はしら

マンアナ

第1話 秋

俺は三浦たかし、29歳

来年で30歳になる

周りはみんな働き盛り、もちろん俺も働き盛り

働くという事はお金を稼ぐって事だ お金を稼ぐという事はお金を使うという事だ

そこが周りと俺の違う所

俺には金はあっても使う事がない

酒もタバコもやらない 芸術もスポーツも何にも興味がない 実家に住んでいて食費光熱費も掛からない

そして恋愛もしない

だが俺は至って普通だ 卑屈でもなければ楽観的でもない

別に普通なんだ あんな事にならなければ普通に悩んでその内お見合いでもして いい出会いがあって 40歳くらいには子供も出来ていたかもしれない

しかしあんな事になってしまった

どういうわけかアレが細くなっている気がする

ジンジンと夜、天井を見上げてウトウトするとこみ上げてくる成長期の懐かしい切なさ

俺はてっきり太くなるのかと思った 太くなったって見せる事も喜ばれる事も無いのだから気にする事もなく日常を過ごして一ヶ月

おかしくないか?

気付いたのは寒い夜だった

いつもよりスレンダーに伸びる尿線 中一の感覚 オナニーを知らない時代 寒い冬の夜 塾の帰りに雪原にしたあの尿 あの尿の感覚がふと甦り絶句

雪原に尿の後が黄色く残る その日も寒い夜だった 中一から住んでる家も変わらない あの時代と同じ寒さが肌を突く

細くなってないか?

ミケランジェロの魂 ミケランジェロの彫像が美しいとされる共通認識の世界

それは文明以来2018年の歴史の中で誰もが認める常識

男は男として逞しい事が素敵なのだ

恥も外聞も捨てよう 俺は童貞だ

今まで童貞で何が悪いと思って生きてきた

実際に何も悪い事はないし特別コンプレックスもなかったつもりだが今思えば恥ずかしいとは思っていた

職場でも交友関係でも俺を童貞だと知っている者は少ないだろう 勘付いてる者はいるかもしれないが

俺は隠してきた 知らせる必要もないのだから

だがこのままどんどん痩せて針金みたいに細い一物になってしまってはどうしようと

どうしようもない妄想が膨らみ不安になった

30の男が下の相談をするのは非常に擦り切れる思いである

親には絶対言えない 病院か?

泌尿器科か? まず何が原因なんだ なんで細くなる必要がある? 細くなるついでに短くなったりするの?

どんどん気弱になる 眠れなくなり寒い夜が明けた

明く朝 俺はいつも通り食パンをほおばりTVを見る

とりあえず朝になってしまえば平気だ 痛みもないし30で女性関係もなければ頭のおかしい夜もある いつもどおりに職場に向かおう

職場に向かえば何事もいつも通りだ いつも通りのはずなんだ

俺は家の玄関を開けた

朝の光のまぶしさが目に沁みる

寝不足だ 寝不足で頭が痛い

電車に揺られる 息苦しい 人の缶詰 人が大勢真空パック状態

つまらない日は心の中で歌を歌う

「真空パック状態 枕投げ大会 MIXI退会大会爽快 それでも憂鬱柳ユーレイ ゴーウェイ エブリデイ 住民税♪」

駅に着いたら小便するのが俺の日課だ

「君は何かね!」

白髪の男が話しかけてきた・・・




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る