3-2

 それから私は毎日毎日練習!

 場所はアパートの裏にある秘密体育館。広さはドッジのコート二つ分。いつ私が記憶を取り戻してもいいように作っていたらしい。

「行くよ!」

 私は相手コートの海道君にボールを投げつけた。軽々と受け止められる。

「リーダー狙いは読まれやすい!」

 海道君はすぐさま投げ返してきた。私の味方ドッジロイドに。

 今、私と海道君は練習試合の最中。それぞれドッジロイドを何人も引き連れている。

 狙われた味方ドッジロイドはボールを取ろうとした。でも、足の辺りに当てられてアウト。

「次のお題だ」

 海道君がいうと、当てられたドッジロイドはポケットから出した紙切れを私に渡した。

「今度は何……最近のうれしかったこと?」

 これはヒミツバクロドッジ。リーダーの秘密に関する質問メモをメンバーが持っていて、当てられたらリーダーは正直に暴露しないといけない。答えられなかったら負け。

 外野に出たら復活なし。リーダーが当てられたら即負けで、秘密を全部いわないといけない。

 他にもプールドッジとか鉄球ドッジとかやった。この体育館には練習道具がたくさんあって、上の階にはプールまで……私が忘れっぱなしだったらムダになっちゃっていたよ。

 他にもいろいろなルールで試合してきた。大仁君からいわれた大会に向けての練習だ。

 トンデモドッジには数え切れないくらいのルールがあって、どれをさせられるかわからない。今のうちにたくさんやっておこうってわけ。

「さあ、いえ」

 海道君、私がお姫様だっていったときは超丁寧だったけど、今はすっかり元どおりのぶっきらぼう。どうして極端しかないのか。

「えっと、今日の給食がおいしかった」

 ブー!

 コートのわきに置いてある機械からブザーが鳴った。海道君が鼻で笑う。

「嘘をついてもわかるといったはずだ」

 私は体操服の胸もとに付けたブローチみたいなものを見下ろした。小さいけど、心臓のリズムが微妙に変化したとか感知する。スポーツで動き回っていて心臓が鳴りまくっているはずなのにわかるんだから、すごい技術なのかも。

「……ここの人が、親切にしてくれること」

 今度は鳴らない。照れがあるからだまっておきたかったんだけど。

 今もコートのわきにメイドさんが何人かひかえていて、練習の合間にタオルを渡してくれたり。

 ありがたいけど、反応に困る部分もある。話していると、言葉の端々に「王国に帰ろう」って雰囲気がただようし……私、もう何年もお城から離れて暮らしていたし。そもそも、姫って呼ばれるのも昔はそうされていたって思い出したけどしっくり来ない。

 秘密を無理やりいわされて腹立つ! 今度こそ当ててやる! 私はボールをすぐさま海道君たちに投げた――と見せかけて外野にパス。外野にいた味方ドッジロイドが海道君たちを狙って投げる! 残念、海道君に受け止められた。

 海道君が狙ってきたのは私! 投げたボールに結構勢いがある!

 前までの私ならひるんでしまっていた。でも今は違う。ボールをがっしり受け止めた。

「リーダー狙いは読まれやすいんでしょ?」

 すぐさま投げ返す。海道君たちによけられてしまったけど。

 記憶が戻ってから、私はボールを投げられても固まったりしなくなった。

 お陰で普通にドッジができる! 昼休みにドッジをしたとき、「どうして急にうまくなったの?」っておどろかれた。

 いいことばっかりじゃない。ツグミちゃんが、あれからずっと休んでいる。

 ツグミちゃんの家まで様子を見に行きたい。でも海道君に「絶対罠がある」と止められている。ツグミちゃんがいないのに大仁君は出てきているから、余計にいらつく。

 私や親の正体のことをおじいちゃんとおばあちゃんに話したときは、困ってしまったっけ。二人はケガの後遺症が消えたことを喜んでくれたけど、「普通の子として育ってほしかった」なんていいながらさみしそうにしてもいた。

 私の戸惑いが伝わっちゃったのか、味方ドッジロイドの一人がボールを当てられてしまった。ポケットから取り出した紙切れには。

「やりたいことや夢……アイス食べたい」

 ブー! ああもう!

「自分のドッジチームを作りたい! ユニフォームとかも自分たちで考えたい!」

 やっぱり鳴らない。いうのはずかしいのに!

 私、普通に試合できるならチームも作れるはず。そうだとしても、いきなり堂々と胸を張れるわけじゃない。

 このルール、当てられたら当てられただけ動揺してしまって不利になる。しばらく投げ合った後、またうちのドッジロイドが当てられた。メモに書いてあったお題は。

「腹が立ったこと? 親がドッジ王国の話とか秘密をいっぱい持ってたこと!」

 私は大きな声で答えた。今度は鳴らない。

 正体のことはお父さんとお母さんにも電話でいった。二人は、思い出してくれてよかったとかだまっていてごめんねとかいってきた。

 それはいいけど、元大臣や大仁君の話をした後ですぐさま返した答えはこれ。


「がんばれ」


 娘の嫁入りがかかっている(しかも相手はムカツク大仁君)のに、いうことはそれだけか!

 私はムカッと来て勢いが出たお陰か、今度は敵ドッジロイドに当てることができた。

「さあ、いってもらいましょうか!」

 私はニコニコしながら海道君のそばまで行った。受け取ったメモをのぞく。

「やりたいことや夢、だって! さっきの私と同じ! ほら海道君!」

「ぼくはココを守る。どんな手を使ってでも」

 海道君がサラッといって、ブザーは鳴らない。

 海道君はすごく冷静な顔で、はずかしがらない。こっちの方がはずかしくなってくる。

 そういえば、大仁君たちのことを聞いたお父さんたちはこんなこともいっていたっけ。


「大変かもしれないけど、ココにはココの仲間がいるから大丈夫」


 仲間って、海道君のこと? 相変わらず何を考えているのかわからないんですけど!

 ちなみに、クラスのみんなには王国のことを話していない。いえないよ、こんな嘘みたいな話。

 これからどうなる? 変なドッジをするだけなら気楽なのに、大変なことまで起きるなんて。

「姫!」

 体育館にマオさんが駆け込んできた。あわてた顔で、手紙を持っている。

「ドラ息子からです!」

 来た! 私は、ぎりっと歯を食いしばった。

 大仁君が優勝したら、私は嫁入り決定。そんなの嫌だけど、ツグミちゃんを助けたい。

 ツグミちゃんは大事な友だちだし、私のドッジチームに入ってほしい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る