夢幻世界の現実世界

ポンコツ・サイシン

プロローグ

プロローグ




 堤防の上を制服姿で自転車を押しながら、高校生の少年はふと空模様が気になった。

 振り仰いで天空を凝視する。

「どうしたの?」

 先に進んでいた少女が少年の傍に寄りつつそう呼び止める。

「何となく、誰かが見てるんじゃないかって思ってさ」

 空を見上げたまま少年はそう言った。

「厨二的な?」少女は怪訝な面持ちだった。

「いや……。気のせいだろう……」

 大空は雲で淀んでいた。びっしりと曇天に覆われた天気は、何となく気分を憂鬱にさせる。

 少年の感覚で言えば、この雲の天井が、自分たちを見下ろしているということだろうか。

 誰も見ていない――。少年のみならず一般的な考え方としたら、それが妥当だろう。

 少年はもう一度、空を振り仰いだ。

 太陽の光が、雲間から微かに滲むように差していた。


 地下施設へと続く入り口から、爆炎が勢いよく迸った。

 一面、雪と氷の世界――。

 そこで、ある一つの戦闘が終わろうとしていた。

「敵本部を制圧しました」

 軍服を纏った兵士が、テント内の上官に敬礼しつつそう報告した。

 上官は、了解、と敬礼を返すと、味方の本部に携帯端末で連絡した。

「テロリストの本部を制圧した。そっちの方はどうだ?」

「一旦鎮まったようね。こちらの攻めが効いてるみたい……」

 電話口で話すのは、柔らかな声質の女性だった。

 上官が、そいつはよかった……と言いかけたところで、電話の相手の声が一変した。

「そんな……。このままじゃまずいわ……」

「どうした?」

「勢いが衰えたかに見えたけれど、どうやらまた巻き返してきたみたい」

「そんな……。敵は間違いなく制圧したぞ?」

「制圧しても、こっちはまだ勢いがある……。これってもしや……」

 電話で応対していた女性の声がひどく怯えた。

「ウイルスの暴走!?」

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