第18話 「渡り廊下で再会です」

 皆が色とりどりのケーキを囲んでわいわい会話を続ける中、俺の携帯にはメッセージの着信があったようでポケットのなかでブルブルと鳴った。


 五十嵐さんだろうか?と思い確認すると今朝彼女が言っていたリストが送られてきていた。

 素早くお礼を送信する。他にも仕事はあるだろうに有り難いことだ。

 真帆さんにもメッセージでリストアップしてもらったことを伝え、帰ったら二人で確認してみようということになった。


 「真帆ちゃんか?」

 「そうだが」


 隆臣が俺の様子に気がついて声をかけてきた。からかう気満々な声音だった。


 「真帆ちゃんって、もしかして天宮のお嬢様? 前に祐太郎、同族嫌悪って言ってなかったっけ?」


 大鷹がチーズケーキを頬張りながら不思議そうに聞いてくる。そうだ、高校一年のときはまだそうだったな。

 主に前世を思い出したせいだが、思わぬところでこれまでとは多くのことが変わってしまったように思う。


 「今は違うんだ」 


 彼らに全て説明するのは骨が折れるので、これ以上聞いてくれるなという雰囲気でため息をついた。


 「そうそう祐太郎いま真帆ちゃん溺愛中だからさぁ」


 隆臣が片手でハートマークを作りながら、ショートケーキの苺を刺したフォークを指揮を振るかのように動かしている。行儀が悪い。

 聡は黙々もそもそとチョコレートケーキを食べている。


 「なにがあったんだかねぇ」

 「そのうち聞かせて」

 「……頑張れよ」


 「ああ。有り難う」


 ブーブーと文句を垂れるのは大鷹だけで、他の三人は生暖かい視線を送ってきた。

 なんだかんだと良い友人だと思う。


 隆臣と大鷹は一人で三つもケーキを平らげ、俺はなんだか見ているだけで胃もたれした気がする。その点若者の食欲はとんでもないななどと思うのだった。

 しかし先程ひとくち貰ったシフォンケーキは甘さも控えめでほんのりとした紅茶の香りが上品で旨かった。学食のケーキもなかなかだとは思う。



 ***



 学食から教室へ戻るため廊下を連れ立って歩く。この渡り廊下は中庭の上で校舎を渡す位置にあり、窓が広くとても明るい。

 ちなみにここは二階なので出入り口はないのだが、この下の階は直接中庭に出られるようになっていて実に開放的な造りだ。


 この時間行き交う生徒はあまりおらず、向こうまでよく見える。渡り廊下の向こうから歩いて来る人物に大鷹が目ざとく反応して俺を小突いた。


 「祐太郎、天宮のお嬢さんだ」

 「お前遠くのことまで把握できてすごいよな」


 俺は本当に感心してそう言ったのだが、周りがそうは捉えず大鷹をからかい始めた。


 「おーたかは野生児だからな!」

 「成美は昔から野生児。肌も子供の時から褐色だし。視力も8くらいある」

 「それマジなんか?」

 「ふふん。俺ってば勉学もできるし身体能力も高くてどうしような……」


 大鷹はノリがよく、さらにすぐ調子に乗るので俺はそんな彼を放っておくことにした。


 「真帆さん!」

 「あっ祐太郎さん! こんなところでお会いできるなんて!」

 「ですね。嬉しいです」

 「私もです」


 声をかけて近寄ると、真帆さんもこちらに小走りで寄ってきてくれた。

 二人でにこにこして和やかに二人だけの空気を作っていると、俺と真帆さんの後ろからそれぞれの友人たちが追い付いてきた。


 「あ、会長先輩だ」

 「……」


 真帆さんと連れ立って歩いていたのは艶やかなピンクアッシュな髪の少女と暗い紫の髪色でパッツンでオカッパの男だった。

 そう、ヒロインの夏目楓とあの時それを追いかけていた男だ。なぜ真帆さんと一緒に?


 「先輩、先日は本当に失礼しました」

 「いや気にしないで。真帆さんから聞いてるよ。ところで……」


 俺はちらりと隣の男を見る。


 「追いかけっこは終わったのかな?」


 笑みを浮かべながら聞くと、夏目さんはあはは……とわらいながらあたまの後ろを触った。


 「このオカッパとは実はあのとき喧嘩をしてまして……真帆ちゃんのお陰で仲直りできたんです」


 ほう……真帆さんに目線をやると「関わっちゃいました……」と口パクで伝えてきた。


 

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