウリング場で頭を打って死ぬ =



どうやらこれが俺の死に方らしい。



俺の名前は峰ひろし、男、35歳、A型。

東京に上京してきて15年、

ミュージシャンになりたくてバンド活動やら何やらしてきたけど、

音楽仲間に逃げられて、活動できなくなり、今は何もしていない。

だらだらバイトして稼いだ金を家賃にあてる毎日をただただ過ごしている。


もちろんそんな生活だから高い家賃のマンションなぞ住めるはずもなく、

ボロいアパート暮らしだ。家賃35000円、1K、風呂なし、洗濯機は外、

雨が降れば雨音がうるさくておちおち寝られない、そんな生活。


バンド活動をしなくなってからは何もすることが無く、寝てばかりだ。

夜、眠りにつくと半年ほど前から毎日のように同じ夢を見るようになった。

その夢の中で俺はボウリングをしている。

俺はボウルを投げる、コケる、頭を打つ、死ぬ。


半年間、ほぼ毎日この同じ夢を見てる。

始めは『嫌な夢を見たな~』で済ませていたが

さすがに数十回も同じ夢を見ると、

俺の死に方が『ボウリング場で頭を打って死ぬ』という死に方なのではないか?

と、思えるようになってきた。


俺はボウリングなんかほぼしたことない。

高校の時に友達と行ったことがあるくらいで、俺の趣味でもない。

なんで夢の中でボウリング場にいるのか、

なんでボウリングをすることになったのか、

夢の中の状況なので手がかりが何もない。



俺は新聞配達のアルバイトをしている。

新聞を配達をしている時は一人だし、

その新聞販売の営業所では会話をする人もほぼいない。彼女もいない。

つまり、俺は今、人とのつながりが無い。一言も言葉を話さない日がほとんどだ。


そんな生活をしてるからなのか、

なぜ自分がボウリングをすることになるのかが不思議だ。

誰かにボウリングに誘われるのか?

はたまた自分が何となくボウリングがしたくなって1人でボウリング場に行くのか?


…いやいや、まず『ボウリング場で頭を打って死ぬ』というのは

俺の夢の中の話であって、実際にそうなるのかもわからない。

しかし、アルバイトだけの退屈な日々を過ごしていると、

その夢のことが頭から離れない。




…数日後、その日は急にやってきた。

バイト先の新聞販売店でいつものように仕事を終えると店長が俺に声をかけてきた。



『峰くーん、

 今度うちの店のメンバーでボウリング大会するから、来てね~

 強制参加だから』



…これか、これの夢だったのか。強制参加っていうのが実にリアルだ。

その強制参加のボウリング大会で俺は転んで、頭を打って、死ぬのか。


これだけわかりやすい予知夢はないだろう。

俺はそのボウリング大会に行かなければ死ぬことなく生きていくことができる!

死ぬことを回避できる!







…しかし、なぜか今、俺はボウリング場にいる。

俺は今まさに1投目のボウルを投げようとしてる。

なんでこのボウリング大会をバックレなかったんだろう?

なんで死ぬかもしれないのにボウリング大会に参加してしまったんだろう?



俺はどうにでもなれ!と思いながらレーンにボウルを投げた!



…判定はストライク、俺自身は転んでもいない。

後ろを振り向くと新聞販売店の方々が俺のストライクを見てはしゃいでいる。

店長がハイタッチを求めてくる。俺は人生で初めてのハイタッチをした。

いやいや、そんな事はどうでもいい。俺は死んでいない。


その後も俺は順調にスコアを重ねて、俺はそのボウリング大会で優勝してしまった。スコアは152、ものすごいスコアでもないらしい。

優勝賞品は5000円の買い物券だった。

第2ゲームをやるのかと思ったらゲームは1ゲームだけで、

店長は『2次会に行くぞー!』と騒いでいる。

俺は流れで2次会にも参加して、居酒屋で軽く食べて飲んで帰ってきた。


…俺は生きている。何だったんだあの夢は、

そうか!未来が変わったのか!

俺はボウリング大会で死ぬはずだったが未来が変わって、

少し楽しいだけのボウリング大会に変わったのか!

良かった。そしてその日は解放されたかのように眠りについた。

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