第2夜 島民 二ノ宮リノ

 バサバササ――……


 風圧に目を細めるボンド。それでも、箒の勢いは止めずに降りて行く。

「あの光りはなんだったんだ??」

 ようやく地面が見え来て、魔力をセーブをするも。

「???? ぁ、あれれ????」

 全く、箒が速度スピードを緩めてくれない。まるで、これは《暴走》である。手に余る速度に、ようやくボンドも狼狽えたのが――そんなのはあとの祭りだ。


 勢いそのまんまに、地面アスファルトと砂利の上に転がり落ちてしまった。態勢も整えることも出来なかったボンドも蹲ってしまう程に、痛みに声を失ってしまう。しかし、人狼の治癒力は人並み以上に高く。血も、傷もすぐに癒えた。

 残るのは痛覚で、無くなることはない。


「っつぅうう~~っ!」


 身体を起こし、立ち上がろうとしたボンド。

 顔を真っ直ぐに上げると――


 巨大な蜘蛛が数体とうろついていた。


「っな、なんだ。……ありゃあ」と茫然と呟くと蜘蛛がボンドを視界に捉えた。ゆっくりと、徐々に早く向かって来た。

 目は真っ赤に、暗闇の中に光っている。宙から見た、赤い光りの犯人は、この蜘蛛たちであった。

「にゃろう! 《円人類ウロボロタルト》の力を見せてやるぜっ!」

 ボンドは杖を構えたのだが、だ。


「???? ぁ、あれれ~~????」


 全く、杖に魔力が充電も放出もされない。

 しないどころか――前兆もない。


「っな、なんでだよ?!」とボンドも杖を振った。

 しかし、うんともすんとも反応はない。

 徐々に沸き上がる恐怖と、向かって来る巨大な蜘蛛に。

 成す術もないボンド。


 だが。次の瞬間。


 バッキ――ンッッッッッ‼ ×3


 巨大な蜘蛛たちが地面に沈んだ。

 それに膝の折れたボンドも腰を地面に崩してしまう。


「っはぁー~~……」


「大丈夫なの!?」


 真っ暗な中で、少女の声がボンドに声をかけた。

 そして、ぐしゃぐしゃと蜘蛛を踏みつけて来る音が鳴る。


「ぉ、おかげさんで」


「よっと!」と飛び降りる少女を、ボンドの眼が捉えた。

 手には金属シャベルが握られ、それは彼女の身長以上に長い狂器モノだ。

 色素の薄い茶色い髪は肩まであり、左右を赤いリボンで縛っている。

「あんた。島民じゃないわね? 見ない顔だわ」

「ぁ、ああ。そうだけど」

「ふぅ~~ん? じゃあ、蜘蛛に食べれないようにしなさいよ?」と身体を翻した彼女に、

「っちょっと! 待ってくんない?!」

 ボンドも立ち上がり、腕を掴んで引き留めた。

「何?」

「何? じゃねぇって!」

「助けてあげたんだから。あとは自分でどうにかしなさいよ」

 腕を掃い、行こうとする彼女の前に先回りしてボンドも立ちはだかる。


「俺ぁ! この島の異変に気がついて降りて来た魔法使い見習いの剣ボンドだっ!」


 ボンドの自己紹介に彼女も、口をへの字にさせた。

 しかし、吹き出して笑った。


「あたしは二ノ宮リノよ」


「リノ」


「じゃあね! ボンド君」と肩を叩き行ってしまうとするリノに、ボンドも箒を持ち、彼女のあとを追った。

 どうして巨大な蜘蛛がいるのか、この島に何が起こっているのかが。

 堪らなく知りたかったというのもあるのだが。

 魔力のなくなってしまった以上、1人ではいられない。


「この島に何が起こっていやがるのかを教えろよっ‼」


 

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