ゲスの極みの睡眠アルバイトは子供まで
ちびまるフォイ
昔から睡眠不足だったんです
うちはもともと2人兄弟だったらしい。
らしい、というのは兄は赤ちゃんのときに死んだらしい。生まれる前のことだ。
その影響なのか親は家に帰らず仕事といって家を空けがちになり、
たまに顔を合わせても「お小遣いくれ」とは言いづらかった。
多感な高校生の時期にすでに金欠にあえいでいた俺に
割のいいバイトが見つかったのは願ってもないことだった。
「ね、寝るだけでお金がもらえる!? 最高かよ!!」
もともと、いくら寝ても寝たり無い俺にぴったり。
すぐにバイト先に連絡すると、小さな機械と男が送られてきた。
「その機械を体のどこかに取り付けてください」
「発信機とかですか」
「いえ、睡眠吸収機です」
「治験とか想像してたんだけど……まあいいか」
見づらい鎖骨あたりに機械を取り付けた。
「これから、あなたは誰かの睡眠負債時間を消費してください。
たくさん消費するほど、バイト代が高くなります」
男はカタログを見せた。そこには登録者の顔と名前と睡眠負債時間が書かれている。
長い負債時間を満たせば、それなりのバイト報酬が入ってくる。
「ようは、寝続ければ良いんですよね?」
「そうです」
「まかせてください。布団さえあればいつでもどこでも、いくらでも寝られます!」
睡眠バイトが始まった。
さっそく布団につくと開始3秒で眠ってしまう。
目を覚ますと、あまり寝た気がしなかった。
「おっかしいなぁ。かなりの時間寝たのに、疲れも取れていない……?
まあ、バイト代入るからいいか」
簡単に攻略できる睡眠負債時間をクリアすると、報酬が渡された。
「山田様の睡眠負債の完済ありがとうございます。
こちらが、今回の睡眠バイト報酬です」
「すっげぇ! 寝ただけなのに! こんなにも!?」
「それでは失礼します」
「あちょっと!」
思わず呼び止めてしまう。
「あの、この機械をつけてから、いつも以上に寝た気がしないんですが。
コレって人体に害はないんですよね」
「無いです。ただ、あなたが睡眠負債を消費している時間は
あなたの体は寝ていない状態になります。
つまり、誰かの睡眠を肩代わりしているから、疲れは取れないんですよ」
「な、なるほど……」
「続けますか?」
「もちろん!」
今度はもっと大物の睡眠負債時間を選択した。
ノルマ達成のために、来る日も来る日も寝まくった。
しかし、それもすっかり限界が来てしまった。
「ダメだ……寝すぎて、もう全然寝れない……」
他人ぶんの睡眠時間を肩代わりして眠っているので、疲れは取れない。
でも、寝てはいるので眠気は取れてしまう。
体は疲れているのに、目だけパッチリという悪循環。
バイトには制限期間があるので、毎日ちょっとずつ寝てノルマ達成とはいかない。
24時間のうち、どれだけを睡眠時間に費やせるかの勝負になる。
「そうだ! 飯を食べれば眠くなるはず!!」
稼いだお金を使い切らない程度に食べものを買い込みくらいまくる。
すると、狙い通り食べ物の消化に合わせて眠気が襲ってきた。
食べ物作戦がうまくいき、なんとかギリギリで睡眠完遂に成功。
「お疲れ様でした。佐藤様の睡眠負債を完済です。
こちらが、今回の睡眠バイト報酬です」
「それじゃ次は……」
「そろそろ休んだほうがいいのでは?
他人の睡眠を肩代わりしすぎて、
あなた自身の睡眠をとってないじゃないですか」
「いえ、休むわけにはいきません。
ちょうど無理矢理にでも眠るコツがわかってきたので……」
より高額な人を選択し、また眠りについた。
すでに食べ物作戦も機能し始めなくなっていた。
寝て起きた後にすぐ食事を取れるわけもなく、
かといって眠れもしないので悶々とした時間がすぎるばかり。
「やばい……あと10日で完済するには、
毎日22時間以上の睡眠が必要になるから……。
トイレの時間を10分にしてそれで……食事が2分で……」
徐々にバイト期限が迫ってスケジュールが破綻し始める。
眠れるまでの時間を最短にするため、協力な睡眠薬を持ってきた。
「よ、よし、これで眠れるはず……!!」
禁止されている睡眠薬の連続服用で一気にノルマ達成へとスパートをかけた。
およそ10回目の服用時だった。
「あれ……おかしいぞ……な、なんだこれ……」
睡眠薬による眠気とは別の感覚が体を襲った。
そして、そのまま眠るように意識を失った。
目を覚ますと、病院のベッドに寝かされていた。
「気が付きましたか、よかったですね。
あなたはずっと昏睡状態だったんですよ」
ベッド脇に立つ医者は安心したように伝えた。
「昏睡状態……。あ、睡眠は!?」
あわてて周りを見ると、ベッド脇には書き置きとバイト代が支給されていた。
>多重返済防止の為、あなたの装置1つを回収しました。
>今回の睡眠バイト報酬です
「よかった……昏睡状態も睡眠に入ってたんだ」
「君、昏睡状態から復帰してお金の心配するなんて。
もうちょっと体を考えなさい。下手をすれば一生昏睡状態だったんだよ。
体ができているから良かったが、乳幼児なら死んでいる量だ」
「すみません、今後は睡眠薬の連続服用はやめます……」
体を壊してバイト代を稼いでも入院したら元も子もない。
今回の一件で大いに反省した。
「睡眠薬? なにを言っとるんだね」
「え? だって、俺は睡眠薬を飲みまくったから昏睡状態になったんでしょう」
「ちがう。君の昏睡の原因は、体に入れられた劇薬によるものだ。
自殺かなにか知らないが、命をもっと大事にしなさい」
「劇薬って……」
まるで身に覚えがない。
「ああ、保護者の方が来たようだから、失礼するよ」
医者と入れ違いに親が病室に入ってきた。
親はいったいどこからそんな金があるのか、高級品で身を固めていた。
「なんだ、起きちゃったのね。もっと眠っていればお金入ったのに。
お兄ちゃんと同じ量だとずっと昏睡にはならないのね。残念」
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