第11話幸福な登校

 山田直樹は他の男子生徒たちと比べて一歩も二歩も前進していた。

 だが、直樹は他の生徒たちに助言を授ける暇など無い。

 時間は万人に等しく流れる。

 時は流れるのだから、男子生徒たちを相手にアドバンテージを誇るよりも、ソフィアと過ごす事に時間を費やす方が直樹にとって遥かに重要だ。

 昨夜、直樹はソフィアにメールを送り、一緒に登校してほしいと頼んだ。

 そしてソフィアはそれを快諾し、直樹はソフィアの住むマンションへと足を運んできた。



「お待たせっ!」


 マンションの前で待つ直樹に、ゲートから姿を現したソフィアが声をかけた。


「おはよう」


 直樹は挨拶をした。


「おはよう!」


 ソフィアも挨拶を返す。


「待った?」


「うん、三十分ぐらい」


 直樹は正直に言った。


「そ、そっか、ごめんね」


「俺が、少しでも早くソフィアさんに会いたかったし、少しでもソフィアさんの近くにいたかっただけだから」


 直樹は正直に言った。

 直樹の言葉にソフィアは頬をほんのりと赤く染める。


「それじゃあ、行こうか!」


 ソフィアは元気良く言った。


「うん!」


 直樹も快活に答える。

 直樹とソフィアは並んで歩き出す。



 その姿は道行く人々の目を引いた。

 とくに空蝉高校の男子生徒の目を。


「あいつ、誰だっけ」


「D組の奴じゃね?」


「いや、D組にはいねえよ」


「そっか、クラス再編したんだ」


 などと男子生徒達は話す。

 そして声には出さなかったが、皆は皆、羨ましい!と思った。


「それでね、今朝は」


 ソフィアは今朝の出来事を話す。


「そうなんだ」


 直樹はソフィアの話に耳を傾け相槌を打つ

 嘗てない幸福な登校時間だった。



 ≪学校≫



 学校に到着し、直樹とソフィアは同じクラスに行く。

 そして隣同士の席に着く。

 直樹は幸福の絶頂にいた。

 ソフィアの青い目。

 ソフィアの金色の髪。

 ソフィアの白く透明感のある肌。

 ソフィアの桃色の唇から紡がれる声。

 ソフィアの青い目が自分を見て、ソフィアの声が自分に語りかける。

 それが直樹の心を遍く包み込む、満たした。

 今まで心に空いていた穴が塞がったのだ。

 ソフィアの掌のマシュマロのような肌触りを自分だけが知っている。

 抱擁された時に耳元で囁かれた温もりを帯びた吐息を自分だけが知っているのだ。

 それは優越感では無い。

 安心感。そして癒し。





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