【第一部】第三章「ペットショップ『サトウ』の風景」



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 「ふう、食った食った。ってか苦しい」


 十時回ったころ、犬司はお腹を擦りながら、パソコンの前に座っていた。自室に帰ったのち、カンタに覆いをかけると、パソコンの前に座った。そして、ふとあることを思った。


 「ミサキチの幼少期からの喘息、高校になってから収まったと思ってたけど、薬飲んでたんだよなぁ。触れなかったけど」


 食後に欠かさず薬を飲んでいる美咲の様子を改めて思い出す犬司。少し席を外して、吸入器も使っていたようだった。そして気を取り直し、少しインコの飼い方を調べようと、美咲のサイトを見ながらいろいろこの先のことを準備してみようと思ったのだ。




 「さて、カンタちゃんの飼い方は……っと」


 慣れた手つきで、閲覧をすると、出てくる飼い方をメモに取る。


 「なになに、『チョコレート』『ニラ』『コーヒー』などは与えてはいけない。日光をしっかりと浴びさせること」


 犬司は勉強になるなぁと思いつつ進める。クロがやってきて、足に擦り寄ったので腿の上に乗せた。


 「お前も可愛いなぁ。お前も大事にしてるもんな」


 「にゃー」


 クロは嬉しそうに鳴いた。犬司は少しスクロールすると、「ペット専用質問版」と言う投稿形式の掲示板を見かける。ずらっと並んだペットごとのやり取り。美咲の努力の甲斐があったようで着実に訪問する常連は来ているようだ。その中で、ひときわ目を引くスレッドがあったので犬司は不審に思った。




 「『悪徳ブリーダーを叩き出せ!』なんだ?このタイトル」


 「投稿主:カヤ 9月20日 時刻23時59分」怪しいタイトルの内容。中身は訴え叫ぶような口調で書かれた悲痛の情報だった。美咲は管理人として見栄えも配慮し、何度か投稿主に警告の返信をしていたが、消える形跡が無く、取り消し線の上書きが重ねられている。


 内容はこうだった。




 今、悪徳ブリーダーが日本にも蔓延しています。ブリーダーとはペットショップにペットを売買する人で、様々な動物には様々なブリーダーがいます。インコにハムスター、犬や猫、特殊な小動物に至るまで、ペットとして飼われる動物には殆どブリーダーがいます。


イギリスやドイツなどのペット先進国には、ブリーダーやペットショップがありません。命を売買したり、売れ残りが出るのを防ぐためです。




 しかし、ペットを入手するにはどうしたらよいでしょうか?


 答えは里親になればいいのです。里親になることで飼い主同士の信用も得られるし、捨て犬や捨て猫を防ぐことが出来ます。


 雄には去勢、雌には避妊の手術も行い、無駄に妊娠もさせません。よく「動物がかわいそう」と言う人も居ますが、そっちの方がかわいそうなのです。


 さて、ここからが本題です。悪徳ブリーダーと言うのは劣悪な動物を売って得をしている人のことです。動物に何回も出産させ、母親を死なせたり、子どもを劣化させたり、血縁関係に当たる動物で交配させたり。売れ残った動物を残虐に処分したりするブリーダーもいます。そんな粗悪な動物がペットショップに出回って買う人が居ます。そして動物には後々先天性の病気が見つかり苦労を強いられるのです……(以下略)




 犬司は息を呑んでこの記事を見ていた。美咲が消そうとするのも無理はないだろう。サイトに対して内容が過激すぎるのだ。そのまま犬司は布団に入るも、なかなか寝付けずにいたようだ。




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 数日後。美咲は少し寝不足気味で、目元にクマをつくりながら登校してきた。


 「おはよー。ふわぁあ」


 大きな欠伸をする美咲。犬司はその理由を聞いてみた。


 「どした?めっちゃ眠そうにしてるけど」


 「……ん?わたし?ん、大丈夫。ただ、ちょっと昨日眠れなくてね。嫌なもの見てしまったから」


多分、あれだろうな。犬司は美咲のサイトの「投稿主:カヤ」の文章を思い出していた。少し美咲の調子が心配だったが、犬司はそのまま話を続けた。


 「あ、そうそう。お前のサイト見て、あらかた見当がついたから、少し『サトウ』に買い物に行ってカンタの道具を買おうと思ってた。少し一緒にどうかな?」


 「あ、行く行く!絶対行く!ごめん、ちょっと咳出そう」


 「落ち着け。……な?」


 元気がなさそうに見えた美咲に再び元気が出たようだ。




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 ここはペットショップ「サトウ」。動物たちがひしめき合う素敵な場所だ。今日も店主誠一さんの朝は早い。


 「ちわーっす!今回も質のいいの揃えましたよ!」


 「うん、元気でいいね!毛づやや目の輝きがとってもいい」


 業者さんが手際よくゲージに動物を移していく。このペットショップでは本当に信用できるブリーダーからしか入荷しない。犬に猫、カメに文鳥……今回も豊富なラインナップだ。




 十時回ると、年齢は六十代の白髪交じりの女性が店に入ってきた。小ぎれいにしており、一般社会では「マダム」とか「セレブ」という名の付くような、富豪のご婦人のようだ。そして、ご婦人は言った。


 「誠一さん、私が注文した『ゴールデンチェリー・コザクラインコ』は届いてますかしら?」


 「ああ、奥様。お待ちしておりました。孵卵器でちょうど帰ったばかりの雄のインコです。結構入手が大変でしたよ」


 誠一さんは奥からインコを持ってくるとマダムに見せた。


 「あら、可愛い。これは誠一さんにお願いして正解でしたわ。おほほ」


 「恐れ入ります。では、お支払いの方はどうなさいますか?」


 「これでお願いします」


 ご婦人はブラックカードを財布から取り出すと、誠一さんに渡した。そして、大事そうにインコを抱えるとそのまま、店を出ていった。




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 誠一さんはゲージの掃除をしたり、動物にご飯をあげたり、時々客の応対をしながら、せわしなく動いていた。時刻は18時を回るころ、興奮気味の女の子と穏やかな男の子が入ってくる。


「いらっしゃい。またきてくれてうれしいよ」




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 「ねぇ、犬司、結構買い込んだね。シードにサプリメント、おもちゃに止まり木、ヒーターとキャリーケースも。今月の出費はこれで三万円超しちゃったね」


 「お前の動物好きがうつったのかもな」


 すっかりうすっぺらくなった財布をひらひらさせながら、犬司は笑っている。しかし、内心かなり心が痛い。


 「家族はなんか言ってた?」


 「うん、そうね。うちのお袋なんか、あまりの愛らしさにここ二、三日部屋に来ては様子を見に来てるよ。俺よりジャンキーかも知れん」


 「あの眞子(まこ)さんがねー。結構怖そうに見えるのにね」


 「ホントな。最初、朝見せたとき、めっちゃ怒られたんだよ。お小遣い無駄に使うなって。面倒見れるのか!って。でも、今では一番家族の中でメロメロかもしれない。俺もそのうち動画撮るかも」


 「うん、その時は見せて。めっちゃ楽しみ!」


 そう言って二人は分かれ、別々の場所に帰った。

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