第165話
俺は白月に向かって尋ねる。
「白月。お前はさっき、『いつかこの関係が終わりを迎えて、また1人になってしまったときのことを考えると、怖くて怖くてたまらない』と、そう言ったな」
白月は小さく頷いて言う。
「……人との関係は、作るよりも続ける方がずっと難しい。私はそれをよく知っている。5年後、10年後、ひょっとしたら1年後には今の関係が壊れてしまっているかもしれない。そう考えると、怖くて怖くてどうしようもないの。……だから私はそうなる前に、あなたたちとの関係を自らの手で断ち切ろうと、そう覚悟した! それなのに皇くんは……!!」
白月はそれに続く言葉を口には出さなかったが、俺には何が言いたかったのかよく理解できた。
彼女が発する一言一言は、どれも俺の心を強く揺さぶる。それは時に痛みを伴うけれど、俺にはその痛みさえも、心地の良いものに思えてならなかった。
そんな俺とは違って、きっと今の白月の心には純粋な “痛み” しかないんだろう。
それなら、俺がそれを和らげてやらなくちゃならない。
こいつの心から鋭く冷たい痛みを取り払い、代わりに、俺の心に残った暖かな感情を分け与えてやろう。
俺は陽炎のように揺れ動く白月の瞳を見つめながら、言葉で彼女を包み込む。
「確かに、お前の言うことも一理ある。これから先、100%今の関係を続けていくことができるかと訊かれれば、簡単に『はい』とは答えられない。
……だけど白月。それはお前が『天才』だからってわけじゃない。お前のせいで、関係が変わっていくわけじゃないんだ。
俺たちには、未来を正確に予測する力なんて備わっていない。俺や葉原、それに輝彦や誠だってそうだ。誰だって、将来に対する不安や恐怖を少なからず抱えて生きている。
そんな、いつ関係が変わるかもわからない暗闇の中でなお、愛する人たちとの関係を続けようと、護ろうとするからこそ価値があるんだ……!」
白月は何か言いたげな表情を浮かべながらも、静かに俺の話に耳を傾け続けている。
俺はそんな白月に向けて、心に残った最後の言葉を言い放った。
「……今の話を聞いてそれでもまだ納得できないと言うのなら、俺が世界で唯一の、白月蒼子の理解者になってやる」
その瞬間、白月の瞳の揺らぎが消えて無くなった。夜の香りを乗せた風が、白月の髪をそっと撫でるように遠くへ吹き去っていく。
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