第25話 アホ淫魔、初めての労働!#3

 そういうわけで、私は今、玲緒奈の家で料理を作ってるわ。

 私? ルフィーナよ。キョーヤの出番はもう終わり。ここからは私が主人公よ!


 ここで働きだして今日で3日。この家のキッチンにも慣れてきたところよ。でもここにいると、実家を思い出すから嫌なのよね。

「まぁ、こんなところかしらね」

 ピカピカに磨いたシンクを見て、私は頷く。やっぱり美味しい料理はきれいな場所で作らないとね。

 今日の仕事も終わり帰ろうとした時、玄関で帰って来た玲緒奈と出くわした。コートに帽子、眼鏡をかけ、この時期にしては暑そうな格好をしている。

 学校帰りではないのは分かっているわ。ここ最近、玲緒奈は毎日、どこかに出かけているみたい。

「おかえりなさいませ、お嬢さま」

「その言葉遣いはやめるよう言いましたのに」

 頭を下げると、玲緒奈は戸惑ったように言った。

「そういうわけには参りません。今の関係は、主人と使用人ですから」

 公私混同はよくないと神山さんにも言われたしね。

「……お疲れ様、ルフィーナさん」

「失礼いたします」


 陽が沈みかけている住宅街を歩く。早く帰らないと。お腹をすかせたキョーヤが待ってるわ!

「ただいまー!」

 ドアノブにかかった回覧板を手に、玄関に入る。

「おかえり――いてて」

 出迎えたキョーヤは痛みに顔をしかめながら歩いてくる。

「大丈夫?」

「ただの筋肉痛だ」

 キョーヤもがんばってるのね。

「昨日は激しかったものね」

「何言ってんだ……」

 ツッコミにも勢いがないなんて、本当に疲れてるみたい。

「マッサージしてあげる」

「お前のマッサージとか信用できないんだが」

 失礼ね。

「私だってマッサージくらいちゃんとできるわよ」

 キョーヤはしばらく迷った末、

「じゃあ、頼む」

 と言って、リビングのソファに横になった――。



「あなたのここ、すごく硬くなってるわ」

 髪をかき上げ、私は優しく撫でながら囁く。彼は私に撫でられるたびに、快楽を吐き出すように息を漏らす。

 いつも見ているが、こうして触ってみると意外と太く、そして逞しい。

「ルフィーナ、すげぇ気持ちいい」

「でしょう? 私の得意分野だもの。次はここをこうして……」

 うおっ、とキョーヤが驚いた声を上げた。

「気持ちいでしょう?」

「あぁ、最高だ」

 彼は緩みきった顔で答える。当然よ、私はサキュバスだもの。

「それじゃこっちのほうも――」

「おいちょっと待て」

 キョーヤのスウェットに手をかけた私を、彼は起き上がって制止した。

「何よ。これからがいいところなのに」

「何よじゃねぇよ。せっかくまともなマッサージだと思って安心してたのに!」

「よくあるじゃない。マッサージしてるうちにセックスしだすAV、あれと同じよ」

「同じにするな!」

 はぁー。分かってないわね。

 やれやれと肩をすくめた私に、キョーヤは若干むかついたように意味を問うてきた。

「きっと読者はこのくだりを、どうせマッサージだろうって思ってるはずよ。でもその予想を裏切って、実は本当にヤッてました! ってしたら面白いでしょう?」

「出版できなくなっちゃうだろうが! そういうのは同人に任せておけばいいんだよ!」

 真面目ねぇ。

 マッサージは十分だと言ったキョーヤは、回覧板を見て驚いた声を上げた。


「これ見てみろ」

 見せてきたのは露出狂の注意ポスター。意外なのはそれが男でなく女だということ。玲緒奈といい、この街には変態が多いわね。淫魔として感激しちゃうわ。

 コート、眼鏡、帽子。そして長い金髪。

「どこかで見た格好ねぇ……」

 思い出すのは簡単だった。

「これ、玲緒奈にそっくりじゃない」 

 あの子ったら、ついに一線を越えてしまったのね……。

「本当にやってるなら早く止めねぇと」

 キョーヤが深刻そうに言った。

「でも、どうやって止める気? 直接訊いてもきっと否定されるわよ」

「何とかして現場を押さえねぇとな。でもどうすっか。ずっと見張るわけもいかないし……」

 見張る――それだわ!

「ここは私に任せてちょうだい」

「お前に? じゃあ、頼んだ」

 と言いつつ、不安そうなのは私の気のせいかしら。

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