つっこめ! トンデモドッジ

大葉よしはる

つっこめ! トンデモドッジ

プロローグ

夢の中の私

 私、羽場心湖はばここがよく見る夢は二つある。

 一つはいい夢で、もう一つは嫌な夢。その夜はいい方だった。

 私自身は小五の今よりも小さな姿。

 すぐそばには、かよっている小学校よりずっと大きな建物。白くて、高い塔が付いていて、おとぎ話に出てくるお城みたい。

 私がいる場所も、きれいな花が咲き乱れる庭園。着ている服も、すそが足首まで届くドレス。

「ココ」

 私を呼ぶ声に振り返ると、お父さんとお母さんがいた。二人とも海外で働いていて、会えるのは年末年始くらい。

 一緒に暮らしているおじいちゃんとおばあちゃんは私に優しくしてくれるけど、やっぱりお父さんとお母さんに会えないのはさみしい。だから私はこの夢を見るのが楽しみ。

 帰ってくるときのお父さんとお母さんは、スーツやワンピースを着ている。でも夢に出てくるときは、宝石がちりばめられた服を着て王冠をかぶった姿。

「ココ、一緒に遊ぼう」

「何がいい?」

 二人がニコニコしながら問いかけてきて、私はすぐに答えた。

「ドッジボール!」

 私が一番好きなスポーツ、または遊びだ。得意なのかっていわれるとうなずけないのが残念。

 ドレスとか着てドッジをやるのは変。私たち三人だけじゃただの投げっこになる。それでもお母さんは笑顔でうなずいた。

 お父さんは、もうボールを持っていた。妙にゴツゴツしたボールを。

「じゃあ、今日はだよ。上手にやる方法は、前に教えたね?」

 アルマジロって、背中がゴツゴツしていて丸くなる動物? お父さんが持っているボール、丸くなったアルマジロ?

 そんなのでドッジするわけないでしょ! でも、幼い私ははしゃいでいた。

「ボールを取るコツもわかっているかい? ボールの正面に回ることだよ。その方がかえって怖くないから」

 お父さんは私から離れて、ボールを構える。

「ほら、行くよ!」

 お父さんがボールを投げた。私はいわれたとおりボールの正面に立つ。腰を落として、受け止める体勢はバッチリ。

 ただ、ボールは予想以上に勢いがあった。

 バギン!

 私の顔に衝撃。

 辺りが真っ白になった。何も見えない。

 私は立っている? 倒れている? それすらわからない。お父さんとお母さんのあせった声が聞こえるけど、だんだん薄れていく。

 これが、いつも見るいい夢の結末。こんな感じじゃなかったら、もっといい夢なのに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る