第11話 「燕尾服です」

 俺たちは食事を終え部屋に戻った。するとちょうど二人分の教科書の類いが部屋に届けられており、家主不在時に重い荷物の搬入がされるのは有り難い反面、行動を把握されているような気がして少しもやもやとする。


 やっぱり監視カメラや集音機器があると考えるのが自然。なので実は夕食前に素早くカメラの位置だけは確認していたのだった。


 「祐太郎さん、この後はどうされますか?」

 「明日の準備を終わらせて入浴するだけですが、何か気がかりでも?」

 「いえあのですね……せっかく祐太郎さんとご一緒なので、もう少し一緒に……」


 真帆さんはそこまでいうと声を小さくしてうつむいてしまった。良かった、もちろん俺だってそのつもりだ。


 「ホットミルクでも入れましょうか。少し待っていていただけますか?」

 「はい……! 私も何か」


 言い募る真帆さんに人差し指を立てて黙らせ、スマホに素早く『おそらく天宮の監視がありますから』と打ち込んで真帆さんにだけ見えるようにこっそりと読ませた。

 この角度ならカメラには映ることはない。


 「有り難う御座います。でも執事の仕事を俺にもさせてください」

 「……執事」


 彼女は目を見開き、それからこくりと頷いた。

 どうせ見られているなら、執事として動くところも見せなくてはね。



 ***


 「本当にあの祐太郎さんが執事として働いていらっしゃる……」

 「何でも申し付けてください」

 「滅相もない! 見ているだけで目眩が……う」


 丁寧に真帆さんの前にホットミルクを置くと、真帆さんはくらっとした動作をしてソファに倒れ混んだ。


 「どうされました?」

 「どうって……祐太郎さん執事服似合いすぎます! すっごくお似合いです」


 ハァ~と手を合わせて拝まれてしまった。

 「全然違和感がない、というか格好良すぎて心臓が痛いです……」と小さく溢しているのを聞き、変だという訳ではなさそうで安心した。

 俺はいま執事がよく着ている描写がされるタイプの燕尾服を着ている。

 天宮家が用意した物だそうだが、真帆さんはそれを知らなかったらしく着て出ていくと大層驚いていた。


 「そうは言ってもゲームのイラストでもご覧になっていたのでは?」

 「ゲームのイラストとはまた違いますよ! 私とこうして仲良くしてくださってるのは現実の祐太郎さんですし、思いも募れば見る目も欲目も三割増し、いや十割増し、それ以上です!」

 「へぇ、それは嬉しいですね」


 嬉しい。だらしなくにやけてはいないだろうかと顔面を引き締める。


 「写真、撮らせてもらってもいいですか……? 絶対に誰かにみせたりネットにあげたりしません!」

 「構いませんよ。俺で良ければ」

 「有り難う御座います!」


 そうして怒濤のシャッター音が鳴り、真帆さんはそれから十分は撮影を続けた。

 様々なアングルから撮る真帆さんだが、もしかして前世の彼女はコスプレ系統に造詣深い人物だったのだろうか。

 そんな焦らなくても別に執事服は逃げないのだが。


 「今の困った顔レアすぎです……しんどい……」

 「はい?」

 「い、いえ、なんでも!」



 ***



 「そうだ、写真と言えばですね」


 突如開催された撮影会は終わり、ふたりで夕食後のゆったりとした時間を楽しみながら話している時、真帆さんは思い出したように声を上げた。


 「インステやツミッター等で、祐太郎さんのファンアカウントが結構出てきてるみたいなんです」

 「ファンアカウント?」


 元来SNSは少々疎く、用語がよくわからないでいる俺に真帆さんによる説明が始まった。

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