銀のシャベルと少女

ちさここはる

第1夜 日本狼の人狼と足下の孤島

 バサバサ――……


『「少しばかり風は強いですが。皆さん、飛ばされない様に気をつけて下さい」』


 そう話すのは30人以上の魔女見習いを引率する教師、ミザリア=バカラムである。齢400を超えるもののしわの1つもない、最上級クラスの魔女だ。

 長い赤毛に尖った鼻先と顎。長い睫毛と藍色の瞳は吊り上がっている。

 各々が箒に跨り二列に並び宙を舞う。

 彼女たちが向かうのは《円人類ウロボロタルト》が住む世界である。

 もっと、詳しく適切に言うのであれば、だ。


 超越した厳選された《遺伝子》と《輪廻》の人類が永遠と暮らす《楽園アッパー》への居住を許可された子供たちが向かっているのである。


 数多いのは《純潔種マシュホワ

 次いで、希少種とされ。蔑まされる。

混血種クロマクロ》の二種民族。


『「きちんと魔力を箒に注ぎ込み。調節をしながら奔って下さいね」』


 希少種の《混血種》は《隔世遺伝型》と《純潔種》と一般人種との《神半神人アッチャブル》とさらに別れており。

 最も、魔力が未知数であり安定性が無いのが後者の《神半神人》である。


「「「難しいですぅ~~先生ェー~~」」」と泣き言を漏らすのも。

《神半神人》の子供たちであるのは言うまでもないだろう。

 そんな子供たちの特徴は、多くの大半が《女の子》であるという点である。

 しかし、この列の中には――唯一にも異端の子と呼ばれる男の子の《剣ボンド》も箒に跨っていた。


 父親が日本狼で人狼、母親が西洋の魔女の間に産まれたボンド。

 結果として《純潔種》に近い《神半神人》の《混血種》となったのだ。


 吊り上がった赤い目と、赤茶の短い髪を風になびかせて。

 見下ろす先には――日本領土の孤島が映し出されていた。


「ボンド君って、日本の血統種でしょ~~? 今、その領域を飛んでるわけだけどぉ~~懐かしかったりするのかなぁ~~??」


 ボンドの横に箒をつけて意地悪く言う少女。


「っあ! っごっめぇ~~んンん‼ 母国から逃げたから祖国なんかじゃないのかぁ~~♡」


「だから、何?」とボンドも素っ気なく返したのが、少女の癪にも触れて眉間にしわを寄せることになった。真顔で杖を取り出し、先端に光りを灯す少女。

 そんな彼女に、

『「ミランダ。選ばれた者同士での諍いは禁止をされていますよ」』

 ミザリアが口を挟んだ。もしも、ここでやりあえば引率者の責任問題にもなるからである。

『「《人類ヒューマタルト》に堕ちたいのですか?」』

 淡々と、ミランダに脳内で語りかける彼女の声。ボンドや、他の生徒の頭の中にも響いていて、ある種のさらし者である。

 ミランダも身体を小刻みに揺らし、ボンドの横から離れた。


『「では。学校につくまでの間に初歩的な授業を行いましょう」』


 バサ――……


 バサバササ――……


『「《円人類》と《人類》は戦えません。一体、何故どうしてでしょうか?」』


「はい!」と真っ黒い髪と真っ白髪の半々の少女が手を挙げた。

「《円人類》と《人類》は元は一組の祖であり。争えない呪いを受けていて、魔力と魔力と血の反発を遭い、食べられ効かないからでっす!」

 つらつらと教科書で覚えた文章を吐き出した。

 それにミザリアが両手を上げると。彼女の周りに鐘が浮かんで鳴った。


『「《人類》には魔力を無効化にする魔力と血があるからですね。よって、わたくしたちが一緒に住むことは出来ないのです。むしろ、一緒に住めば《円人類》の私たちは弱体化し、《劣等生ムシケラ》以下になってしまうということです」』


 ミザリアの脳内授業よりもボンドは足元の島が気になった。

 授業どころではなく。《人狼》の眼や鼻が嗅ぐのだ。

 違和感と予見を。本能が奔れと促す。


「先生? 島が、……赤いぜ?」


「? ああ。そのようですね」


 ボンドの横に、ミザリアがつく。

 唯一の男の子であるボンドは、他の誰よりも価値があり。

 ミザリアにも責任があり、警戒をしなければならない。子供は気まぐれで、それを抑えるという魔法力を買われて、この今回の引率の授業を任されたのであるから。


「俺、見て来る!」


「!? ボンド君ンんっっっっ‼」


 勢いよく箒を下に向けて落下して行ってしまったボンドに。

 ミザリアも、ほんの少し顔色を変えたが。彼を特別扱いをすれば、この場にいる魔女見習い29人の彼女たちを、こんな場所で放置となってしまう。

 すでにいないボンドの背中。

 彼女は――


「行きましょう、皆さん。どうせすぐに戻って来るでしょう」


 《楽園》へと向かうことにせざるを得なかった。


 すぐに帰って来る、と予想したミザリアを他所に。

 ボンドが、列に戻ることはなかった。


 


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