霊的シンギュラリティ

映国紳士

第1話 AIアシスタント

 穂坂直義ほさかなおよし。Y社、チーフエンジニア。

 渡された名刺にはそう書かれていた。目の前に座っている、三十代前半ぐらいのひょろりと背の高い色白の男だ。

 Y社と言えば、ここT市に本社を構える国際的IT企業だ。そんな大企業の人間が私たちオカルト愛好会に相談があるというのだから驚いた。

 彼は上着の内ポケットからスマートフォンを取り出し、「マリア、みんなに自己紹介してくれ」とそれに向かって喋りかけた。

「私は穂坂さんのAIアシスタント、マリアと申します。よろしくお願いします」

 たどたどしくも艶っぽい声が携帯電話から返ってくる。

「今日ここに来たのは、これに関することなんです」

「イーアスですか」と私が訊くと、久坂くさか先輩は素っ頓狂な声を上げた。

「イーアス?」

「え、先輩もしかして知らないんですか。iias、インタラクティブ・インテリジェント・アシスタント・システムの略で、検索エンジンなどで有名なG社が開発したパーソナルAIアシスタントですよ。人の声に反応して様々なサポートをしてくれるんです」

「うーん、僕はこういうの疎いからなあ。釘田くぎたさんも使ってるのかい?」

 先輩は頭をぼりぼりと掻きながら私に訊いた。

「使ってますよ。すごく便利で、最近この手のものが流行ってるんです」

「イーアスの最大の特徴はね、ユーザーに合わせてカスタマイズできるところでして、例えば、名前や声も自由に変えられるんです。私のマリアは子供時代に飼っていた猫の名前で、声はオードリー・ヘップバーンです。実は昔から好きで――」

 ちなみに私の場合、名前も声も彼氏のもので登録している。

「そのイーアスがどうかしたのですか?」

「ああ、それが私ではなくて、ある友人の話なんです。これが信じられないような内容なんですけどね……あ、その前に――」

 と、穂坂はスマートフォンの電源を消した。そして私たちにも同様に電源を消すよう云った。

 なぜだろうと訝しむも、彼は「念のために」とだけしか云わない。その真意を図りかねたが、私たちはとりあえず彼の云う通りにした。

 それを確認した穂坂は、近角英一ちかずみえいいちという友人の話をつらつらと語りはじめた。

 本当に俄かには信じがたい、そして奇妙で不気味な話を――。


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