エンドロール
地面に着地する。バランスを崩してお互いの頭がゴンっとぶつかった。痛みに
俺たちのステッキからは極太の龍のような
けれどその威力は想像をはるかに超えていた。爺ちゃんたちは一体…。
ピシっという音がした。握っていたステッキに
俺と香奈はカラカラと崩れ落ちるそれを、ただ呆然と見ているしかなかった。
二人で目を合わせる。いつのまにか香奈の格好も元の姿に戻っている。魔法は解けてしまった。
爺ちゃんたちが倒れているのが目に入った。
「おじいちゃん!!おばあちゃん!!!」
香奈が手を離して一目散に駆け寄った。
全員見た目はもう元の姿に戻っている。
爺ちゃんが握っていた魔法少女ステッキは、真っ二つに割れて地面の上に転がっていた。
「おじいちゃん大丈夫?」
「おお、香奈。ここは一体」
「
「何が…あったんじゃ…」
変身していた間の記憶は残っていないらしい。
婆ちゃんとクロも目を覚ましはじめる。よかった無事みたいだ。
体を起こした爺ちゃんが近くに落ちているステッキを見て何かを察した。
「わしが、あれに取り
「ああ、急に爺ちゃんが変身しちまって…。それで俺と香奈の二人で壊したんだ、あのステッキを。けど、封印のステッキもバラバラになっちまった」
俺は粉々になった封印のステッキの方を指差した。
「いいんじゃ…これがあるべき姿。代々うちの家系がやろうとして出来なかったことじゃ。よくやってくれた」
爺ちゃんはどこか切なそうな表情で、壊れたステッキ達を見つめながらそう言った。
「クロとおばあちゃんまで変になっちゃって…あの力って…」
香奈が爺ちゃんに尋ねる。
「うむ、それついて先に話をしておくべきじゃった。あのステッキの名はフレンドリィといって、一人きりで闘う宿命を背負った魔法少女の悲しみが詰まっておった」
「悲しみ…仲間が…欲しかったってこと?」
「そうじゃな。それもただの仲間ではない、共に戦ってくれる魔法少女としての仲間じゃ…」
それであんな力が…。
俺はその魔法少女が一体どんな子だったのかは知る由もない。けれど『魔法少女という人には言えない秘密』を抱えているという点では少しだけ気持ちが分かるような気がした。ほんの少しだけれど。
昇り始めた夏の太陽と、少しづつ呼応するセミの合唱が夜の終わりを告げ始めた。
終わったんだ。そう思った。
その時、沈黙を破って幼さの混じる女の子の声が聞こえきた。
「最悪、日本中いや世界中の人間が魔法少女にされておったかもしれん、まったく、危機一髪じゃった」
「そんな俺の生きる目標をゾンビみたいに言うな!…ってこの声は…」
どこか聞き覚えのある声。
「ここじゃここ」
ぴょこんとお座りしているクロの方向から聞こえてくる。
俺の耳がおかしくなければ、木でできたあの封印のステッキから聞こえてきた、あいつの声だ。
「お前!今までどこに…それにバラバラになって、死んだんじゃ…」
「勝手に殺すでない。まあ厳密にはもう死んでおるがの」
俺たちが変身した途端、急に喋らなくなって、そして今度はクロに乗り移っている。こいつ何者なんだ。
「おぬしらの力がわしの予想をはるかに上回っておった。ステッキが崩壊せんよう維持するので精一杯だったのじゃ。この犬っころのおかげで助かったわい」
「お前一体…」
聞きたいことが山ほどある。でも一番知りたいのはこいつの正体だ。
「カレン。花に恋すると書いて
「あの、伝説の…」
爺ちゃんが反応した。
「ジジイは知っておるようじゃの。でもまずはそこの塔矢と香奈に…」
話を
「クロが喋っとる。不思議なこともあるもんじゃ。爺さん、テレビに出れる!テレビに出れる!」
「こ、こら!撫でるでない!そんなところ触ったら、ひゃぁ…いやっ…おぬしら!このババアをなんとかせい!!!」
即順応している婆ちゃんの天然ぶりに少し唖然とした。まあ、爺ちゃん(魔法少女)を目の前にしても一切動じてなかったし。肝が座っているというか何というか。
興奮気味の婆ちゃんの手から抜け出して、この花恋とかいう俺たちのご先祖は話を続けた。
「はぁ…はぁ…まったく、なんじゃこの体は…。それはそうと、安心するのはまだ早いぞ、おぬしら」
「まだ早いって…」
これ以上何があるんだ?フレンドリィとかいうステッキは真っ二つになって、封印のステッキもバラバラに砕けた。
もう何も残っていない。
「今回の件、誰かが意図的に起こした可能性がある」
「意図的に…」
「見たところジジイの魔法少女
「一体誰が…」
「まだ分からん。そやつが何を引き起こそうとしているかもな。じゃが、魔法少女の絶大な力、それを悪用しようとする者が現れても不思議ではない」
確かに偶然にしては出来すぎている気はする。俺と香奈がここに来たタイミングでいきなり爺ちゃんが暴走するなんて。
「こうなった以上残りのステッキの封印も確認せねばならん」
「え?」
今なんて言ったこいつ。『残りのステッキ』って言ったぞ。
香奈もそうだが爺ちゃんも驚きで目を見開いている。
「まあ、ジジイが知らんのも無理はない。実は良からぬ力を持った魔法少女ステッキはまだある」
「ま、まじかよ…」
「うむ。九条家だけで全てを抱えるのは危険と判断し、別々の地で守る事にしたのじゃ。悪しき者の耳に入らんよう、ごく限られた者しか知らんよう隠してな…」
おいおい嫌な予感がするんだが。香奈に蹴られた時のスネの痛みが鈍くぶり返してきた。
「もしかして…また、変身しなきゃいけないの…」
頬をひくつかせながら香奈が喋る。
「うむ。塔矢と香奈には特別な力がある。おぬしらであれば今回のように封印を超えてステッキを成仏させる事もできるじゃろう」
「嘘でしょ…大体…なんであんな格好…」
「魔法少女を想う『心』は塔矢に受け継がれて、変身する『力』は香奈に受け継がれておる。魔法少女とは心で描き、力で変身するものじゃ。どちらが欠けても力は発揮できん。しかしまずは、おぬしらの新しいステッキを調達せねばならん。これから忙しくなるぞ」
香奈の頬が徐々に赤く染まり、手がぷるぷると震えだした。
これは悪い夢だ。俺の体はまだ布団の中にあって今もうなされてるはずなんだ、きっと。そして隣で寝ている香奈が『うるさい!』と言って俺の頭をひっぱたく。それで目が覚める、はずだ。まったく、寝る前にあんな話を聞かされたからこんなことに…。なあ香奈、早く起こしてくれよ…。
現実逃避しかけた俺の頭に、香奈とぶつけた時の
香奈の叫びが山に響き渡った。
「魔法少女なんてもういやああああああああああ!!!!!!」
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