【第二部】第一章「葛西 迅助(かさい じんすけ)」
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俺はこの数日、ある男とやり取りをしていた。「葛西 迅助(かさい じんすけ)」と名乗る、還暦過ぎの男だった。以前付き合いのあった、「鷹山さんご夫妻」が霧前市の楼雀(ロウザク)組となぜか繋がりがあり、俺の事情を聞き、「楼雀組の頭領の男」を紹介してくれたのだ。いい顔をしていなかったのだけれど、相談してみろって。
十四代目の浅葱 京介(あさぎ きょうすけ)さんは、義理人情に厚い人だった。俺のことを最後まで止めていたのだが、俺の硬い決心に根負けした。「お前、仕返しなんてどうかと思うぜ。俺は最後まで止めたからな。それにこれから紹介する男も、正直言って危険な男だ。お前みたいなひょろひょろの甘ちゃんがどうこうできる問題じゃないと思うぞ」と。
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「おう、ボウズ、来たか?嬉しいぜ」
「……」
「なんだよ、暗い顔しやがって。お前、これじゃあ、女にモテねぇぞ!」
迅助はケラケラ笑った。キセルに、甚平、草履と言う和装で、白髪交じりの印象だったが、無邪気で幼い印象を受けた。それはもう玩具で遊ぶ男子のような、少年のような印象だった。少なくとも、俺にはそう見えた。
「こりゃあ、訳アリだな。話してみろ」
「俺を……詐欺師にしてください!」
「はぁ?お前みたいな尻の青いのが、帰れ帰れ!」
迅助は俺をあしらった。しかし、俺はアタッシュケースに詰め込んだ「一億円」を彼に見せると、表情が明らかに変わった。
「俺の、俺の……全ての財産です。俺は……株が好きで、ずっと貯めてきました。復讐したい奴がいるんです!」
迅助に、あまりごちゃごちゃ言っている余裕はなかった。俺はそれくらい焦っていたのだ。
「お前に『全てを手放してた』としても、そいつに対して報復する覚悟があるのか?……学歴も、貯金も、家族も全て捨てても。もう戻れないんだぞ」
「……はい。……俺のことは『のそ』って呼んでください」
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