夢見銃
パノキチ
死別
「なんでみんな笑ってないの?笑ってよ!」
私の妹、白(シロ)は現実から逃避するように叫ぶ。
それが今でも私の頭の中に響いている。
この世に神様がいるのなら、どうしてこんな残酷な結末を私たちに与えたのだろう?
私の手に握られているのは一つの拳銃。
デザインはごく一般的なハンドガンといったところだ。
しかし、この拳銃には不思議な力があるという。
なんでも心の底から憎いと思ってる人を銃殺することで、何でも願い事が叶うらしい。
どうして私がこれを持っているのか。
それを話すためにはまず、過去の話をしなくてはならない。
それはもう10年も前になる。
私がまだ7歳と幼かった頃。
白は当時6歳だ。
私たちには1人の兄がいた。
12歳と少し歳の離れた兄貴だった。
私たち3人はとても仲が良かった。
毎日のように外に出ては騒がしく遊びに耽る毎日だった。
よくやる遊びは昆虫採集。
とても女の子とは思えない遊びではあるが、当時の私たちにはそれが一番楽しかった。
毎回捕まえてくる昆虫を最初に決めて、一番良さげなヤツを捕まえたら勝ちだった。
その良さげなっていう曖昧な基準を議論するのがとても楽しい。
そして、とある事件が起きる。
いつものように3人で外に集まる。
「よっしゃ!白!茜!今回は何を捕まえよっか?」
「カブト虫!」
白はパッと手を挙げて答えた。
「カブト虫ぃ?そんなん今の時間見つかるもんかねぇ?」
それを見て兄貴は少し、目を細めながら腕組みをしていた。
「あたしはカマキリが良いと思うわ。」
私は私の意見をとりあえず言ってみる。
別に捕まえる虫にこだわりなんて一切ないのだが、兄貴が困ってるようだったので、助け舟を出したつもりだった。
「お、カマキリかー……白、そっちにしない?」
「お兄ちゃんが良いなら良いよー。」
「んじゃ決まりだな!」
兄貴は拳と掌を合わせてやる気に満ち溢れた表情をしていた。
「やるよー!」
白も元気に兄貴の真似をしていた。
「今日も負けないわよ!」
それに同調するように私も元気に声を出していた。
そして、みんなでそれぞれの場所へと駆け出していく。
私は近くの草原へ、兄貴は林の方へ、そして白は工事現場の方へ。
必死になって草をかき分けて探す。
カマキリと言っても種類はいっぱいある。
とりあえず大きさという意味で見るなら、オオカマキリを捕まえることが妥当な判断だろう。
だけど、私は違う。
私が探すのはハナカマキリ。
大きさよりも芸術点を狙っていく。
大きさで自分が一番だと議論するのは少しリスクがある。
それは他の人が自分よりも一回り大きいカマキリを捕まえてきた時にぐうの音も出なくなってしまうリスク。
とりあえず口喧嘩まで持っていくには基準を曖昧にしていかなければいけない。
それを考えてのハナカマキリ狙いだった。
しかし……
「み、見つからない……。」
花に擬態をしているものだろうと、目を凝らしていたのだが、ここまで見つけたカマキリはオオカマキリとコカマキリ。
どうにも味気ない。
大きさも然程大きくない。
さてどうしたものか……
ふと、道路の方へと目をやる。
そして、私は見つけたのだった。
「こ、これしかないわ。」
私はすぐにそのカマキリを虫かごの中へと放り込む。
そして、足早と元々居た場所へと戻る。
制限時間は基本的に1時間となっているため、少し時間が押してきている。
「おっ、遅いじゃん。」
「あ、あたしが最後…?」
「いんや、白がまだ。」
「あ、そ……。」
時計を確認する。
開始から50分。
あと10分程度でタイムオーバーだ。
白も相当苦戦を強いられているのだろう。
そう思い、私たちは少し談笑しながら待った。
が
「おっせえな白のやつ。」
「そうね。」
それから20分経過したのだが、白が帰ってこない。
「見にいくか。」
「うん。」
心配だし、何かあってもいけないので、私たちは白が向かった工事現場へと足を運んだ。
「おーい!白!もう時間だぞー!」
兄貴が大声で白を呼ぶ。
「ま、待ってー!あと…あと少し……なの!」
という声だけが聞こえてきた。
「もう!タイムオーバーよ!し……ろ……?」
声のした方へいち早く向かって見た先で白は居た。
たしかにそこに。
明らかに側で重機が動いているくぼみのところに。
「ちょ!ちょっと!何やってるのよ!」
私は叫びながら考える。
なんで白があんなところに!?
工事の人や警備員は何をやってるの!?
死角に入り込んでしまったのだろう。
誰一人として気づいているものはいなかった。
どうする?助けるしか…でもどうやって?私の足じゃ絶対に届かない。
重機が横へスライドし始めるのが見えた。
重機って横にも動くの!?
白は必死にどこかへと手を伸ばしていて気づいてない。
「取れた!」
おそらくそこに居たであろうカマキリを取ってカゴに入れる姿が見える。
その瞬間。
「白ぉ!!!」
グシャ…と踏み潰したのだ。
「え?」
兄貴を……
信じられないことが目の前で起きていた。
兄貴はあの一瞬で私の横から飛び出て、白を突き飛ばしていた。
自分は重機の下敷きになってしまうのに。
「……いや…いやぁぁぁぁ!!」
重機の下から赤い液体が滲み出てくるのが見える。
「何?どうしたの?」
白は何がなんだか分からない様子でキョトンとしていた。
その異様な光景と私の叫び声で流石に事態に気付いた作業員達が慌てているのが見える。
私はその場にへたり込んでいた。
このまま兄貴がいなくなってしまう。
そんな現実から全てを投げ出すかのように、ボーッとしていた。
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